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Love sick

私はそれ(ばらの花束)を、じかに、正確に写生しようとして、細部に熱中し、ばらの花をありのままに描くことに没頭した。その結果、私はもたもたとつまずき、どこへも到達できず、最初にもっていた観念(イデー)、私を魅了したヴィジョン、つまり出発点を見失い、二度と取り戻すことができなくなってしまった。私はもう一度それを取り戻したいと思う。―うまく最初の魅惑を取り返すことができれば。
ピエール・ボナール
アンジェール・ラモットとの対話より 1943年

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2002-10-27 ボーイフレンド
2002-10-25 赤く染まる谷。


2002-10-27 ボーイフレンド

17時以降の予定を取り止め、彼に会いに行った。
18時半。久しぶりに会った彼は、疲れた顔をしていた。
充血した右目を、子どものように手で擦る。
「掻いちゃだめ。余計腫れるから。」
「うん。さっきより良くなった。」

こうしてじっと彼の顔を見ていると、胸が少し泡立った。
伸びかかった髪の、その巻毛の奥に指を挿し入れ、彼の顔を引き寄せたかった。

約束のシルバーを手渡し、軽い冗談を言い、二人で笑った。
夏に聴くはずだった曲が、初回プレス盤から流れる。
彼女の、乾いたつぶやくような声。彼がヴォリュームを少し上げた。
「夏は終わっちゃったけど。」
私のブーツは、夜中に二人で行った、デキシーダイナーの時と同じ。
店を出る頃、まだ外で並ぶ若者たちは、ストーブにあたりながら、みんな白い息を吐いていたっけ。


19時半。灯りを落とし、鍵を閉めて外へ出る。
「駅まで送れないけれど。」仕事へ戻る彼が、優しく言った。
「いい。」と私。
「それじゃあ。」
「じゃあね。」
手を軽く振って別れた。



「唇で終わらないから。」キスをしなかった彼が、後でそう言った。
こんな彼のことを、大好きだと思う。

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2002-10-25 赤く染まる谷。

ジルから電話が来ない。

週明けの午後、国道と並行する道路の信号待ちの交差点で、ジルの車とすれ違った。
彼は気がつき、こちらを見た。助手席には、彼の仕事のパートナーが同乗していた。二人がこちらを見た。
私は、助手席の不躾な視線の男に、ふんと軽くつぶやき、加速してそのまま交差点を右折した。


先週はジルと会った。
ジルは、「紅葉を見にいこう。」と言い、車で北へ向かった。
標高1750メートル。10月にしては陽射しが強く、車を降りて首に回したストールを、やはり外して手に持った。
風が吹いて、髪を崩していった。
目の前に広がる渓谷の紅葉。空とのコントラスト。
私は何度も、「きれい。」と言った。
言いながらも、色彩の感覚に飢えを感じていくのがわかった。
赤く染まる谷。
季節は既に変わっていた。


ジルは、「来年も来よう。」と、私を見てそう言った。









Love sick  ニナ


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