緊張して待っていると、奥のほうから、はさみやらブラシやら床屋の商売道具の乗っかっているワゴンをガラガラと引っ張り出してくる。
オペが始まってしまう。
切り刻まれてしまう・・・。
すると、床屋のおっさんはこう訊くのだ。
”今日はどうします?”
うわっ。
いつもこの質問で参ってしまう。
どこの部分を何センチ切って下さい、とか、カリアゲないで下さい、とか、髪の量が多いのですいて下さい、とか・・・。
何から言っていいのか迷うのと同時に自分の心の内まで読み取られそうで恐縮してしまう。
コンプレックスをアカの他人の床屋のおっさんにさらけだすようで、気がひける。
一流の料理人は客の顔色を見て、味付けを変えるという。
床屋のおっさんにもそのくらいのことをしてもらいたい。
俺の顔のつくりを見て、この顔にはこの髪型だ、と勝手に切ってもらいたい。
切られている時。
鏡に映る自分の顔は、変な顔。
お、俺、こんな変な顔で街中を歩いてるんだ・・・。
そんな錯覚に陥る。
ここで、お前の顔はお前が思ってる以上に変な顔だから心配すんな、というツッコミは無しです。
そして、床屋のおっさんは、ノベツマクナシに話しかけてくる。
しかも、俺にとってホントにどうでもいい話題で・・・。
そのたびに愛想笑いをしてしまう。
また、その愛想笑いってのが、変な顔+笑顔なので、ヒジョーにキモイ。
黙ってモクモクとジョキジョキしてもらいたい。
切り終わると洗髪です。
いったん、髪切り用のシーツみたいのを剥ぎ取られ、今度はシャンプー用のシーツみたいのに替えられる。
ちなみに、シャンプーを洗い流す時にシャワーを掛けられる体勢が仰向けタイプと前かがみタイプと床屋によってツーパターンある。
俺の行く床屋は後者である。
ここではそんなにたいした心の変化はないのだが、ひとこと言わせてもらう。
ビールっ腹には、この体勢はキツイ!
いよいよ顔剃りの時間です。
体制は仰向け。
顔に暖かいタオルを顔に掛けられると、ホッとします。(暖かいタオルだけに、ホットするなんて言いません)
瞑想に耽る自分がいます。
しかし、安堵なひとときも束の間、タオルを引っぺがされ、刃物を顔にあてられちゃうのです。
この時ばかりは床屋のおっさんも口を開きません。
なぜなら、俺は狸寝入りしているからです。
ちょっと理由が違う気もしますが、気にしないように・・・。
で、剃刀が肌にあたる度、背筋がゾクゾクしちゃいます。
ここにきて緊張度もピークに達します。
でも、狸寝入り中な俺は起きていることを悟られまいと何食わぬ顔でやりすごさなければなりません。
そして、床屋のおっさんは言うのだ。
”眉毛の下、剃りますか?”
起きてるのばれてるじゃねぇかあ!
”あ、はい、剃って下さい・・・・”
恥ずかしすぎて、赤面してる、と思う。
以上、俺なりに緊張する理由を紐解いてみたつもり。
だが、紐解いてるのではなく愚痴になっているところもある。
どこが?と聞かれたら、こう答えます。
大阪弁で・・・・・。
”そこんとこや!”
(二日も引っ張っておいて、こんなオチでいいのであろうか・・・) |