2002-03-22 縞猫。
2002-03-18 贈り物。
2002-03-16 蕩ける。
2002-03-15 静かに、その２。
2002-03-15 静かに、その１。
2002-03-13 春よ来い。
2002-03-11 寝顔。
2002-03-09 半月の夜に想う、その３。
2002-03-09 半月の夜に想う、その２。
2002-03-09 半月の夜に想う、その１。

近所の縞猫と、仲良くなった。最近は、帰ってくると、うにゃにゃ〜ん、っといいながら、出てきて挨拶してくれる。頭を撫でると、尻尾を立てて扉の入り口まで同伴してくれるのだ。車から降りた時点で、しゃどう猫は物音を聞きつけ、帰ってきた〜！ にゃ〜！ にゃ〜！っと、ドアの前で大声で鳴いている。しゃどう猫と仲良くなってくれないかなぁ、とは思っているのですが、相変わらずしゃどう猫の片思いのようです。しゃどう猫は、そんな事はすっかり忘れて、今はキーボードを打つしゃどうの手に、頭を擦り擦りして、嬉しそうです。手が、ふにゃふにゃと動くのがなんとなく面白いらしい。

今日は、宿題をひとつ終らせて、ホッとしているところ。昨日の昼間は、誰にも見つからないようにこっそり図書館に隠れて勉強し（勉強時間の確保？ 昔は、サボるために隠れていたのよね、贅沢な時代だった。）続きは、実験が終ってから夜中の２時過ぎに、で、終ったのは４時でした。それでもちゃんと終ったので、本日の昼は割と豪勢なアラビアン料理を食べて、自分をたっぷり甘やかしておきました。

１８時から、企業の人とミーティング。私達が手がけている分野の、インベンター。泣く子も笑う大企業、の人なのですが、しゃどうとトマトが載った新聞を見て、興味を示し、共同研究の種になるかどうか、様子見に。ついでにしゃどう達に、機械がどういう仕組みで動くのか、等など、プレゼンテーションも施してくれた。実は、どうなっているのか知りたくて、始めのうちはいちいち、ぶっ壊して分解して、中身を覗いていたのだけど、改めてちゃんと教えてもらうと、ナントも、高度なテクノロジーだ、と、感動してしまう。

彼らの興した分野は、今や１００億ドル産業、会社の顔となる部門なのだけれど、始めた当初（２０年くらい前）は、そんなに上手く行くとは思っていなかったようだ。会社も、新しい部門を作るのにいい顔はせず、実験室も、掃除部屋の隣りの小さな部屋で、身近な道具から始め、右往左往しながら資金を集めて、研究を重ねていたらしい。１５年くらい前に市場に始めての機種が登場。まだまだ高価で、性能もスピードもそこそこ、が長く続いていたらしい。それでも、数十〜百万ドルの儲けになればいいと、思っていたらしい。しかし、改良を重ね、市場にでて、値段も手頃になり、家庭にも浸透していくようになったのは、ここ５〜１０年の事。

豪快に笑う、気さくなおじさまだった。自分の手でモノを生み出す事ができる、自分の手を動かして、働く事の尊さと誇り、を感じさせるような、深くて潔い目をしていました。自分の仕事を深く愛していて、やっぱり凄い技術だよね、と、言うと、目を細めて、子どものように照れながら嬉しそうに喜んでいた。

すっげぇ、格好いいなぁ、と思う。私も、ぐちぐち言ってないで、もっともっと、仕事を愛して、愛して、なにか世の中の常識をかえてしまうくらい、凄い仕事をしてみたいなぁ、って思った。

しゃどう。

＃＃夕食は、鍋焼きうどん。冷凍物を下ろして、長い間、火に掛けていたら、溶けてにょろにょろのうどんが。でも、きつねの揚げ物は美味しかった。しゃどう猫は、牛肉とレバーの猫まんまです。今、白い夏椅子に座って、瞑想しています。

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春休みである。目が覚めたら、玩具のネズミが手の上に乗っていた。最近、さっぱり玩具で遊ばなくなってしまったしゃどう猫だけに、猫が持ってきたと考えるのも不思議な話なんだけど、それ以外の可能性を考えるのも、いやだったので、これはしゃどう猫からのプレゼントなんだって、思う事にした。

そんな悩みを気にかける事もなく、爪砥ぎ棒で、バリバリやっているしゃどう猫を眺めていたら、目が合った。一瞬のうちにしゃどうの身体を縦に駆け上り、肩の上に到着。普段なら愛らしいこの仕種。でも、今日は後ろの爪が伸びていたのだ。痛いっ！ だから、眠っている隙に、こっそり切ってあげた。最近、大人になったのか、玩具のボールやネズミには目もくれず。紐やじゃらしを振っても知らん振り。お気に入りの遊びは、背中を手でガジッと掴んで、ぐりぐりする遊び。すかさず手に噛み付こうと、飛び掛かってくるのですが、そうはさせず、じらしては、ひょいっと手をどけ、目の前でひらひらさせて、またガジッと掴んで、と、繰り返すと、大興奮。ゴロゴロ言いながら、うにゃ、うにゃっと、声を出して喜んでくれます。

春休み最後の日なので、学校にはいかなかった。昼過ぎまで猫と寝ていた。起き上がろうとするのだけど、その度にあくびをこらえたしゃどう猫と目が合う。顔を撫でているうちに、また寝てしまうのだ。どっちが猫だかわからない。

今夜は、研究用のスライドづくり。以前、トマトが講演をしたときに、何枚かスライドを作って手伝ったのだけど、なんたることかすっかりお気に召されてしまった。どうせなら、しゃどうの研究分野一般の紹介スライド作ってよ。っと、更なるお仕事をいただいてしまったのだ。とはいえ、頼み方は、「就職の面接やなんかで、自分の研究を紹介するのは、とても重要な事なんだ。そのプラクティスは今のうちからしておいた方がいい。グループ内での、発表練習を６週間後にやるから、そのためにスライドを作っておきなさい。君の将来のためなんだよ、いい、君の為になることなんだ！（強調）」だった。わたし、卒業するまであと２年くらいかかるんですけど・・・でも、いつもわたしの将来を心配していただいて、誠に嬉しく存じますわっ！

で、今、バックグラウンドを調べているところなのだけど、なかなか面白い。こんな事も知らずに研究してたのかぁ、なんてことも、あれこれ。今の分野は、かなり新しい。昨夏、うまくいけばラッキー、くらいな気分でもらったテーマなんだけど、幸い、好調な滑り出しをみせた。競争者も少ないので、ちょっと上手くいけば、すぐにパイオニアの仲間入りなのだ。

「しゃどう、企業の人が発表しているような、カラフルで、プロフェッショナルなやつ、作ってね。絵も写真もたくさん入れて、エキサイティングに仕上げて！！！」

と、言われても、企業の人は、専門の人、雇っているんじゃないの？ わたしに、アートなセンスを求めること自体、間違っていると思うんだけど。

まっ、いいか。

しゃどう。

＃＃夜はとろみカレー（甘口）を大量に作った。しばらくの洞窟篭りのために、食料をたくさん確保しておかないとね。デザートは、どら焼と羊羹でした。しゃどう猫は、牛系猫まんま、また、遊び付かれてぐっすりと眠っています。

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春休みである。ひとつぐらい、春休みらしい事をしようと思い立って、昼過ぎにいつものマッサージを受けにいった。体に力が入りすぎていたのか、最近は背中の凝りが激しかった。いつものように、なにも言わずに寝そべっていたのだけど、さすが、腕利きのマッサージさん、背中の筋肉が縮こまっているのを見つけて、うにゅ、うにゅ、ごきごき、っと、元の場所に戻してくれた。肩凝り、冷え性、腰痛、低血圧を全部持ち合わせた、血の巡りのよくないしゃどうの身体。でも、彼女のマッサージを受けるようになってから、症状も少し和らいできたようだ。今年の冬は、部屋にあるミニヒーターの電源を入れる事がなかったのには、自分でも驚いたくらい。

マッサージが終って、起き上がってびっくり、背中にあった重みが全部消えている。気分もかなり爽快に。身体の中が綺麗になっているなぁ、って。身体の調子と、気分はきちっと比例するから、日頃から身体の具合に気を遣うのは、病気の予防という観点から以上に、happyでいるためには、不可欠なことなのだ、と、改めて思う。

リラックスしたのはいいのだけれども、そしたら、仕事がしたくなくなっちゃった。家に帰って、お酒を飲んで、美味しい料理でも作って〜っと、楽しい事ばかり、頭に浮かぶ。結局、１９時くらいにデータ整理をやめて、そのままかえっちゃいました。

舌の感触が思い出したのは、お魚の煮付けの、煮込んだ砂糖醤油の味。今日は、これを絶対に食べるっ！ 冷凍庫の平目を解凍し、本に書いてある通りに、みりん、酒、醤油、砂糖を水の中に放り込む。沸騰したら、魚をそっと入れて、更に中火でことこと。魚の煮汁で、ほうれん草とパセリ、ジャガイモも茹でて、できあがりである。上出来。お魚は甘みと柔らか味があって、口の中でとろり、っととける。ジャガイモは、煮くずれる直前であげたので、濡れみのある、ホクホク味に。ご飯は、炊くのが面倒だったので、クスクスを、豆腐のみそ汁と合せて蒸しました。日本食とクスクスは、不思議にあいます。味は、子どもの頃に食べた猫まんま、っ、そのものですけどね。

デザートは、ゴディバのクラシックチョコレートアイスクリーム。昨日、セールだったのだ。チョコアイスの味は、ハーゲンダッツを上回ります。んー、蕩ける。

しゃどう。

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つづき。

というわけで、その中でも特に難しいといわれるプラスティックの表面の観察。チップが表面にそっと降りた時に、触った（衝突ともいう）影響で、ささやかな熱が生じます。この熱が、またノイズを生むのです。チップがサンプルの表面で、うにゃぁ〜うにゃら〜と、揺れる。それが落ち着くまで、数十分、オトナシーク、我慢していなくてはいけない。そして、その間に、傷のなくて、埃などのゴミが、乗っかっていない美しい場所を探し出すのだ。それから、最も美しい画像が取れるように、チップが動くスピードを、また辛抱づよく探します。まさに、機械と私の、我慢くらべである。

とまぁ、でも、なんとか、昨晩は私の勝利！ 美しい画像を何枚か手に入れた。ついでに、とっておいたデータも、全てセーブし、画像ファイルに転換し、ジップに落としたつもり、だった。つもり、だったのに・・・また、してやられた（自分に）。

で、翌日の昼過ぎ、友達のシフトだったので、その時間を狙って、データを拾いにいった。ドアを開けると・・・、なんだか凄い殺気。そのまま閉めて立ち去ろうと思ったけど、運悪く見つかってしまった。中には、友達はまだ来ていなくて、それをいい事に時間を延長して実験している姉ちゃんがいた。でも、なんだか凄く怒っている。どうやら実験がうまくいっていないようだ。しかも、しゃどうに八つ当たりしそうな勢いである。

おぉ、怖いのぉ。そりゃ、気持ちはわかるさ。こんなにいい陽気の春休み。朝、８時から学校に来て、地下室の狭い部屋で、ぶっ続けで５時間以上実験して、まったくうまくいかなかったら、煉瓦でも投げたくなるよなぁ・・・。でもな、ワシにに当たるのはやめてくれ。そんな日もあるさ。私のせいじゃない・・・。わたしだって、そんな事はしょっちゅうさ。気持ちはわかるから、八つ当たりは止めてくれ・・・。あっ、しゃどう２８号の写真を見て、余計に怒っている・・・あぁ、もう、飯食って来いよ。耳伏せて気付かない振りしてようっと。

しゃどう。

＃＃夕食は、この前の残りのオイルサーディンと、オニオンとトマトソースのやつ。それから、ポテトもチーズを混ぜて暖めて食べた。ハムも焼いた。しゃどう猫は、牛猫まんま。外泊から帰ってきたのだけど、はしゃぎすぎてお腹を壊したようである。しばらくは、自宅謹慎！

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春休みである。昨晩の実験でセーブした原子間力顕微鏡のファイルを開けてみてびっくり、４０枚近くある画像、が、全部同じイメージなのである。元ファイルをの情報をよくみてみると、全ての画像が、「しゃどう３０号」と、なっている。ウィルスか、ディスクが壊れたのか、いろいろ考えてみたけど、良く調べた結果、単なる自分の操作ミスと判明。どうやら、だいぶボケていたようである。

この実験、実は授業の学生実験なのだけど、気前の良い先生が、学生に部屋の鍵を渡し、それぞれのスロットをつくって予約貸し切り制にしている。手取り足取り教えてくれる事はないけれど、本物の機械を目の前にして、誰にも制限されずに、いろいろと弄くりまわせるのは、本当に勉強になります。機械は最新のもので、お値段も２００万円レベル。セルひとつにしても、２０万円する高価なモノだけに、扱いも繊細かつ丁寧に。

シフトは、朝の８−１３時、昼の１３−１８時、夜の１８−２３時スロットにサインアップ。朝昼、にはなかなか時間の取れない私は、自然と、夜中シフトになってしまいます。小さなチップが、直接サンプルの上に触れて、その上下で画を読み取ります。目をつぶって、繊細な指先で、猫の顔をそーっと撫でている感じかな？ 滑らかさとか、凹凸を、センサーが読み取ってパソコンに表示されるのです。そんな簡単なしくみでも、実際に、原子と原子の間の格子模様まで綺麗に読み取れてしまうのだから、これは優れもの。

繊細なだけに、「音」にも敏感。例えば、誰かが部屋の中で喋っただけでも、空気中を振動が伝わって、画像に激しいノイズが。男性の声には得に敏感。誰かが隣りの部屋のドアをバタンバタンしても、ノイズが。鍵穴に鍵を差し込んでガチャガチャやっていてもノイズが、廊下を誰かがバタバタ歩いているだけでもノイズが！ 飛行機が轟音をたてて飛んでいる、あぁ、もぉぅぅぅっ！ だから、誰も建物にいない、夜に実験するのが、一番賢いやり方なのです。

つづく。

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春休みである。一週間。だから、休講なのだ。朝早く起きる必要がなくなった瞬間、しゃどう猫の魔力にかかり、あっという間に夜型に変ってしまった。夜になると目が冴える。

実験の調子がいいので、ネバダに学会出張中（置いていかれた・・・）のセロリボスに何通かメイルを送っていた。というのも、最近、宿題やら、トマトの仕事やらで、かなりのペースダウンをしていたら、トマトと共に呼び出されて、「俺の仕事をやれぇ！」と、警告を受けたのだ。ただいま、しゃどうへの支払いは、セロリから出ているのだ。したがって、現在のボスはセロリ教授。大学院といっても、現金主義なので、共同研究といっても、金次第。上下関係も金次第。単純なのだ。こういうところはアメリカンやねん。

というわけで、泣きながら（？）セロリ実験をしているしゃどうである。試作品ペネロ〜プ１号（peach様命名）がちゃんと働く事が確認できたので、今日はペネロ〜プ２号を溶接。とりあえず見た目は、それっぽいのができたけど、動くかどうかは確認していない。

そして、しばらく音沙汰のなかったセロリ教授からメイルがくる。ふむふむ、あっ、書き出しが、「Ｄｅａｒ しゃどう」になってる、機嫌が良いみたい。（＊機嫌によって、書き出しが変ります。普通のときは、しゃどう、のみ。少し斜めのときは、名前をつけずに、いきなり文章。機嫌が悪いときは単語がぶっきらぼうに並べてあるだけ、わかりやすい人なのだ）学会も実りのあるモノだったようで、よかったよかった。次回は連れて行ってよね。あぁ、質問にも懇切丁寧に、あぁ、ありがたや・・・数時間後、更にメイル・・・あぁ、仕事が増えてる、あぁ、嬉しいなぁ。。。

夜にまたラボに戻ったら、同僚がまた、オレンジをくれました。彼女は、私を見かけると、いつもオレンジをくれる。もしかしたら、餌付けされているのかもしれない。

トマトも、学会と称して、ネバダ方面（たぶんラスベガス）にバケーションに出掛けた。明日帰ってくるらしいのだけど、みんな春休みを楽しんでいて、なんとなくジェラシーを覚えた私は、ボス達にとっても重たい実験写真のいっぱい乗っかったファイルをぶっきらぼうに送り付けたのでした。へへへーんだ。

しゃどう＠写真は、宿題の邪魔をするしゃどう猫。先週のものです。今日はまた家出中。忙しいなら、日記書いてないで働けって？ まぁ、固い事いうなよ。

＃＃夕食は、焼き肉。牛ブリスケ肉が凍っていたので、えばら焼き肉のたれに１０分浸してから、ただ、焼きました。白いご飯がよく合います。トマトとみそ汁を添えて。ツナとジャガイモも一緒に焼いたのだけど、できあがる前にお腹いっぱいになってしまった。また今度。更に一仕事終えた後は、梅酒をおチョコで、ちょびちょびと。いい気分です。

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昨日の昼下がり。軽い昼ご飯を食べた後、出掛けようと猫の寝顔を眺めていた。あまりに可愛いので、ついつい添って転がってみた。しゃどう猫が気がついて、頭を擦り付けてくる。頭を撫でながら、ゴロゴロ音に耳を傾けて、ちょっとだけ、一休み。気がついたら眠っていた。日もとっぷり暮れていた・・・しゃどう猫の勝ち。

仕方がない。起き上がったら、お腹が空いていた。久しぶりに手作りの夕食。鶏のドラムスティックをバターで焼く傍ら、クスクスを鍋で蒸す。適量の水と、オリーブオイルをたらり、沸騰したら、乾いたクスクスを放り込んで、蓋をするだけである。後は、トマトを切ってできあがり。やっぱり疲れてたのかもしれない。美味しい夕食は、体も心も、スッキリさせてくれた。

あんまりのんびりもしていられないので、そのまま、ラボに向かった。今の時期、日が暮れてからの風の涼しさは、本当に気持ちがいい。今学期は、正念場かな、ってくらい、大変だ。授業も３クラス。研究室掛け持ちで研究量も２倍に。あんまりする事が多いんで、一時期落ち込んでいたりもしたけど、落ち込んで効率が下がっていたら、更に仕事が増えて、なんてごちゃごちゃしているうちに、いつのまにか、やったるでっ、って気分になってきた。夏休みまであと２ヶ月。これを超えれば、もうちょい楽になることでしょう。


「今週、平均で１４時間は働いているんだから、無茶言わんといてぇ！」

と、不満を耳にしたならば、

「しゃどう、一日は２４時間あるんだよ。」

と、爽やかに返せるのが、優秀なプロフェッサーの条件。と、誰かが言っていた。

そういう意味では、セロリ教授も、トマト教授も、すっごく優秀だわっ！ （さすがに、そのままの台詞は言わないけどね。）確かに、不満をぶーぶー言う元気があるうちは、まだまだ大丈夫なのよね。危ないのは、顔色が悪くなって、口数が少なくなって・・・なんて時なんだろうし（幸い、そういう状態になる前にちゃんと休みはとっているけど）。甘っちょろい事言ってんじゃねぇぞぉ、とでもいいたげな。愛情たっぷりのスパルタ教育。

愛されてぇ、愛されてぇ、愛してぇ。

大学院生って、過激な職業です。

しゃどう。

今日の夕食は、オイルサーディンとオニオンとトマトの蒸しもの。ライスを添えてカレーみたいにして食べました。梨のコンポートをデザートに。

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つづき。

翌日の朝が早い友人は、それでも、やっぱり少しは眠った方がいいと、朝方、横になった。しばらくしてから、私はじゃぁね、っと言って、そっと、彼の家を抜け出した。空は少し白みかけていたけど、濃い蒼色で、痩せた半月が、ぽっかりと浮かんでいた。降り止んだ雨の匂い。静かに車を走らせて、自宅のベッドに滑り込み、私も、泥のように眠った。

翌日、授業のなかった私は、昼頃に起き出して、いつものように大学へ向かう。いつものように実験室に向かい、オーブンからサンプルを取り出し、実験を始めた。ふと、気がつくと、日が暮れる時間になっていて、顕微鏡から目を上げて見た窓の外の、木の葉の間から、零れてくる日の光が、透明から薄い赤色に変っていた。その時、わたしは、一度だけ会った事のあるキウイの光景を、急に思い出した。

そう、彼は、beautiful guy だった。実験室の、ポンプの調子が悪いといったら、ポンプにそっと手をあてて、耳を傾けていた。そう、優しく話し掛けるみたいに。工具を取り出すしぐさも、歩き方にも、作業の仕方も無駄がなくて、思わず見惚れてしまうような動き方。４０も半ばの年だというのに、綺麗で、打算のない、ピュアな眼をしていた。シャイだけど、優しい物腰と、喋り方で、たった一度しか会った事ないのに、しっかりと覚えている。

モニターが、霞んで見える、頭の後ろが熱い、イツノマニカ、涙が溢れてきていた。自分でもびっくりして、開け放していた部屋のドアを慌てて閉めた。涙も止まらない、時も止まらない、戻らない。知らない人が見たら、実験がうまく行かなくて泣いているように見えるんだろうか。私には、なにもできない。なにもできないのに、私が涙を流したって、何一つ、解決しないのはわかっているのに、ただ、彼の痛みだけが強烈に伝わってきて、どうしたらいいのかわからないくらい、伝わってきて、私はただ、今日が金曜日の夕方で、研究所に人気がなくなってきたのを幸いに、思いっきり泣いた。

その夜、友人からの電話があった。

面接は、いい感触だったよ、そろそろ眠くなってきた、ありがとう。

そうだね、せめて、いい夢を見て眠って欲しい。たとえあなた達が気付かなくても、力不足な私でも、いつか頼りになれる日がくるように精いっぱい頑張るから。きっと、いつか。

しゃどう。

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つづき。

「いつものようにキウイが朝方、仕事をしていた時。高いところから落ちて、右肩を強打したんだ。そのまますぐに病院にいったんだけど、治療がいきとどかなくて、３週間後、Ｘ−ｒａｙ検査をしたんだ。そしたらな、肩が、完全に壊れていたって。壊れてたってな、骨が完全にくだけてなくなってるんだ。それだけじゃない、キウイの、最も信頼のおける、エンジニアがな、いつもキウイを手伝っている彼がな、昨日、交通事故に合ったんだ。病院から、いつ出てくるかわからないどころじゃない、今、昏睡状態なんだ・・・」

「明日、キウイは手術をする。そして、俺は、大事な仕事の面接が、朝早くからあるんだ。眠らなきゃいけない、けど、眠れそうになくて、ビールを飲んでいるんだけど、眠れなくて・・・」

それから、しばらく黙り込んでしまった。しばらくしてから、何とか口にできた言葉は、
「今から行ってもいいかな。眠くなるまで、話し相手になるよ。」だった。

友人の家につくと、入り口のドアは開け放たれていた。中に入ると、蛍光燈の光と、アルコールの匂いが漂う。友人は、寝室のベッドの中に丸まっていた。声を掛けると、少しだけ顔が明るくなったけど、すぐにまた、押さえ切れないような鳴咽が込み上げてきて、彼は声にならない声を出して、泣いていた。

「こんな事ってあるか？ キウイは、ただでさえ、ひどい持病で、毎日痛みを押さえる薬を飲みながら、でも、本当に仕事を愛していて、働いて、働いて、働いて。そして、今度は、肩をなくした。ひどい痛みだ、片腕はもう使い物にならない。キウイは、エンジニアとしては天才的な腕で、誰よりも優しくて、誰よりもピュアで、いいやつで、俺は、本当に、本当の親友で、俺は彼が好きなのに。」

「病院にいったときにな、俺の顔みて、キウイが言ったんだ。Things could be worse ってあいつ、あんな状態で俺の事慰めようとして。そしたら、何が起こったと思う？ キウイの仕事仲間が車に跳ねられて入院したんだよ。昏睡状態だよ。なんでこうなるんだよ。」

「なんでキウイばっかり苦しまなきゃいけないんだよ。あんなに働いて、いつも他人の事ばっかりきにかけて、全然自分の事を気にかけないんだよ。だからって、あんなことになって。なのに、俺は何もできないんだよ。助けが必要なのは、キウイなんだよ。俺じゃないんだよ、」

って、声にならない声で、絞り出すように、友人は叫んでいた。私は、掛ける言葉が見つからず、ただ、何も言えず、彼の悲しみが少しでも和らげればいいのに、と思いながら肩を貸しているだけだった。自分のために流す涙に、掛ける言葉、励ましの言葉、思い付かなくもない。でも、他人を思って、こんなになるまで思って、無力感に引き千切られそうになりながら、泣いている友人に、やっぱり、なにも言えなくて。

つづく。

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昨日の夕暮れ、やっとのことでしあげた原子分光学の宿題。全部で３０問。いままで化学系として過ごしていたため、わからなさ、半端じゃない。用語の意味もわからず、問題の意図も読み取れず、辞書と本と、くびっぴきで解いた。高校生程度の物理の知識で、いきなり大学院のアドバンスクラスをとった、と、想像していただければ、どれほど無謀か、想像つくかもしれない。追いつくために、頭がフリーズするほど勉強した。なんとか終った。霧が晴れるような思いと、そのまま眠りこみたいくらいの開放感、が、あったけど、軽めの夕食を済ませた後、おかげで手付かずになっていた実験をしに、研究室に向かった。

夜の研究所には誰もいなくて、実験室には、小さな機械のモーター音がぶぶーんっと。少しだけ安心したのは、たまに、逃げ出したくなるけれども、やっぱり、わたしは、この仕事、好きなんだなぁっと思ったから。

いい結果なんて、そんなに頻繁に出るもんじゃない。たいていは、うまくいかなくて、また試しても、うまくいかなくて、もてるアイデアを全部使っても、やっぱりうまくいかなくて。いらいらして、さらに失敗して。そのうちに機械が壊れたり、洪水になったり、そして、ほんの少しのきっかけで、前に行く道が見えて、一気に攻め込むと、先に進める。その先にある、蜜の味は、他に喩えようもないほど、甘美だ。でも甘いのも一瞬、すぐに蜜は乾いて辛口の蜂が、針を持って追いかけてくる。研究は、たとえるとそんな感じ。

今夜はなにか、うまくいきそうな気がして、でもやっぱり駄目で、そんなこんなでつっついているうちに、急に流れに乗り始めた！ これはいける、と、興奮し、サンプルを大量に作っているうちに真夜中になった。そろそろ、引き上げるか、と、すべてをオーブンに放り込み、帰り支度をした。

帰り際、しばらく連絡を取っていなかった友達に、借りていた本をいつ返そうか、軽い気持ちで電話をしてみた。気だるい声で話す友人に、寝ていたのかな、悪いな、なんて思いながら世間話を続けていたのだけど、様子がどうもおかしい。何かあったのか、

「あのな、ビジネスパートナーのキウイが、事故にあったんだ・・・」

つづく。

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