週末の夜は浅野と会った。
ジルは風邪をひいて自宅で眠っている。
4年前に、知人を通して浅野を紹介された。
背が高く、腕と脚が長いモデルのようだった。
長袖のシャツの柄と、黒髪のボヴカットが印象的だった。
私より4つ年上だと言う浅野の顔を見ながら、
「なんて無表情な女だろう。この顔で恋愛をするのかしら。」と、
私は初対面にしては親切でない感情を抱いたが、
その思いは、こうして現在会っても変わらない。
「相変わらずポーカーフェイスね。」私が意地悪に言うと、
「ファニーフェイスのニナさん。そのひらひらのモリナーリ、お似合いよ。」と言って、浅野は先に席についた。
今年の夏以降、浅野とは月に一、二度会うようになっていた。
来年の彼女の起業に向けて、私をパートナーにしたいという彼女の希望からだったが、女二人の仕事は上手くいかない。と私が断った。
「私たち、上手くいくと思うのに。」浅野の口癖は変わらなかったが、瞬きの少ない浅野の目がこちらに向けられることに、私はなかなか慣れることはなかった。
たいがいは、互いの近況報告や俗話しを喋る友人としての時間を過ごすことが多かった。親切でない感情を抱く慣れない相手なのに、それでも浅野は私の大切な友人の一人だった。
有名なクラブのママの誕生日に誰と誰が花を贈ったか、もちろん彼等を褒め称え、
しかし彼等の乗る車と腕時計のセンスは悪趣味だと笑った。
新しい名刺のデザインをどうするか、書店で立ち読みした黄色い表紙の名刺図鑑の中身の何枚かを紙ナプキンに書き記し、
そういえば、最近ウェブサイトを新しくしたある写真家の事務所訪問に失敗した。と話した。
関わりたくない幼稚な女のことをうんざりしながら喋り、
先月倒産した企業の固定資産の行方を知って、関係者に同情した。
料理は鰯の前菜のあと、カウンター越しにおこした炭火で帆立、鯛、貝、鰹などの焼き物。
いか墨とワタの和え物が途中で出され、
その後、自家燻製したタンのスライス、地鶏、プチトマト。全て焼く。
ひどく炭火に執心している店主に向かって、私たちはパスタをリクエストした。
店主がいくつかあげる中で、「上海ガニのトマトソース」のパスタを頼んだ。
化粧室に入った時、洗面台の正面の鏡にうつったポスターに気がついた。
ちょうど背の壁に掛けられた、大きな額に入ったそのポスターを正面に立って見た。
ジョージア・オキーフの骨の画だった。砂漠の中の骨の画。
昔、私の花の写真を見て、「ジョージア・オキーフの絵を大写しにしたの?」と言った「彼女」のことを思い出した。もう、あれから2年経つね。
店を出てから、歩いてあるビルまで向かった。
私も浅野も、以前から互いに気になっていた物件の一角を見に行く。
近くを通る度に覗いては溜息をつく、すばらしく理想の場所だった。
「テナント募集」の不動産会社の看板が外されていた。ガラスに貼られていた数枚も無くなっていた。
借り主が現れた?
しばらく浅野とそこに立ち止まったままでいたが、もとの道をまた戻り歩いた。
「来週は忙しい?」
「軽井沢へ行く」
「11月よ。」
「いいの」ジルと約束をしていた。
「私も連れていきなさい。電話するから。」
「うん 電話して」
それから、熱いコーヒーを飲むために二人で友人の店へ向かった。
浅野の背は高く、私たちは少し差のある並びで、夜中の街を歩いていった。 |