「2人ともよく聞いてくれ」
数分後、船長のトラパティウスから無線で連絡がありました。
「オリンピア号は太陽に引かれてどんどん加速している。この作業船では、もう間に合いそうにない。危険だがオリンピア号の氷の一部を爆破してコースを変えようと思う。君たちはコースの確保と太陽をすくう作業を頼む」
「船長、爆破なら俺がやりましょう」
「いや、私がやる」
「2人ともありがとう。もう交代している暇がない。すぐに爆破しなければならない。相当大きな衝撃になるはずだ。軌道の保持に全力を尽くして欲しい」
2人は、船長が作業船に乗るときからこのことを計画していたということに今、気づきました。
「了解。船長、気をつけて!」
「まかせてくれ」
ミケロディーとタマリウスは操縦席に座ってその時を待ちました。。太陽は本当にすぐそこまで迫っていて、プロミネンスの炎の腕がオリンピア号に届きそうでした。トラパティウスはマニピュレータとよばれる、作業船の腕を使って爆薬を仕掛けましたが、時間がありませんでした。彼は待避する時間も惜しんで点火ボタンを押しました。
どどどどどどどど、どどどどど、どどど、どど、ど、ど!
白い尾を引いて見事にオリンピア号の一部が吹き飛んでいきました。軽くなったオリンピア号は太陽に墜落する寸前に大きく軌道を変え、表面すれすれを飛ぶ接触軌道という理想的なコースになりました。
「タマリウス、ミケロディー! さあ、太陽をすくい取るんだ」
オリンピア号のるつぼが太陽をすくい、太陽のかけらは反重力保持炉という特別な場所に収められました。
「船長、うまくいきました。太陽のかけらを船内に収容しました」
「それザーはよかガーた。よくザーったぞ」
無線の船長の声は雑音だらけでした。タマリウスは、はっとして聞き返しました。
「船長、はやく戻ってきてください。どこにいるんですか!」
「爆風でガー吹き飛ばザーれた。残念だがザーもうガー戻れそうにない」
「船長!助けにいきます。待っていてください!」
「やめろザー来ては行けないガー」
レーダーで確認すると、船長の作業船はオリンピア号とは逆方向に向かって太陽から離れて行っているようでした。2人はオリンピア号を猫の星への帰還軌道に乗せると、作業船ジュピター2号に乗り込んで発進させました。
爆風で加速されたトラパティウスのジュピター1号は想像を絶する速度で太陽を離れており、後発の2号では追いつけそうにありませんでした。また、帰還軌道に乗ったオリンピア号もすでに遠く離れてしまい、2人の乗った作業船は、どちらにもたどり着けそうにありませんでした。
「オリンピア号が太陽の近くでは、こんなに速いとは!」
「ケプラーの第2法則だったな、たしか」
「実際に見たのは初めてだよ」
「おい、タマリウス。お前は、いいやつだった」
「何言ってるんだ。お前こそ。何も後悔なんかしていないだろ」
「ああ、当たり前だ」
2人は、船長を安心させることにしました。
「船長、そちらの船を確認しました」
「何をしているガー、はやくザー戻って船を守れ」
「はい、そうします。船長の作業船には残念ながら追いつけそうにありません。船長お元気で」
「君たちはガー最高だった。ザー船長だなんて威張っていたけれど許してくれガー」
「とんでもない。船長こそ最高でした。一生わすれません」
「ありがザー、きみたちのガーゆうきにザーザーかんしゃする‥‥‥‥‥‥‥‥」 |