女は海を見たいと言った。
男は黙って車を走らせる。
月灯りに照らされた夜の海は、誰をも寄せつけさせないように
威厳と孤独に満ちている。
そして、かすかに見える灯台の灯りだけが
まるで小さな希望の光のように、わずかな光彩を放っている。
もう何度この夜の海を見ただろうか・・・。
女は「今度のお休みに、ここに遊びに来たいな。」と、おどけたように切り出した。
男は何も聞こえていないかのように、ゆっくりとタバコを燻らせながら、
「・・・わがまま言うなよ。」と、言い捨てた。
女はやっぱりという顔をして「言ってみただけ!」と、笑って見せたが、
瞳が見る見る間に潤んでいくのが分る。そして「煙が目にしみる。」と、そっと涙を拭った。
女は、男のずるさを分っていた。
女は、男に愛されていないことを分っていた。
そして女は、それでも男を愛していた。
カーステレオから、女の好きな歌が流れている・・・。
愛してる byウルフルズ
愛してる ただ 愛してる 体が熱いよ
だから 泣いている ただ 泣いている
心を 癒すように
出会いが夢みたいに 遠のいて
黙りこんで すれ違いと 空回り
優しくするうそに お互いがさめて
言葉はこの胸の中
君の全てを 好きと言うわけじゃない
だけどそのままでいいから |