himajin top
ナライフの「怒涛の映画&サッカー日記」

サッカーも映画も前世紀に大いなる飛躍を遂げました。さて、この新世紀、この2つはどう進んでいくのでしょうか?誰も分かりません。でも好きなんです。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2008-11-13 映画あれこれあれこれ
2008-08-14 あれこれ A
2008-08-13 最近映画館で観た映画あれこれ
2008-06-25 内田けんじ。邦画界の異質な才能。
2008-06-20 シド・チャリシー!
2008-02-22 レベルの差とスタイルの違いと・・・
2008-01-22 2007年の映画
2007-07-03 エドワード・ヤン!!
2006-12-28 2006年の映画
2004-07-21 カルロス・クライバーを追悼する


2008-11-13 映画あれこれあれこれ

『ハプニング』 M・ナイト・シャラマン監督
面白いことは面白い。シャラマンの作品はもろヒッチコックの影響を受けていて、これは明らかに『鳥』と『サイコ』のシャラマン版。ただ、ヒッチコックが「肝心なことを見せない」ことでサスペンスを際立たせるのに対し、シャマランは「見せる」ことに執着すること。自殺の方法の展覧会の如く「見せ」まくっていて、更に大音量の音楽を挿入し、下品なことこの上ない。芝刈り機に轢かれる人、ライオンに食べ裂かれる人、などは、何の為にその映像を見せるのだろうか。
『おくりびと』 滝田洋二郎監督
万人の賛辞を得るであろう佳作。笑わせ、泣かせ、残虐な場面もなく、予定調和の物語。題材の着眼点も面白い。ただ不必要なショットが多く、TV的な画づくり。納棺師の手さばきのアップが多過ぎ、劇中何回か登場する遺体処理の場面でその都度似たようなショットを重ねる。ラスト近く、自分の父の遺体を扱う「感動的な」場面でも、父の掌から石を見つけた後の、本木と広末のアップを切返す凡庸さ。総じて役者のアップが多く、説明の為のショットが多い。テレビドラマに馴れてしまった感覚にとっては非常に分かり易く入り込み易いのかも知れないが、無駄が多過ぎて勿体無い。
『崖の上のポニョ』 宮崎駿監督
 前作の失敗から見事蘇った。単純明快、理屈を全く寄せ付けない、感覚的なまでに画面のみにその魅力を集約させ、圧巻。ただただ画面に身体ごと浸ることの心地よさ。Animate=「生命を与える」ことをそのまま作品にしたかのよう。海のうねり、水の動き、浮遊する動き。そして、ポニョが海の大波の上を走るあの感動的なまでの躍動感。宮崎駿作品のトレードマークとも言える空中の飛行のダイナミズムを今回は水の世界に転用したようだ。「ポニョ そうすけ だいすき!」の音も忘れ難く、むしろセリフは結局この一言に尽きると言って良いような単純明快さ。丘の上の一軒家の佇まいが素晴らしく、海と家、海の底と海面、山道の上下、等々といった高低差を活かした視線の交わりぶりが上手に活かされている。さらに、宗助と父とのライトによる交信や停電に見られる光の活用ぶりも映画ならでは。ポニョの父フジモトと母マンマーレの造形が今ひとつだったが。なお、気になった点として、ポニョの本名、ブリュンヒルデ。波を駆けるシーンでの音楽がワグナーの『ワルキューレ』にそっくり。間違いなく宮崎監督はワグナーの楽劇を意識しているようだ。
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』 ホウ・シャオシェン監督
侯孝賢とキャメラマン李の捉えるパリの空気感が見事で、モラリス監督の『赤い風船』のモンマルトルも魅力的だったがそのオマージュに相応しい出来栄え。さすが。また、ベビーシッター役の中国人ソン・ファンが実にいい。ジュリエット・ビノシュ以外は役者名と役名が同一で、いかにもドキュメンタリータッチ。ソンとビノシュ、7歳の少年シモン、の3人のやり取り、この大した事件も起きない中でのたゆたう関係が美しく、画面もアパートメント屋内での黄色がかった照明が美しい上に、小津のカラー映画のように、画面に常に赤が入っていて、バルーンだけでなく、常に赤を意識させる画面作りをしている。また、ホウ&リーのコンビによる独特のゆっくりした長廻しのパンが随所に見られるが、このパンは物語上のアクションを追いかけてそれを説明するショットになっておらず、要はそこの空気を捉えるショットとでも言うようなもので、盲目の調律師がやってきた部屋に帰宅するスザンヌの1シーン1カットなど、もはや贅言を要さない完璧なカットだ。

先頭 表紙

フィー子様、僕もあそこは覚えています。あのママ、言葉遣いや車の運転ぶりなど、所謂“ありがちなママ”像を悉く逸脱していて、かなり突出した存在感を発揮していたと思います。宗助の両親にしても、ポニョの両親にしても(ポニョの父=フジモトは登場時間は長いですが)、存在感を放っているのは母親の方で、例の老人ホームにしてもいるのは老婆ばかりで男性が不在、ということも気になっています。それが何だ、という意味づけはしたくはありませんが、作り手の意図が働いていることは間違いないだろうな、とは思います・・・ / ナライフ ( 2008-11-19 16:29 )
ポニョですが、私も理屈を寄せ付けない、と感じたのですが、理屈だらけで語る人が多いようですね。リアル感・生活感もあるからでしょうか。確かに、ポニョ、そーすけ、すき、って残りますね。そーすけのママが、夫が帰るからとお料理を作っていて、急に帰らなくなるからと怒り出す場面ありましたよね。あそこも妙に記憶に残ってるんですけどどう思いました? / フィー子 ( 2008-11-14 21:27 )

2008-08-14 あれこれ A

『接吻』(万田邦久)
 万田監督の驚くべき境地。まず何より小池栄子。こんなに凄い女優だった とは!仲村トオルも豊川悦司も最高の出来。この3人の声と顔と身体の動  き、それを繊細に捉えつつ、戦慄のラストを演出する万田監督の手腕!そ れにしても立教大卒の映画監督、黒沢清、青山真治、そして万田邦久、恐 るべし。
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(ポール・トーマス・アンダーソン)
 これは凄い傑作。オープニングの採掘シーンから一切セリフが無く画面と 音で勝負しており、その迫力はラストまで持続する。ダニエル・デイ・ル イスが子供を助け出して食堂に運び込むまでの移動長廻し撮影を初めとし て、力強いショットの持続力が半端でない。石油の雫がキャメラにつくカ ットにはしびれる。
『隠し砦の三悪人』(樋口真嗣)
 同じ黒澤のリメイクでも『椿三十郎』よりはマシ。黒澤明に気を使わず、 「エン タテイメント」に徹しようとした姿勢は評価されるべき。ただ、 長澤まさみがダメ。ラスト、民衆との切返しでは、彼女を順光でクローズ アップする、という致命的な失敗を犯している。また、アップが多過ぎ。 TVでの鑑賞を前提としている為?そのアップも光の具合が計算されておら ず、下品な仕上がり。
『最高の人生の見つけ方』(ロブ・ライナー)
 酷い邦題。原題は“The Bucket List”。ジャック・ニコルソンの観るに耐 えないアップとか、不必要なCGとか、挙げだしたら欠点はいくらでもある のだが、ロブ・ライナーのくどくない演出とよく練られた脚本による会話 の妙が、非常に心地よく、楽しい。 
『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』(アンドリュー・アダムソン)
 娘及びクラスのお友達と共に3人で鑑賞。映画より子供たちの反応を見てい る方が楽しい、というのも悲しい。
『イースタン・プロミス』(デヴィッド・クローネンバーグ)
 マフィアを題材にした映画としても『アメリカン・ギャングスター』など よりは遥かに面白い。ヴィゴ・モーテンセンは『ヒストリー・オブ・バイ オレンス』に続いてクローネンバーグ作品の主演だが、素晴らしい。あの 黒いスーツとサングラスがいい。ロシアマフィアの本拠地であるレストラ ンの内装、厨房や地下セラーのセットデザインが素晴らしく、ロンドンの 寒くて雨が多く暗い雰囲気も実に効果的。
『ランボー 最後の戦い』(シルヴェスター・スタローン)
 スタローンの監督としての資質が『ロッキー・ザ・ファイナル』に続いて 示された。余計な叙情や説明を省き、役者の心情的演技なども排し、ひた すらカットを積み重ねる。イデオロギーがどうとか、戦う動機がどうと  か、いった批判があるが、そんなものはどうでもよい、という割切りが聡 明。それは映画とは関係ない。残虐な場面に辟易するが、死んでいく人を ドラマティックに撮って「お涙頂戴」的演出が皆無なのは讃えられて良  い。北野武の暴力シーンと通低する。
『マジックアワー』(三谷幸喜)
 ストーリーを紡ぎあげていく才能は豊かに違いない三谷幸喜は、映画監督 の才には恵まれていない、というのは厳し過ぎるかもしれないが事実だ。 演出の能力を喪失したビリー・ワイルダー。また、いかにも映画への愛が あるんだ、と言いたげな「古き良き映画」へのオマージュっぽい作りが癪 に障る。お前、そんなに映画好きじゃないだろ、とツッコミたくなる。ま た解せないのが、西田敏行の重用ぶり。西田敏行は全くもって映画のスク リーンには向いていない役者だと思うのだが。

先頭 表紙

マッキィ様、有難うございます。でも、つくづく思うのですが、映画の面白さって文章に出来ないですね。映像と言語はそもそもが違うものですもんね、言葉で表現できるはずが無いんですけど・・・結局、最後は、「面白い」「素晴らしい」「美しい」とかになってしまいます。 / ナライフ ( 2008-08-26 15:41 )
フィー子様、全部映画館でやっていましたよ、今、上映中のものもありますが。『マジックアワー』、面白いことは面白いんですけど、せっかく面白い脚本なので、脚本に徹して監督は他の人に任せた方がいいかなぁ、と思うんですよね。例えば周防正行監督とか。 / ナライフ ( 2008-08-26 15:38 )
これだけ量を観てるのもすごいですが、たった数行で明確に表現する文才、そしてその視点に、すごいな〜と思ってます。 / マッキィ。 ( 2008-08-22 13:43 )
これみんな、普通に映画館でやってるものなんですか?すごいなあ、ナライフさん。三谷幸喜のくだり、もやもや抱いていた思いを言葉にしてもらった感じがしました! / フィー子 ( 2008-08-21 22:16 )

2008-08-13 最近映画館で観た映画あれこれ

◆『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』 スピルバーグの手抜き。ルーカスのアイディアに違いないであろう、CGを使った醜い画面が頻出。いくら冷戦下の時代を描かん為とは言え、核爆発をCGで見せたいが為のあの場面はいかがなものか。紋切り型のキノコ雲を背景に冷蔵庫から出てきたハリソン・フォードを捉えたショットの冴えないこと!そしてホークス『ピラミッド』を彷彿とさせるラスト近くのシーンは、ただのパクリだ。スピルバーグがいくらホークス好きだからと言っても感心できない。それにヤヌス・カミンスキーのキャメラが画面にマッチしていない。『宇宙戦争』や『マイノリティ・リポート』では素晴らしかったのに。スピルバーグは間違いなく映画作家として才能があると思うのだが、ルーカスはダメだ。テクノロジーとビジネスにだけ興味があるオタクだ。
◆『カメレオン』(坂本順治)
 傑作!相変わらず坂本順治監督は素晴らしい。冒頭の手の極端なクローズ・アップのワンカットだけで凄さが分かる。藤原竜也もいいし、あまり知らなかったが、水川あさみも素晴らしい。あの芸能一座の家の空間、あの造形も実に素晴らしく、ロケハンとセット美術の勝利だと思う。何か似た空間があったな、と思ったが『サッドヴァケイション』の間宮運送を思い出した。脚本作成時に松田優作が想定されていたからではないが、アクション場面での長廻しでブレながらも人物を追いかけるキャメラが『最も危険な遊戯』を思い出させる。あの芸能一座での宴会シーンでのキャメラといい、力強く無駄が無い。全くヒットしていないのが残念。
◆『JUNO/ジュノ』(ジェイソン・ライトマン)
 愛らしい佳作。何と言ってもヒロイン役のエレン・ペイジが素晴らしい。あと、ジュノの父を演じたJ.K.シモンズもいい。この、題材との距離感は得がたいものがあり、高校生の妊娠・養子縁組・離婚、等々といった暗くて重くなりがちな題材へのアプローチが、映画とは別の次元の話だが、好ましい。その好ましいスタンスがジュノにもダブっている。とは言え、『アフター・スクール』と同様、これは脚本の映画であって、それ以上でもそれ以下でもない。「真の映画」ではない。
◆『赤い風船』(アルベール・ラモリス)
 珠玉の35分。1956年のフランス映画。モンマルトルを捉えたエドモン・セシャンのキャメラが実に素晴らしく、ヌーベルバーグの登場を予感させる生々しさに満ちている。ただ、その作品は愛らしい。赤い風船をヒッチコックのマクガフィンのように扱いつつ、これまたセリフが殆ど無い中、長廻しと切返し、俯瞰ショットなどを駆使して、美しいカラー画面で語っていくさまは見事。
◆『スピードレーサー』(ウォシャオスキー兄弟)
 長過ぎる。ジャパニメーションやポップカルチャーなどへのオタク的な傾倒ぶりを示すウィシャオスキー兄弟が、似た趣味を持つタランティーノと決定的に違うのは、フィルム的映画感性に忠実になる倫理観だ。CGなどのテクノロジーを駆使して画面を創り出すウォシャオスキー兄弟の作品は、結局のところ映画ではなく、自らの欲求の最新技術での再現になってしまっている。各国の実況中継を短いカットで沢山挿入することで物語の説明の役割を担わせているが、その何とも説明的で平坦なこと。ポップな色彩で画面を賑わせているのはいいと思うが、ティム・バートンの『マーズ・アタック』のようなポップになり得ていないのが何とも惜しい。とは言え、劇場に客が殆ど入っておらず、そこまで悪くはないぞ、『マトリックス』シリーズなぞよりはマシなのだから、もっとヒットして欲しい、と思ってしまう。

先頭 表紙

2008-06-25 内田けんじ。邦画界の異質な才能。

 『アフタースクール』(2008年;内田けんじ監督、柴崎幸三撮影、大泉洋主演)を観た。

 相変わらず面白い。デビュー作『運命じゃない人』でも冴えていた脚本が、今回も冴えていて素晴らしい。なんか、絶好調の時のロナウジーニョやクリスティアーノ・ロナウドをみるようなキレまくりの脚本だ。ここまで「物語」にこだわる監督、今時珍しいと思うが、その完成度、凝り度は最近では他に類を見ない。

 1940年代〜60年代くらいに活躍したアメリカの映画監督ビリー・ワイルダーの薫陶を受けているのではないか、と推測されるが、凝りに凝った脚本と緻密な物語構成、ラスト近くで「えっ!?」というドンデン返しの連続となる仕組みは、リメイクや有名原作から映画化することが多い現在の邦画界の中では異質で貴重だ。(ただ、リメイクだろうとオリジナルだろうと映画として面白いかどうかは別問題だが。)

 また、脚本ばかりに目を奪われがちな作品だが、その演出力も素晴らしく、カットの構成、構図、音の使い方、オフスペースの活用、など、堂々たるものである。佐々木蔵之助扮する「探偵」が、学校で大泉洋扮する先生にばったり会うシーンでの、廊下を大泉が通りかかるタイミングとそれを契機に映画の空気がサッと変わる呼吸、などは、脚本同様の緻密な計算が働いていながらその計算を感じさせない演出力だ。

 映画には2タイプあり、脚本から絵コンテを作りこみ、撮影前から既に映画が出来上がっていて、そのプラン通りに製作していくタイプと、一応脚本は最初はあるにしても監督の感性やその場の状況に応じて即興的に撮影していき、撮影と編集を通じて製作していくタイプとがあるとすると、内田けんじは明らかに前者の極だ。前出のワイルダーや、ヒッチコック、黒澤明や小津安二郎が前者タイプだし、後者タイプとしては、ジャン・ルノワール、ロベルト・ロッセリーニ、ジョン・カサベテス、そして日本では北野武などが当てはまるだろう。

 キャメラが弱く、画面にあまり力が漲っていない、とか、脚本が緻密過ぎて説明の為のショットが多くなりがち、とかいった「欠点」がないとは言えないのだが、それでもこの「異質」な監督の作品は、圧倒的に面白く、次回作も楽しみで仕方が無い。


先頭 表紙

マッキィさま、つっこみ有難うございます。『運命じゃない人』、脚本が凝っているという点では『アフタースクール』以上ですよ! / ナライフ ( 2008-06-27 08:22 )
フィー子さま、たしかに大学では映画を専攻しました。と言っても「映画を観まくる口実になっていいし、授業やゼミでも映画観られるし・・・」くらいな軽い感覚でした。ただ、物語の中味には興味がなくて、語り口とか画面とかに文字通り目が向いてしまうのは高校生くらいからの「偏り」だった気がします。 / ナライフ ( 2008-06-27 08:19 )
わたしも観ました、アフタースクール。最後のどんでん返しには驚きますよね。この映画がおもしろかったので、運命じゃない人も観てみたいと思ってます。 わたしもフィー子さんと同様、プロの視点と文章だなと感じてました。この文章読んでるだけでも映画を観たくなるんですもの。 / マッキィ。 ( 2008-06-25 23:37 )
もしかしてナライフさんって大学で映画を研究されたりしてたんでしょうか?いつも見方がプロのようですよね。 / フィー子 ( 2008-06-25 21:45 )

2008-06-20 シド・チャリシー!

 シド・チャリシーが亡くなった。ご冥福をお祈りします。
私の最も好きなミュージカル映画『バンド・ワゴン』でフレッド・アステアと踊ったあの優雅な姿が忘れられない。 
 アステアと言えばジンジャー・ロジャースだが、一番輝きを見せた組合せの相手はシド・チャリシーだったのではないか。スタイルが抜群で、踊りも素晴らしく、『雨に唄えば』でジーン・ケリーと踊った場面も良かったが、彼女のキャリアの白眉はやはり『バンド・ワゴン』だろう。
 ハリウッドのミュージカルは『ウエストサイド物語』以降、最近の『シカゴ』や『ドリームガールズ』に至るまで、カットを細かく割り、編集で歌や踊りを繋いでいく“MTV的”なものばかりとなってしまったが、フレッド・アステアやジーン・ケリーが活躍した頃、即ち、1930年代〜50年代は、ダンスシーンになると、カット割りを殆どせず、長廻しのフルショットでじっくり至芸を味あわせてくれていた。好みはいろいろあろうが、淀川長治さんがいみじくもおっしゃっていた、「ミュージカルは『ウエストサイド物語』の登場で壊れてしまいましたね。」という意見に私は賛成だ。
 そのミュージカル映画が一番輝いていた頃の、私にとっての最高傑作が『バンド・ワゴン』、最高のダンサーが、フレッド・アステアとシド・チャリシーだ。アステアの自伝『Steps in Time』で、アステアはシド・チャリシーに惜しみない賛辞を贈っているが、まさに『バンド・ワゴン』での“ガールハントバレエ”には痺れたし、何と言っても“ダンシング・イン・ザ・ダーク”は優美さの極みで、素晴らしいセット美術とキャメラの中、2人のシンプルな白い衣装が美しく、特にシド・チャリシーの美脚を見せるために作られたであろうスカートの見事なつくり、ぴったりと息の合った2人のダンス、何回でもそこだけ繰返して観たくなる、映画史上に残る瞬間だと思う。
http://jp.youtube.com/watch?v=duLFwcsc6Nc&mode=related&search=

 シド・チャリシー、ありがとう。


先頭 表紙

フィー子さま、たしかに、追悼記多いですね。気付かなかったです・・・たまにはもう少し景気のいい話しないといけませんね。 / ナライフ ( 2008-06-23 09:34 )
ナライフさん、追悼記が多くないですか?! こういうミュージカル映画もお好きだとは結構意外な感じがしました。昔の美人は本当に美人で、うっとりします。 / フィー子 ( 2008-06-20 21:43 )

2008-02-22 レベルの差とスタイルの違いと・・・

 あまりの力の違いに、プロとアマの試合を観ているような、そんな試合だった。セルティックVSバルセロナ。
 リーガ・エスパニョーラに憧れていた中村俊輔にとっては夢に見た対戦だったろうが、無残な敗北感しか残らなかったのではないか・・・セルティックのホームでありながら、ボール支配率もシュート数も圧倒され、はっきり言ってセルティックの見せ場はほとんどなし。それでも2点を取り、2度はリードしたのだから、それ自体、奇跡的だとは思う。
 とは言え、チャンピオンズリーグという世界最高レベルの真剣勝負の舞台で、ファーストタッチでのボールコントロールや一瞬のフェイク動作で抜いてしまうテクニックといった個人技術の点で、これほどの差を感じたのも過去にあまり覚えがなく、極めて図式的ながらも本質を突いていると思われる、ボール技術に関してのラテン系及びアフリカ系とアングロサクソン系との「差」が如実に顕われていたのは否めない。
 技術に差があるからこそ、走力、パワー、組織力、といった点で立ち向かうのがセルティックの道だったわけだが、そういった点でもバルサは劣っておらず、まだカンプノウでの試合が残っているとは言え、セルティックが勝ち上がる可能性をあまり見い出せない印象である。
 その一方、注目の「アーセナルVSミラン」は、今季絶好調でプレミアリーグにありながらアングロサクソン系ではないテクニカルで美しいパス攻撃をするアーセナルが予想通りボール支配率では圧倒しながらもあと一歩で得点には至らず、堅い守備と時折見せるカウンターやピルロやカカやセードルフらの個人技が光るミランが何とか守りきってスコアレスドローとなり、ジュゼッペ・メアッツァでの次戦が更に興味深いものとなったのであり、こちらはスタイルの「違い」はあってもレベルに「差」がなく、がっぷり四つのゲームだった。それにしてもセスク・ファブレガスは凄い・・・
 一見、アーセナルが優位に見えたゲームかも知れないが、ミランの底力は不気味。次戦、ミランがホームでアーセナルの攻撃を抑えながらカカやパトの一撃で沈める可能性がありつつ、ホームで失点を許さなかった、つまりアウェーゴールを奪われなかったアーセナルが1点入れさえすれば一気に優位に立つわけで、その可能性も十分に感じさせる、何とも刺激的な90分になりそうだ。
 チャンピオンズリーグ、いよいよ佳境に入ってきた。
 

先頭 表紙

ガス欠コインさま、お久しぶりです。セルティック、仰るとおりの結果でしたね。力の差があり過ぎましたね。ただ、俊輔のトップ下はチームにフィットしていたと思いました。それにしても今のアーセナルは強いですね。アンリが居なくなって逆にチーム力が上がりましたね。 / ナライフ ( 2008-03-06 09:22 )
2つとも、ゲームを見ることはかないませんでしたが、俊輔なんで、スコットランドに行ったんでしょうね、いまさらながらですが。某宗教団体の総本山があるからだとも言われていますが、僕が認めるアングロサクソンはガスコインだけです、未だに。セルティックが上がっていくことは、まずないと思います。 / ガス欠コイン@ご無沙汰です。 ( 2008-03-03 00:21 )
KATSUMI様、ご無沙汰しています。そうですね、ミランは2点リードしないと安心できない、という状況ですもんね。アウェーゴール・ルールが戦術的にも心理的にも大きく影響しそうですね。 / ナライフ ( 2008-02-26 08:07 )
ホームで攻めに出たミランが守りきれるか心配、ミラニスタな私です(笑)。 / KATSUMI@適度に活動 ( 2008-02-25 22:50 )
陸上の短距離走、言い得て妙ですね!バルセロナ、決して2シーズン前のような輝きを取り戻してはいないと思うのですが、それでも凄かったですね。 / ナライフ ( 2008-02-22 17:25 )
俊輔のポジション、あまりにも忙しかったですね。1本、光るパスがありましたが、味方が鈍く残念でした。それにしても、最後、メッシ、エトゥー、アンリの3人が前に並んだときは、陸上の短距離走か、と思いましたよ。後ろからのボールを受けながら一度も止まらずミスることなく全速力で前に走っていける選手だらけですよね、バルサって。 / フィー子 ( 2008-02-22 15:56 )

2008-01-22 2007年の映画

とあるところに発表したリスト、2007年の私の洋画ベスト10、邦画ベスト10です。2007年に日本で公開された映画から選ぶのを原則としていますが、一部06年末に公開されたものもあります。
<洋画>
 『夜顔』(仏・葡/マノエル・デ・オリヴェイラ)
 『ここに幸あり』(仏・伊・露/オタール・イオセリアーニ)
 『クィーン』(英/スティーブン・フリアーズ)
 『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(米/ロバート・アルトマン)
 『デス・プルーフ』(米/クエンティン・タランティーノ)
 『街のあかり』(フィンランド/アキ・カウリスマキ)
 『リトル・ミス・サンシャイン』(米/ジョナサン・デイトン/ヴァレリー・ファリス)
 『デジャヴ』(米/トニー・スコット)
 『スモーキン・エース 暗殺者がいっぱい』(米/ジョー・カーナハン)
 『ロッキー・ザ・ファイナル』(米/シルベスター・スタローン)
<邦画>
 『サッド・ヴァケイション』(青山真治)
 『魂萌え!』(阪本順治)
 『天然コケッコー』(山下敦弘)
 『叫』(黒沢清)
 『神童』(萩生田宏治)
 『幸福な食卓』(小松隆志)
 『素晴らしき休日』(北野武)
 『蒼き狼 地果て海尽きるまで』(澤井信一郎)
 『それでもボクはやっていない』(周防正行)
 『サイドカーに犬』(根岸吉太郎)
日本映画がテレビ局と広告代理店に牛耳られつつある状況が、どう贔屓目に見ても映画の質の向上に貢献していないと感じています。その中では上記の邦画は素晴らしく、ここに居る監督たちの今後の更なる活躍を願って止みません。洋画に関しては、上位3作は文句なしの傑作だと思います。意外に思われるかも知れない『ロッキー・ザ・ファイナル』、荒唐無稽な物語をあくまでシンプルに徹し、ロッキーの心理的葛藤など一切描かずに100分という短い時間に収めた、スタローンの経済性は見事、というか聡明な判断だと思いました。
今年はどんな年になるのでしょうか?既に邦画では、どこにも良さが見出せない『銀色のシーズン』がある一方で、『かぞくのひけつ』と『人のセックスを笑うな』が抜群の出来栄えです。今年も数々の映画との出会いが楽しみです。

先頭 表紙

フィー子様、分母に入っていますよ。と言っても、あまり娘と映画を観ていないですけれど・・・ 『マリと・・・』は未見です。娘の同級生には観た人が居るらしく、面白いらしいですよ。たまたま昨日、何か観たい?と娘に尋ねたら『アース』か『Mr.ビーン』ですって・・・ / ナライフ ( 2008-01-28 16:04 )
マイケル様、ご無沙汰しています。『人のセックスを笑うな』の井口奈巳監督、デビュー作の『犬猫』も是非観て下さい。正直言って、第2作は第1作を超えなかったな、という感想を持っています。いずれにせよ、井口監督は確かな才能を持った監督だと思います。恐らく僕はこれから彼女の作品は追い駆けると思います。 / ナライフ ( 2008-01-28 16:01 )
お誕生日おめでとうございます!! 子供向け映画も分母に入っているんでしょーか?マリと子犬の物語はごらんになりましたか? / フィー子 ( 2008-01-27 19:28 )
去年は「007」とボサノヴァのドキュメンタリー映画の2本しか見ませんでした... 「人のセックス...」気になってます。小説は今ひとつピンと来なかったんですけど、山崎さんが朝日新聞に連載していたエッセイは好きでした。 / マイケル ( 2008-01-23 09:57 )
上記、抜けていたものが1つありました。『長江哀歌』(中国/監督:ジャ・ジャンクー)が抜けていましたね。一昨年のフィルメックス映画祭で観ていたのですが、昨年公開でした。これは洋画部門の上位に入ります。 / ナライフ ( 2008-01-23 08:36 )
フィー子様、分母は80前後です。そう考えると入る確率が高いベスト20ですね。1/4ですもんね。DVDや名画座等で、旧作ながら僕にとっては初見、という映画も結構あるのですが・・・ / ナライフ ( 2008-01-23 08:33 )
マッキィ様、原作を読んではいませんが、恐らく『人の・・・』は、あらすじは変わっていないかもしれませんが、小説と別物になっているのでは、と思います。言葉に置換可能な描写がなく徹底的に映画的な画面になっていると思います。 / ナライフ ( 2008-01-23 08:29 )
ほんとにいつもたくさん見ているので驚きます。いったい上記の映画の分母はどのくらいなんでしょうか?! / フィー子 ( 2008-01-22 22:37 )
見たかったけど見逃した映画がいくつかラインアップされてるので、見逃したことを今さら悔やんでいます。人のセックスを笑うな、小説を読んでいるのでその違いを楽しみたいです。 / マッキィ。 ( 2008-01-22 21:53 )

2007-07-03 エドワード・ヤン!!

 エドワード・ヤンが亡くなった。台湾の映画監督である。59歳だったという。今から7年前の映画『ヤンヤン夏の想い出』が遺作となってしまった。一部の映画フリークくらいしか知らない名前かも知れないが、台湾映画界をホウ・シャオシェンと共に支えていた人であり、同世代にスピルバーグ、ロブ・ライナー、ヴィム・ヴェンダース、ジョン・ウー、チェン・カイコー、チャン・イーモウ、ジム・ジャームッシュ、ソクーロフ、等々が居て、現在の映画界を支えていると言って良い監督たちの世代の人なのである。
 ヤンの映画で一番昔に観たのが、『恐怖分子』だった。シャープで端整な映画だった。そして、何といっても圧倒されたのは『クーリンチェ少年殺人事件』(1991)であるのは、あの頃彼の映画を観ていた誰にとっても共通する実感だろう。その2年前の、ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』も圧倒的な傑作だったので、当時、僕は、台湾映画の凄さに驚愕した。しっとりとした情感と悠然たる語り口のイメージがあるホウ監督と、シャープで切れ味鋭い演出のヤン監督。好対照の二人に関して、「どっちが好きか」「どっちが上か」などという議論もあったようだが、僕はどちらも大好きで優劣などをつける存在でない、という感じだった。少なくとも、同い年のスピルバーグ、同じアジアで同世代のカイコーやイーモウよりは映画の作り手としての感性と才能は上だ、とは確信していた。
 その確信は今でも正しかったとは思うのだが、商売としては彼らの後塵を廃していたと言えるだろう。スピルバーグは言うまでもなく、中国のカイコーは『さらばわが愛/覇王別姫』のヒットでハリウッドにも進出、イーモウは『初恋のきた道』あたりからヒット作を連発しているが、ヤンは遺作となってしまった『ヤンヤン夏の想い出』ですら、カンヌで監督賞を獲得したとは言え商売的には寂しいものだった。そもそも1990年代を代表する傑作と信じて疑わない『クーリンチェ少年殺人事件』などは、版権の問題等で未だに再上映も無ければDVDにもなっていない。
 エドワード・ヤンの才能が、時代には早過ぎたのだろう。その評価にはまだ時間がかかるかもしれない。孤高の天才は、その死すら早過ぎた。合掌。

先頭 表紙

フィー子さま、つっこんで下さり有難うございます。闘病の中、ジャッキー・チェンとの共同プロデュースでアニメーション映画を製作中だったという噂は聞いたことがありますが、真偽の程は?です。なんでも、ジャッキーがモデルのカンフーの達人の物語だったとか・・・ / ナライフ ( 2007-07-06 07:48 )
59歳じゃあ、まだまだ監督として悔いが残るでしょうね。撮影途中だったものとかないのかしら? / フィー子 ( 2007-07-05 22:34 )

2006-12-28 2006年の映画

 今年も残りわずか。ワールドカップがあったり、海外出張が多かったりして、例年より鑑賞できた映画が少なくなってしまったという点で実に残念ではありましたが、あるところの「2006年公開の映画のベスト10」企画に入れた自分のリストをもって、久しぶりの更新といたします。とても「日記」ではありませんね、これは。こういうの「年記」って言うんですかね。

2006年1−12月でのベスト10
@『百年恋歌』(台湾:ホウ・シャオシェン監督)
A『硫黄島からの手紙』(米:クリント・イーストウッド監督)
B『太陽』(露:アレクサンドル・ソクーロフ監督)
C『父親たちの星条旗』(米:クリント・イーストウッド監督)
D『ゆれる』(日本:西川美和監督)
E『MiV』(米:JJエイブラハム監督)
F『レディ・イン・ザ・ウォーター』(米:M・ナイト・シャラマン監督)
G『LOFT』(日本:黒沢清監督)
H『フラガール』(日本:李相日監督)
I『ありがとう』(日本:万田邦敏監督)

 そして、「シネマヴェーラ渋谷」という映画館がオープンしたことが、2006年の日本映画界にとって特筆すべき画期的なことだったと思います。この1年の収支が大変心配ですが、先見性、独創性のある特集が目白押しでした。中でも「勢揃い!『次郎長三国志』全13部作参上!!」は、「待ってました!」と叫びたくなる企画。マキノ監督の次郎長シリーズ全作を観ることができ、至福の映画体験でした。

 最後に。来年公開が決定している作品をどうしても紹介させて下さい。タイトルは『三峡好人』。監督は中国のジャ・ジャンクー。11月に開催された「第7回東京フィルメックス映画祭」のオープニングで上映された、今年のヴェネツィア映画祭で金獅子賞を受賞した映画ですが、これがドミュメンタリーと劇映画の二分法を軽々と超えてしまうような傑作です。因みに、会場で、蓮實重彦氏とドナルド・リチー氏が並んで鑑賞されているのを見かけたのも軽い驚きでした。

先頭 表紙

フィー子さん、もともと僕も妻もスキーをあまりやらないので娘と一緒に上達している感じです。スキーに関しては多分娘は僕を追い越してしまったので、誇らしいというより、“自分が情けない”という感じでしょうか・・・ / ナライフ ( 2007-01-31 19:02 )
スキーにはまってるなんて!凄いですね〜★雪山で見る娘さん、小さく見えませんか?誇らしいですね♪ / フィー子 ( 2007-01-29 19:39 )
ガス欠コイン様、ありがとうございます。またフットサルしたいですね! / ナライフ ( 2007-01-29 09:25 )
フィー子さん、ありがとうございます。確かに「かの地」でした。スキーにはまっている娘と一緒にスキー三昧でした。 / ナライフ ( 2007-01-29 09:23 )
お誕生日おめでとうございます。「手紙」、まあありなんでしょうね。 / ガス欠コイン ( 2007-01-28 06:01 )
お誕生日おめでとうございます!かの地でお祝いしているんでしょうか。素晴らしい一年となりますように・・・。 / フィー子 ( 2007-01-27 17:19 )
ガス欠コインさま、お久しぶりです。「手紙」、観ました。演出過多だと思いましたが、まあ、ありかな、と。 / ナライフ ( 2007-01-11 10:26 )
恥ずかしながら、昨年、劇場で観た映画は一本です。「手紙」。それなりに原作を描いていたけれど、東野圭吾氏の原作を超えることはかないませんでした。重厚さが違います。 / ガス欠コイン ( 2007-01-05 12:27 )
azzurriさん、お時間の無い中で観た2作がその2つとは!! 専門家ですら公開される全ての映画を見尽くすことは出来ない環境の中、観る作品に何を選ぶか自体、とても重要ですよね。 / ナライフ ( 2007-01-04 09:38 )
フィー子さん、「さんきょうこうじん」だと思ったのですが、日本で公開される時は別の邦題が付いているかも知れませんね。このベスト10は僕の個人的なものです。分かり難い文章でごめんなさい・・・本年もよろしくお願いします! / ナライフ ( 2007-01-04 09:32 )
気が付けば、今年は硫黄島2部作だけしか観られませんでした、、、こういう映画は、若い人にこそ観て欲しいですね。 / azzurri ( 2006-12-31 03:29 )
へー、楽しみにしてます。三峡〜ってなんて読むんでしょうか?(^_^;) ナライフさん、映画は趣味の域を超えてませんか?(笑) ところで上のベスト10は、ナライフさんが思うベスト10なんですか?あるところに載ってた、ということなんでしょうか?(なんかアホをさらしてるようなつっこみですみません(^^ゞ) / フィー子 ( 2006-12-30 10:45 )
マイケルさん、「怒涛」は削除しましょうかねえ・・・ 「リトル・ミス・サンシャイン」、僕も見たいんですよねえ。 / ナライフ ( 2006-12-28 13:08 )
ナライフさん、更新が全然「怒涛」の勢いじゃないですねぇ(笑)...ちなみに僕は今年は11本しか映画を見れませんでした。下半期は未だ2本だけで、うち1本が「ゆれる」でした。明日「リトル・ミス・サンシャイン」見るつもりですけど。 / マイケル ( 2006-12-28 10:39 )

2004-07-21 カルロス・クライバーを追悼する

 カルロス・クライバーが亡くなった。クラシック音楽好きの方ならご存知の名前かと思うが、私が知り得る限り最も才能溢れセンス豊かな指揮者だ。予期せぬ事態に悲しみを通り越して思考停止に近い状態だったが、やっと気持ちを整理することが出来始めた状況である。
 カルロス・クライバー。ベートーベンの交響曲第5番『運命』を始めとして、それが聞き古された曲であっても、彼が指揮をすると、まさに音楽がその場で生まれているかのように新鮮で、衝撃的で、その音の流れに身をずっと浸していたいという原初的欲望を抱かずにはいられない曲に生まれ変わっていた。手垢のついた曲が、「実はこういう曲だったのか」と思ってしまい、これまでの演奏が一気に古びてしまうような、そういう演奏を数少ないレパートリーにおいて披露してくれた指揮者だった。専門家ではないので真偽の検証をしているわけではないが、重厚長大がもてはやされ分厚い演奏が主流だったクラシック演奏界の流れに彼の演奏が一石を投じたのは間違いないと思う。余計な贅肉を落とした筋肉質な演奏とでも言えば良いのだろうか、オーケストラの人数を作曲当時と同じ規模に縮小し、甘ったるい感傷や深遠ぶった叙情を排し、純粋に音のみで勝負する演奏。アップテンポの部分では全ての音がいきいきと粒だち、圧倒的なエネルギーでドライブし、穏やかなテンポの部分では、感傷を排した透明な叙情で美しさが極まる。不世出の天才だったと改めて思う。
 その完璧主義からか、あるいは天才特有の気質からか、名が知れるようになった1970年代後半以降は、指揮台に立つことも少なく、たまに立ってももごく限られたレパートリーばかりを取り上げ、レコーディングも極端に少なかった。ファンにとってはフラストレーションのたまる存在ではあったが、ひとたび指揮台に立つと成功と熱狂は保証されたようなものだったと言って良いだろう。今思うと、1990年頃、彼がミラノ・スカラ座を引き連れて演奏した、プッチーニの『ラ・ボエーム』と、その3-4年後のウィーン国立歌劇場管弦楽団と演奏した、リヒャルト・シュトラウスの『ばらの騎士』を、生で体験できたことは私の宝である。どちらも「空前絶後の名演」とか「歴史的名演」とか言われたものだが、どんな美辞麗句を並べても虚しくなるだけの、形容不可能な演奏だった。しかもクライバーの場合、その指揮ぶりが実に美しく流麗なので、オペラに行きながらも目線はオーケストラピットの指揮者に釘付けなのだ。恐らく集まった観客の多くも同じなのだろう。現在市販されいてる彼の指揮したオペラのライブDVD、例えば、ヨハン・シュトラウスの『こうもり』を観ると、オペラの映像にも関わらず、指揮者を捉えたカットの挿入がなんと多いことか。未体験の方は音だけでなく是非映像も観て欲しいと思う。
 今となってはごく僅かに残っているだけのCDやDVDでしかその演奏を体験できないが、彼の残した録音と映像は、20世紀が残した大きな宝だと思う。ヨハン・シュトラウスのワルツやポルカ、ベートーベンのシンフォニー4,5,7番、ブラームスの2,4番、モーツァルトのリンツ、ヴェルディの『椿姫』、プッチーニ『ラ・ボエーム』、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』、R・シュトラウスの『ばらの騎士』、J・シュトラウスの『こうもり』・…音符はお同じでも、演奏者が同じでも、これだけの演奏を引出す指揮者は今後現れることはないだろう。合掌。

先頭 表紙

お誕生日おめでとうございます。また文章書いてください。私ももう少し落ち着いたらサッカー日記、もっと書いていきたいと思ってます。また遊びに来て下さいね〜。 / フィー子 ( 2005-01-27 17:28 )
お誕生日おめでとうございます!お忙しい日々を送られていらっしゃるとは思いますが、お元気ですか? / azzurri ( 2005-01-27 12:08 )

[次の10件を表示] (総目次)