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ポロのお話の部屋

作曲家とむりんせんせいの助手で、猫の星のポロが繰り広げるファンタジーワールドです。
ぜひ、感想をお願いしますね。

目次 (総目次)   [最新の10件を表示]   表紙

2003-02-21 猫の星の歴史教科書第2回 「猫の星・冬の星」その5
2003-02-20 猫の星の歴史教科書第2回 「猫の星・冬の星」その6
2003-02-19 猫の星の歴史教科書第1回 「セロ弾きジョーンズ」その1
2003-02-18 猫の星の歴史教科書第1回 「セロ弾きジョーンズ」その2
2003-02-17 猫の星の歴史教科書第1回 「セロ弾きジョーンズ」その3
2003-02-16 ポロでーす!


2003-02-21 猫の星の歴史教科書第2回 「猫の星・冬の星」その5

4 新しい星へ
トラパティウスは、これでいいのだと思いました。出港した時から覚悟はできてるつもりでした。
−太陽のかけらが猫の星に届けばきっとみんな暮らしやすくなるに違いない。子どもたちだって外で思いきり遊べるぞ−
トラパティウスは、子どもの頃のそりすべりや雪だるま作りのことを思い出しました。
−そうだ。もう雪は降らないかも知れないな。子どもたちは新しい遊びを考え出さなくてはなるまい−
行く手には金色の衛星を従えた青い海と白い雲の星が見えました。
すでに無線も、いくつかの船内照明も壊れていました。
「あそこまでもつだろうか」
トラパティウスは一人つぶやくと、残りの燃料で作業船ジュピター1号を着陸コースに乗せました。


「オリンピア号は無事に帰るだろうか」
「大丈夫、軌道は確認した。これで子どもたちも雪だるまとお別れさ」
「タマリウス、おれたちはどうする?」
「少し遠いが、金色の大きな衛星を持った青い星があるんだ」
「お、あれは凍っていない海だな。そして、水蒸気たっぷりの雲だ」
「位置から見て、船長がもし無事なら、とっくにこの星に降りているはずだ」
「決めたぞ。降りよう」
「よし、極軌道に入って平らな場所を探して、それから着陸だ」
「念のため、一応着陸許可申請をしたほうがいいんじゃないか」
「こちらドーラ船籍の宇宙船ジュピター2号、緊急事態のため、着陸許可を求めます」
しかし、いくら呼びかけても応答はありませんでした。
「降りても大丈夫ってことだ」
「猫は、いるだろうか」
「いるとも。猫はどこにだっているんだ」


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2003-02-20 猫の星の歴史教科書第2回 「猫の星・冬の星」その6

5 歴史
オリンピア66号は太陽のかけらをすくい終え、帰路についたところでした。
「船長。オリンピア1号の乗組員は一人も戻らなかったそうですね」
「ああ。76年に1回の航海だから、もう大昔のことだが、船だけが太陽のかけらを積んで帰ってきた」
「乗組員は死んでしまったんですか」
「いや、オリンピア2号が1号に積まれていたジュピター作業船を発見した」
「どこでですか」
「地球だよ。レーダーに作業船の反応があったそうだ。それも2機だ」
「で、救助には行ったのですか」
「いや、1号の航海から時が経ちすぎていた。彼らの子孫がいるとすれば、地球の猫と混血して地球が母星だ。あの星は暖かいからきっと幸せにやっているだろう」
「そういえば、今回、本船から地球へ向かった着陸船がありましたが」
「地球で暮らしたい猫もいるのだろう」
−全乗組員に連絡。まもなくコールドスリープの準備が整います−
「今度目覚めたら、子ども達に会えますね」
「もう大人になってる頃だ」
「自分より年上の子どもに会うなんて不思議なことです」
「全くだ。さあ、一眠りしよう」

6 夜
ジョーンズは玄関の段ボールのベッドで、すやすやと眠っていました。
とむりんは枕元の明かりでピラミッドの本を読んでいました。
「ピラミッドには、猫の壁画があるんだぞ。猫は神の使いで、空から降りてきたっていう言い伝えがあるんだそうだ」
となりで寝ている奥さんは眠くて機嫌が悪そうでした。
「ウチにだって壁に猫のカレンダーがあるわよ。それにジョーンズだってよく足を滑らせて屋根から降ってくるわよ。もう、明かり消して寝てよ!」
「宇宙船の壁画だってあるんだぞ。ハレー彗星もだぞ。ぶうよんは、ついてないよ。76歳にならないと見られないんだから」
「あたし眠いって言ったでしょ、怒るわよ!」
「わ、わかったよお」
となりの布団では、まだ1歳にもならない小さなぶうよんがすやすやと寝息をたてていました。

7 エピローグ
白く美しい尾を引いた氷の宇宙船オリンピア66号は、地球を見おろしながら急速に太陽から離れていきました。寒い寒い猫の星に太陽のかけらを運ぶために、76年間の春を届けるために、まだまだ飛び続けなければなりません。
行く手には、きらきら輝く無数の星くずと子猫たちの笑顔が待っているのでした。


おしまい

これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。
野村茎一作曲工房


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2003-02-19 猫の星の歴史教科書第1回 「セロ弾きジョーンズ」その1

 ジョーンズの飼い主とむりんは売れない作曲家でした。もともと食べていけない、とむりんでしたが、とうとう本当にどうにもならなくなって過疎の山里に引っ越したのでした。
 若いころから、とむりんは畑仕事をしたかったので、何でも自分でしなければならない山里の暮らしも苦にならないようでした。
 晴れの日は畑で土を耕すとむりんも、雨が降ると部屋で調子のはずれたピアノに向かうのでした。街で暮らしていたころ、とむりんの作った曲をちゃんと聴いたことのなかったジョーンズでしたが、退屈な雨の日に聴くと心に染みました。
ある晩のことでした。とむりんが眠りにつくと、ジョーンズは以前から気になっていたピアノの上にある小さなおもちゃのチェロをさわってみました。見よう見まねで弦に弓を当てると「ぎーぎろん」と大きな音がでました。ジョーンズは、もっと弾いてみたくなり、チェロを持って外へ出ました。
 上弦の月が沈んだ後、夜更けの森のはずれの丘の上で、今度は思いきり音を出してみました。
 「ぎーぎろん、ぎーぎろん」
 それは、間違いなくジョーンズが自分で出した音でした。
 とむりんが聴いたら顔をしかめるだろうほど濁っていましたが、ジョーンズには天国から響いてくるような素晴らしい音色でした。
 ジョーンズは、うれしくてうれしくて、ただでたらめに音を出し続けました。  「ぎーぎろん、ぎーぎろん、ぎーぎろん」
 やがて夜も更け、東の空が白んできました。ジョーンズはチェロをピアノの上に戻すと、遅い眠りにつきました。
 夜になって、畑から戻ったとむりんは夕ごはんやお風呂を終えると、ひとしきりピアノに向かいます。ジョーンズは、今まで以上に一生懸命に聴きました。これを覚えて、でたらめではないメロディーを弾くのです。
 とむりんが眠ると、チェロを持って森のはずれに向かいます。今日覚えたメロディーの練習です。でも、どうしても最初の2小節しか思い出せませんでした。
 「ぎーぎろりん、ぎーぎろりん」
 ジョーンズは、覚えたての2小節をくり返し弾きました。夜明けまで、ずっとくり返し弾きました。
 「ぎーぎろりん、ぎーぎろりん」
 なんて素敵なのでしょう。身体が喜びに満たされてくるのが分かります。とむりんが貧しくとも音楽家を続けている理由が分かった気がしました。ジョーンズは気がつきませんでしたが、すぐそばの木の枝で一匹のヤマネが、チェロの音(ね)に耳を傾けていました。


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2003-02-18 猫の星の歴史教科書第1回 「セロ弾きジョーンズ」その2

 次の日は、もう2小節を覚えました。
 夜更けの森にチェロが響きます。
 「ぎーぎろりん、ぎーぎろりん、ぎぎぎろり、ぎぎぎろり」
 いつまでたってもひどい音でしたが、ジョーンズは全然気になりませんでした。それどころか、ますます夢中でした。ジョーンズは知りませんでしたが、少し離れたところで、一匹のタヌキもチェロの音にじっと聴き入っていました。
 ある雨の日。とむりんは畑仕事ができないので家で過ごしていると、ジョーンズは朝からずっと居眠りをしていました。全く役に立たない猫だなあと思いました。
一週間もたったころ、ジョーンズは一曲全部を弾けるようになっていました。いつしか満月になり、真夜中には天高く昇ってジョーンズを照らしました。
 「ぎーぎろん、ぎーぎろん、ぎぎぎろり、ぎぎぎろり、ぎーたらり」
 練習を始めて、ふと気がつくと、月明かりの中にタヌキの姿が見えました。反対側にはキツネも、その並びにはイタチもいました。ジョーンズがびっくりしていると、けものたちは演奏をせがんでいるように見えました。ジョーンズは、再び練習 を始めました。
 「ぎーぎろん、ぎーぎろん、ぎぎぎろり、ぎぎぎろり、ぎーたらり」
 誰かが聴いていてくれるというのは張り合いがあるものだと思いました。ジョーンズは、今までで一番よい演奏ができたと、ちょっと誇らしげでした。
 次の晩には野うさぎもオオカミも、大きな熊までやってきました。
 「森のはずれ野外ホール」のステージにジョーンズが現れると、けものたちも鳥たちもみな、ジョーンズのほうを向いて耳を傾けるのでした。
 とむりんが演奏するよりも何倍もテンポの遅い「きつね」という曲の演奏が始まりました。それがジョーンズには精いっぱいでした。それは悲しい悲しい音楽になりました。
 「ぎーぎらぎらぎらぎらり」
 きつねの母親は、急に去年亡くした子を思いだしてすすり泣きました。しかし、聴いているうちに、だんだん悲しみが癒されていきました。
 ジョーンズは何も知りませんでしたが、きつねの母親が癒されていくにつれて、 ジョーンズの心が悲しみでいっぱいになりました。気持ちが高ぶって、演奏はますます冴えわたりました。すると、オオカミが感極まって遠吠えをしました。普通だったら、オオカミの遠吠えを聞いたら多くのけもの達は逃げ出します。しかし、その遠吠えがあまりに透明だったので、誰もがジョーンズの音楽の一部のような気がしました。
 次の晩は森中のけものや鳥たちが集まったかのようでした。たくさんの動物たちの輪の中心でジョーンズは演奏を始めました。動物たちの心のざわめきがジョーンズに届きます。とむりんのメロディーは、喜びや悲しみなどの気持ちを呼び起こし、動物たちの心を揺り動かすのでした。
 「ぎーぎゃろ、ぎーぎゃろ」
 その音を聴いているうちに、動物たちは心がどんどん澄んできて、悲しみや憤りなどの気持ちが消えてきていることに気づきました。子を失ったきつねの母親も、悲しみよりも、たとえ短い間であっても、子ギツネと過ごせた事が大切であったように思えてきました。


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2003-02-17 猫の星の歴史教科書第1回 「セロ弾きジョーンズ」その3

 とむりんは、今日も発表するあてのない曲を作っていました。
ジョーンズは、それを聞き漏らすまいと耳を澄ましていました。今日の曲は、特に気に入りました。きっと我を忘れて演奏してしまうでしょう。練習を続けているうちに、曲もすぐに覚えられるようになったジョーンズは、心の中で繰り返し歌いました。

 とむりんは、最近畑の作物がよく育つので自分の腕前が上がったのだと思いました。しかし、よく気をつけて見ればわかるのですが、とむりんを慕うモグラは雑草を抜き、鳥たちは虫を食べ、野うさぎや鹿たちは、とむりんの畑の野菜だけは食べませんでした。
 ジョーンズは相変わらず居眠りばかりしていました。
とむりんは、ジョーンズも驚くほどの素晴らしい曲をいくつも書きましたが、それを発表するために街へ下りることはありませんでした。

 10年ほど経ったある日、すでにチェロの老名人となったジョーンズは、居眠りの最中に煙のように息を引き取りました。
 しかし、やはり年老いたとむりんはそれを知りませんでした。ちょうど同じころ、麦畑で人知れず倒れたのです。とむりんは、いままでとむりんを生かしてくれた麦に恩返しすることになりました。麦たちは、とむりんを麦に変えました。


 その晩、街ではUFOを見たと言う人たちが新聞記者から取材を受けていました。
 「ええ、あれは葉巻型母船です。細長く光輝いて空高く昇っていきました。本当です本当。間違いありません。あれがUFOじゃなかったら一体何だって言うんです?」

 ジョーンズととむりんの魂を送る動物たちの葬列は長く長く続きました。彼等の灯す明かりが、遠くからもおぼろげながら見えました。山の頂までは、けものたちが。そこから天までは鳥たちが見送りました。
 その年、動物たちの世話するとむりんの麦畑はいつもよりもよく育ちましたが、刈り取る人は誰もいませんでした。


おしまい

これは「野村茎一作曲工房HP」に付属する「ポロのお話の部屋」です。HPへは、こちらからどうぞ。
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2003-02-16 ポロでーす!

とむりんせんせいのファンのみなさん。ポロがどうしてとむりんせんせいのところに来ることになったか、きょうこそお話します。
みなさんは、パラレルワールドって知ってますか? たとえば、ポロが今お茶を飲もうか、紅茶を飲もうか迷ったとします。それで、お茶を飲みながらイモようかん食べることにしたんだけど、紅茶を飲みながらクッキーを食べた世界もあるわけ。それがパラレル・ワールドっていうの。ポロが、もうお茶でイモようかん食べちゃったってことは変えられないけど、でもね、昔に戻ってイモようかん食べる前なら、ポロは紅茶を飲んでクッキーを食べることができます。
ポロの生まれた猫の星では、せんせいはとてもゆうめいです。でも、それはせんせいの音楽のせいじゃなくて、英雄ジョーンズの飼い主としてなのです。猫の星に伝わる歴史は、せんせいにとってあまりよいものではありません。だから、ぼくは歴史を変えるために、過去に戻ってオリンピア66号に乗って地球にきました。オリンピア号の歴史については、いずれお話します。
では、最初のお話は歴史の最後に伝えられた、とむりんせんせいの末路です。ポロは、これを読むたびに泣きそうになってしまいます。これを読んで立ち上がらない人はいないと思います。さあ、ポロといっしょに歴史を変えましょう。
いつになくまじめで、使命かんにもえたポロでした。
下の写真は、ありし日の「野村ジョーンズ」の雄姿です。

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