のんすけさんは以前の職場の従業員さんの息子さんが飼っていた猫だった。
かわいがられていたそうだが家の事情で彼の実家で飼われる事になった。
「絶対に人にあげないでくれ」
と息子さんは言っていたそうだがやがて過ごす時間が薄くなるにつれて
「だれかかわいがってくれる人がいたら」
と気持ちは変わって行ったのも無理はない話だった。
プニと名付けた猫がいた。
おそらく誰かに飼われていて捨てられたのだろう。
ひとなつっこい猫で夜になると台所の戸口にやってきた。
家に入れてもここまでしか入ったらあかんよと言うとそれを守った。
適当に家で過ごした後はまた夜の暗闇へ帰っていった。
時折旅に出る様でしばらく姿を見せないと思うと現れる。
そんな日々が少し続いた。
当時子供もおらず、そんな事も考えていなかった頃
適当に家付近にやってくる猫に適当に名前をつけたりして、時には魚なんかをあげていた。
しばらくして実家で私が小学生の頃から飼っていた犬が死んだと電話があった。
限りなくアホに近い犬だったが、体の白さが奇麗な雑種だ。
大学を卒業するまでは私が晩に散歩に連れて行っていた。
しかし一番なついていたのは私の父だったので、散歩中に帰宅中の父に会うと散歩が中断して家に飛んで帰っていた。
私が実家を出てからは滅多に会うこともなかったがやはり別れはつらいものがあった。
そしてプニもケンカでもしたのかかなり弱って姿を現した。
治療も考えたいが我が家の猫ではなく野良猫としての誇りを持っていた。
それに色々な家で名前を持っている奴でもあった。
ある晩、外で寝ているプニの鳴き声が一声聞えた。
次の日の朝、冷たく堅くなったプニが戸口で横たわっていた。
最期を私達に看取って欲しかったのだろうか、山に埋めに行った。
飼っていた訳ではないがやはり別れはつらい。
犬を飼おうか、そんな事を言っていた頃にのんすけさんの存在を知った。
当時は嫁も同じ職場のパートでのんすけさんを飼う従業員さんの家に行きその猫を知った。
耳の垂れた猫で当時はまだ珍しい猫だった。
「耳が垂れていて丸顔でひとなつっこい」と多くの本に書いてあった。
あるペットショップで「リアルドラえもん」と店の方が言っていた(笑)
しばらくしてのんすけさんが我が家に来る事になった。
最初に聞いていたお利口猫ではなくかなり気の荒い近寄れない猫だった。
「触れ合えないペット」で近寄ると威嚇するし、朝には寝ている私達を叩き起こす。
嫁は頭をかじられて私は目を覚ますとくしゃみで鼻水をかけられていた。
私は噛みつかれて何度派手に出血した事か、今も傷跡が手に残っている。
獣医も以前ののんすけさんを知っていた様子で
「なんでこの猫もらったんですか?」
と聞かれた事があったぐらいで、診察中も色々な出来事を見せてくれた。
あまりの気性の荒さに去勢する事にした。
なんせ「にゃぁ」よりも「しゃーっ!」の方が一日で聞く事が多かったのだ。
そうして少しずつではあるは気性の荒さは和らいでいった。
仰向けで寝る。壁やらにもたれかかる方が落ち着くようだ。
ソファーに腰掛けてTVを観ている、なんか人間臭い猫でもあった。
何かつぶやいているようなしぐさもあり愉しませてくれた。
猫バカかもしれないがハンサムでそれなりに利口な猫だと思う。
気高いけれど寂しがり屋でもある。
我が家の一員としてのんすけさんはかけがえのない存在となった。 |