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泉木修の「百物語」

 
あなたは鳥のように這い、蛾のようにしたたる。
魚のようにまぐわい、兎のようにひりひりと裏返る。

まぶたを縫ってあげよう。
耳もホチキスでとめよう。
眠れぬ夜のために。
 

目次 (総目次)   [最新の10件を表示]   表紙

2000-08-07 第六夜。 「記念撮影」
2000-08-06 第五夜。 「新盆会」
2000-08-05 第四夜。 「抱 擁」
2000-08-04 第三夜。 「首」
2000-08-03 第二夜。 「作 法」
2000-08-02 第一夜。 「帰 路」
2000-08-01 前夜。 「ごあいさつ」


2000-08-07 第六夜。 「記念撮影」

 
「えーっ、やだ。ムトウくんとサワダくんが写ってない」
 船上での集合写真を見て騒ぎ出したのは、声の大きいナカムラノリコだった。
「なになに、心霊写真?」
「そんなんじゃないの、二人が写ってないのよ」
 僕はノリコの手の中の写真をのぞきこんで言った。
「どうせどこかで遊んでて、写真撮るってことを知らなかったんだろ」
「ううん、だって。二人とも確かにこのとき私の前にいたし、ほら、ここ。イシダさんのとなり、二人分くらい空いてるでしょ」
 おとなしいイシダカズヨが、いつものようにワンテンポ遅れて顔を上げた。
「そういえば、あの二人だったかなあ、あたしのとなり」
「そうよ、秘密基地がどうのって話してたじゃない」
 そこにいつもの緑のカーディガンを着たタカハシ先生が現れ、女の子たちは口々に異常を訴えた。
 先生は受け取った写真をしばらくいぶかしげに見ていたが、やがて周りに集まった生徒たち一人ひとりの顔を見つめながら静かにため息をついた。
「これはね、しかたないの。サワダくんとムトウくんはこの後、船の後ろのほうに行ったでしょ。だから助かったのね、二人だけが」
 

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こわ〜。 / ねむり猫 ( 2000-08-07 13:28 )

2000-08-06 第五夜。 「新盆会」

 
 ボール遊びから帰ると、課題の文具を買いに出た妹を迎えに行くよう諭される。脱ぎ散らしたズックをしぶしぶ履き直し、角を二つばかり駆け抜けた向こう、小さなスカート姿が頼りなく街灯の下にある。悪戯心に隠れて影の近づくのを待ち、
「わっ」
夜のように腕を広げて脅かすと、妹はひいいと悲鳴を上げて家とは反対の方向に走り出す。これはしまったと、「お兄ちゃんだよ、御免よ」と詫びながら追おうとするが、妹はこの春に死んだことに思い当たり、声が裏返る。
 

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2000-08-05 第四夜。 「抱 擁」

 
 クラブ活動を終えて家に帰ると、知らない女の人が玄関に走り出てきて、泣きながら三日間もどこに行っていたの、と言った。
 

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2000-08-04 第三夜。 「首」

 
 湯屋からの戻り道、とんとまっつぐに帰る気もなければ、そこは夜の散策とひとつしゃれこむのは今宵もまた。こうっと御機嫌でからころ歩くに、宵闇のあちらにぽおと薫るは沈丁花の花垣。こいつあ粋だねとつい手を伸ばすと、ひや驚いた、枝葉を縫うように白い帯のような筒のような。蛇じゃ蛇じゃと思わず手を引っ込めるが、よくよく見ればそんな大蛇が当節町屋にいるわけもなし、なあんだ、さなだ屋の女将の首がひょうひょう伸びて通っていったものらしい。なんでもこの女将ときたひにゃあ、三代目にこれはもうぞっこんとやらで、眠るが早いか首をにょろにょろと伸ばし、このごろでは大川端の宿までそのあで姿眺めにいくとはもっぱらの噂。覗かれるのも相手によりけり、とはこちとらのあさましい考えで、三代目のほうじゃ気がつかぬか人さまに見られることには慣れっこなのか、女将の首が切り落とされたてえ話は耳にしないし、だいいちがまだつながっっているからこその今宵のこのありさま。それにしても力一杯伸ばした首というのもまた一見の妙あるあだっぽさ、青く筋の浮いているところがなんともたまらぬ。これが縮んだら蛇腹かねえなどとついつい手 を伸ばして触ったのがもういけない。恋路の邪魔をされて腹を立てたかそれともしんそこ痛かったか、なま白い首がぷるぷるとふるえたと見るやなんと垣根のずいっとあちらから女将の首の、ええい、首はこのあたりも首、その首の先の、そう、顔のくっついたあたりがしゃああとつばき吐き飛ばしながらこのかたへ飛んでくる。いやもう真っ赤な口をかおかおと開き、恐ろしいの恐ろしくないの。すわ、と裾からげて逃げ出すも、なにぶん宙をすべるように飛んでくる生首には勝てぬ、と見るや沈丁花の枝に首がからまり、やれ助かったと見るやまた追ってくる。繰り返すうちに朝も近付き、屋敷の用人がおっとり門を開けようとしたときにはもう女将の首は伸びるだけ伸びてその屋敷をぐるぐる巻き、お縄が入ったかと主人が隠しておけばすむ懐をうっかり明らかにしたために首を切られたとか首が回らなくなったとか、まあそのへんはずいぶん昔のことだけに、首ひねるばかりで誰にもはっきりとはわからない浜町ろくろっ首のお話。
 

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2000-08-03 第二夜。 「作 法」

 
 遠い縁戚の葬儀に出る。
 作法がよくわからないので部屋の隅に正座して様子を見ていようとするが、しばらくすると喪服の人々がこちらを向いて何か目を交わし合っているふう。やがて見たことのない男の人が低い声に怒りを抑えながら僕の腕をつかみ、庭の木戸から蹴り出すように僕を外に追いやる。
 何かとんでもなくまずいことをしたらしいのだが、見知った人間が周囲にいないので尋ねるわけにもいかず、しかたなく学生服のズホンの灰をはらう。
 

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2000-08-02 第一夜。 「帰 路」

 
 暗い夜道を歩いていると、誰かが背中をぽんぽんと叩く。
 振り向いてみたが誰もいない。虫の声も途絶えない。
 無性に怖くなって家路を急ごうとすると、クスッという女の笑い声が聞こえ、足首をくいっとつかまれた。
 

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「くいっとつかまれた」で終わっちゃうところがすごく怖いです。楽しみです。よろしくお願いいたします。 _o_ / 臆病なのに怖い話好きのタズラ ( 2000-08-02 16:00 )

2000-08-01 前夜。 「ごあいさつ」

 
 平成モノマガジン百物語。
 ただし、トレンディでオシャレなモノなどではなく、バケモノ、ゲテモノ、キワモノのたぐいです。一部、イロモノやマゲモノが混じってくるかもしれませんが、いずれもマユツバモノです。
 

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いらっしゃいませ。末永くご利用いただけますよう、お願いいたします。ご要望などございましたら、掲示板に書き込んでいただくか、admin@himajin.netまでお願いします。 / システム管理者1号 ( 2000-08-02 15:49 )

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