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烏丸の「くるくる回転図書館 駅前店」

 
今後、新しい私評は、
  烏丸の「くるくる回転図書館 公園通り分館」
にてアップすることにしました。

ひまじんネットには大変お世話になりましたし、
楽しませていただきました。
その機能も昨今のブログに劣るとは思わないのですが、
残念なことに新しい書き込みがなされると、
古い書き込みのURLが少しずつずれていってしまいます。
最近も、せっかく見知らぬ方がコミック評にリンクを張っていただいたのに、
しばらくしてそれがずれてしまうということが起こってしまいました。

こちらはこのまま置いておきます。
よろしかったら新しいブログでまたお会いしましょう。
 

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2000-11-28 烏丸のそれはちょっといやだ その10 『不肖・宮嶋の一見必撮!』 宮嶋茂樹 / 文藝春秋
2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その9 『魔術師さがし』 佐藤史生 / 小学館(プチフラワーコミックス)
2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その8 『猟奇文学館1 監禁淫楽』 七北数人 編 / ちくま文庫
2000-11-26 烏丸のそれはちょっといやだ その7 『女(わたし)には向かない職業2 なんとかなるわよ』 いしいひさいち / 東京創元社
2000-11-24 烏丸のそれはちょっといやだ その6 『三毛猫ホームズの推理』 赤川次郎 / 光文社文庫
2000-11-24 烏丸のそれはちょっといやだ その5 『グイン・サーガ(75) 大導師アグリッパ』 栗本薫 / ハヤカワ文庫
2000-11-23 烏丸のそれはちょっといやだ その4 『悪魔学大全』 酒井 潔 / 桃源社
2000-11-22 烏丸のそれはちょっといやだ その3 『SpaceAdventure コブラ』 寺沢武一 / 集英社
2000-11-21 烏丸のそれはちょっといやだ その2 『諸怪志異』シリーズ 諸星大二郎 / 双葉社
2000-11-21 烏丸のそれはちょっといやだ その1 『ドロファイター』 村上もとか / マインドカルチャーセンター(MCCコミックス)


2000-11-28 烏丸のそれはちょっといやだ その10 『不肖・宮嶋の一見必撮!』 宮嶋茂樹 / 文藝春秋


【破滅に向かってまっしぐら,写真界の横山やすし】

 『不肖・宮嶋の ネェちゃん撮らせんかい!』に続いての宮嶋本ご紹介である。しかし……「それはちょっといやだ」シリーズ最終回で,よもや不肖・宮嶋を取り上げることになるとは。この烏丸,涙でディスプレイもにじもうかというものである。

 思えばこれまで,週刊文春のグラビア担当でありながら,クレスト新社,太田出版,新潮社,祥伝社,ザ・マサダなど他の版社を転戦してきた不肖・宮嶋,ついに大本営,芥川賞・直木賞の文藝春秋からの単行本化である。紅白饅頭に注連縄(しめなわ)を副えておごそかに書評したいものだ……が。残念ながらヌルい。これまでの彼の全著作中で最もヌルい。無残なまでに,ヌルい。

 理由の一,文字量が少ない。
 各ページ,縦36文字×横12行である。活字の詰まった文庫本が43文字×20行であることを思えば,隙間だらけである。しかも,ただでさえ文字の少ない割組みに加え,26ある各章すべてに宮嶋のおちゃらけ写真,おちゃらけ川柳がだっふり幅をきかせているのである。

 理由のニ,もちろん宮嶋茂樹はカメラマンであって,文字が少なくとも写真が語れば善哉。しかし,その写真がヌルい。
 以前も述べたが,ノルマンディー上陸作戦50周年記念式典でドイツ軍の制服を着て日章旗を振り,金日成の像の前では同じポーズをとって撮影されるなど,「そこまでやるんかいな」と伊勢エビも直立不動するような,そんなミッションがない。
 もちろん,戦火のチェチェンに赴く,水中に落ちていく航空機のコックピットから脱出するディッチング・トレーニングなど,宮嶋が今もスクープに生命を張っていることは否定しない。しかし,法の華の取材撮影,輸送艦「みうら」の退役式典,ローラーゲーム,エアロビ大会,林眞須美宅解体現場……通して読めば,どうにもヌルいのである。文章の突っ込みも甘いのである。

 理由の三,編集方針がなんか違う。
 先にも述べた通り,各章の頭には不肖・宮嶋のおちゃらけ写真が並んでいる。本文内写真にも宮嶋は頻出する。表回り含めれば,ざっと数えて40枚以上,宮嶋当人の写真が載っているわけである。
 これではもはやお笑いタレント本ではないか。

 不肖・宮嶋ファンは,静止映像としての宮嶋当人のファンではない。
 自衛隊,オウム,北朝鮮,戦場,動乱,容疑者,きれいなネェちゃん,そういったターゲットにくらいつき,糞をたらし,はいつくばってでもスクープを狙う,その「矢印」が興奮を呼び,笑いを誘うのである。だから文章はノリのよい現在進行形でないといかんのである。各章におちゃらけ写真と川柳を付けるのは,サービスのつもりかもしれんが,それはそのスクープ写真を狙う宮嶋を過去のある時点に追いやるだけであって,「矢印」本来の魅力は失われてしまうのである。これではオートバイの名車を博物館のガラスの中に置いて,ほらえーやろ,とゾクのニィちゃんから拝観料取るようなもんである。なんでそれがわからん。

 実は,今回唯一嬉しかったのは,紀伊国屋BookWebが「裏カバーに若干のキズがあるので1割引きにいたします」と言ってくれたことであった。見れば爪でひっかいた程度。携帯電話,ボールペンと一緒にカバンに入れればすぐつくような,書店店頭でも気にしない程の些細なキズである。再手配などお願いせずありがたく1割引きでお支払いさせていただいたが……待望の不肖・宮嶋の新刊でこんなことが一番ありがたいとは。……それはすごくいやだ。

先頭 表紙

ネタの多くが不肖・宮嶋のヒット作の後追いであること(「みうら」とか「林眞須美宅」とか),新潟少女監禁事件のように同じネタで2題とっていることなど,週刊文春のグラビアならおっけーでも,単行本にされるとちょと待てな感じです。結局,不肖・宮嶋本がある程度売れるのが明らかになって,ネタが十分集まる前に本にしてしまったということでしょう。 / 烏丸 ( 2000-11-29 12:27 )
いやいや、まったくもってこの本にはやられました。「宮嶋、宦官になっちゃったの?」という感じでございました。 / こすもぽたりん ( 2000-11-29 01:49 )
エルさま,烏丸の「シリーズ」は,書評を書く自分のためのハッパかけのようなもので,たとえばケロロ軍曹のように全体の構成を考えたりしているわけではありません。ですので,また似たり寄ったりの書評が続くと思われます……。しかし,次は何をとりあげましょうかねえ。 / 烏丸 ( 2000-11-29 01:38 )
たら子母さま,文藝春秋としては初めての本ですから,手抜きというよりは勘違いだと思うのですが……内輪のことはわかりませんが,単行本の編集に妙に手馴れた担当者の手による本なのかな,という気がします。宮嶋の魅力はそういうところではなく,不器用ながらしつこくしつこく,だと思うんですが。 / 烏丸 ( 2000-11-29 01:35 )
「それはちょっといやだ」シリーズ最終回なんですか??もっと沢山読みたいです。。しかしオチが一割引とは。 / エル ( 2000-11-29 00:23 )
それはまた、同じ宮嶋さんの別の本とは天と地の評価の違いですねえ。まあ、製作側も二匹目のドジョウを狙うと手抜きになるんでしょうか。 / たら子母 ( 2000-11-29 00:05 )

2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その9 『魔術師さがし』 佐藤史生 / 小学館(プチフラワーコミックス)


【もどすって? だから“竜”に】

 新刊情報に注意はしているが,無論チェック漏れもよくある。書店でたまたま佐藤史生の『魔術師さがし』を見つけたときは本当に嬉しかった。

 なにしろ前作『心臓のない巨人』が99年1月。2年ぶりというのはそれでもましなほうでその前の『鬼追うもの』が95年6月,その前の『精霊王』が89年11月と,寡作と言うも虚しい竜舌蘭のようなマンガ家なのである。
 それでも,幸い,遠過去ファンタジーの傑作『夢みる惑星』全3巻,華厳的世界観とコンピュータを扱った怪作『ワン・ゼロ』全4巻は小学館から文庫化されて現在も入手可能だ。絵に対する好みはさておき,SFファン,コンピュータ技術者の方々はぜひ手に取ってご覧いただきたい。とくに後者について,コンピュータを扱ったマンガでこれほどバイナリという概念をバイナリに溶かしたものは見たことがない。しかもテーマはサイバーパンクよりディーバで切実。これに比べれば理系ミステリ作家とやらの作品など入学前の数のおけいこのようなものだ。

 紹介の順が逆になったが,佐藤史生(ペンネームは砂糖と塩から)は少女マンガに革命をもたらしたと言われる24年組・ポスト24年組の1人で,竹宮恵子,萩尾望都らのアシスタントを経てデビュー,坂田靖子,花郁悠紀子,山岸凉子らと親交がある(あった)らしい。問題は『金星樹』『春を夢みし』など70年代後半の初期作品は別にして,その後不親切極まりない作家になってしまったことである。
 不親切とは,要するに,難しいのだ。テーマの多くは(恋愛を扱う際でさえ)およそ通俗的でなく,ある種の状況や感情を描くのに多くの読者に理解しやすい従来の方法を決して用いず,徹底的に異様な設定構築に突っ走っていく。その結果,読者は突き放され,頑張って一字一句読み込んで頑張らないとついていけないということが起こる。その代わり,ひとたび懸命に頭と感性を駆使して読んだなら……佐藤史生的としか表現しようのない,えも言われぬ独特な彩り,手応えが得られるのである。

 本作『魔術師さがし』はこんな始まり方をする。
 大魔法使い(グラン・メール)パングロスが,彼が封印されていたパンタレイ島で行方不明になり,彼をさがすためにマスターチャリスの依頼で名だたる魔術師達が召還される。彼らはまず竜穴のあるエニグマ・ピークに向かい,事態の把握に努めるが……。ここまで読むと剣と魔法のファンタジーと思われそうだが,実際はまるっきり違う。これは,ある種の知性の誕生物語なのだ(これ以上書くとネタバレになるのでこんな妙な書き方しかできないが)。

 それにしても,難しい。コムズカシイのではなく,本気でムズカシイ。
 単行本のために描かれた番外編では,たとえば次のようなやり取りがなされる(作者の一種の悪戯だろう)。

  ベビー「彼らが世界をみる そのみえ方が彼らの言語系だよ パングロス!」
  パングロス「人間の数だけ視点がある──?」

  パングロス「しかし……わたしは本質を理解したい」
  ベビー「人間は趣味をもつ 偽装人格(ペルソナ)も然りだ」

 必死で追いかけようとしている,というのが実情で,今のところなんとか面白がっていられるが,これ以上作者が読み手レベルを「高い」に設定してしまったら……それはちょっといやだ。

 しかし,これほど「おどし」た後では信用されないかもしれないが,面白いことは保証する。併録の短編「マルタの女」(マルタは○の中にひらがなの「た」)においても,四国松山へのデパート進出の話がよもやこんな高爽で愉快なオチにいたるとは。

先頭 表紙

この「マルタの女」,ぽたさま紹介の『恐るべきさぬきうどん 麺地創造の巻』,そして創元の新刊の『ミミズクとオリーブ』(芦原すなお)と,ほんの10日ばかりの間に3か所で四国の話題が目に入った。四国が隠れたブームかなんかなのか。まさかね。 / 烏丸 ( 2000-11-28 12:49 )

2000-11-27 烏丸のそれはちょっといやだ その8 『猟奇文学館1 監禁淫楽』 七北数人 編 / ちくま文庫


【その前に体を拭きましょうね】

 1989年1月,19歳のホステスを足立区内のホテルに連れ込み乱暴したとして逮捕された少年達を追及したところ,アルバイト先から自転車に乗って帰宅する途中だった女子高生(17歳)を別の少年の家に拉致監禁,暴行を加えて殺害し,死体をドラム缶にコンクリート詰めして放置したことが明らかになった。

 2000年1月,新潟県内で1990年11月に行方不明になった少女(当時9歳)が19歳になって保護された。彼女は男性(逮捕時37歳)に無理やり連れ去られ,怖くて逃げられなかった,家の外に出たのは今日が初めてと答えた。

 これらの事件が他の営利誘拐や殺人事件に比べても記憶に生々しいのは,少年犯罪,犯行を知りつつ放置した親の責任,警察の不手際などだけでなく,「監禁」という事件そのものの構図が多くの男達の心の闇の琴線に触れたからではないか。
 誰にも渡したくない,触れさせたくない少女を疾風のようにさらい,無垢なまま閉じこめる。食事も洋服も言葉も性も,すべて閉じた函の中で……。
 そんな「監禁」をめぐる古今の短編を集めたのが本書である。収録作は以下の通り。

 皆川博子「朱の檻」
 連城三紀彦「選ばれた女」
 小池真理子「囚われて」
 宇能鴻一郎「ズロース挽歌」
 式 貴士「おれの人形」
 篠田節子「柔らかい手」
 赤江 瀑「女形の橋」
 谷崎潤一郎「天鵞絨の夢」

 大家からミステリ,ホラー,SFとなかなか強烈なラインナップだ。
 だが,読後感は残念ながら今一つ。理由は明らかで,先に挙げた事件が示すように「監禁したいほど恋しい」ことと現実の「監禁」との間には,無関係と言えるほど距離があるからだ。
 それは愛のようで愛ではない。「監禁」による愛の成就など御伽噺に過ぎず,相手に対する不断の思いやりなしにはただの人形遊びに過ぎない。もし「監禁」を描いて何か新しい感動を与える文学があり得るなら,それは山のようなエログロB級作品の中から僥倖のように立ち上るだろう。だが,本集に納められた作品の多くは,時代柄ただ耽美に走った谷崎は別として,書かれた段階ですでになにかしら人間を描こうとする意識が強すぎ,「監禁」の持つ本質的な暴力や「監禁」される者の恐怖,崩壊が描ききれていないような気がする。
 要するに,現実の事件記事のほうがよほど心に深く陰を残すのだ。

 なお,式貴士について少し説明しておこう。おぞおぞするようなグロテスクな刑罰を描いた『カンタン刑』,グロテスクなエロスとSFの結婚『連想トンネル』『吸魂鬼』などの作品は70年代の末から80年代半ばにかけてソニー・マガジンズおよび角川文庫から発行された。SFといっても未来のメカやネットワークが描かれるわけでなく,しいていえば人魚姫を描いてその食事や主人公とのセックスが描かれる,そんな感じだろうか。
 1991年に亡くなった彼にはもう1つの顔がある。ハードレイプ,凌辱を得意とした官能作家,蘭光生である。二見書房の『女教師・犯す』は当時「本の雑誌」で最も過激なアダルト小説とされたように記憶している。現在駅の売店などで売られる(なじみの本屋では買えない)黒い表紙のフランス書院文庫を館淳一とともに初期のころ支えた作家の1人である。
 本集におさめられた「おれの人形」は,式貴士ならではの超能力を持った主人公による拉致監禁レイプ譚。しかし,式作品の淫靡さ,蘭名義のハードさいずれにも欠け,お文学臭の強い本書の1つの限界を示しているようにも思われる。

 ここは1つ自分で監禁文学の傑作を……家人が(また)実家に帰りそうで,それはちょっといやだ。

先頭 表紙

なお,式=蘭,かつさらに,=間羊太郎らしいのですが,こちらの著者名についてはよく知らないので触れませんでした(現代教養文庫に『ミステリ百科事典』という著作あり)。W大ミステリ研のOBでしたかねえ? ともかく現実の拉致監禁事件,この本の書評,式貴士について,の全部を1回で書くのはちょっと無理でしたね。いずれも舌たらずな結果になって,反省。 / 烏丸 ( 2000-11-27 16:18 )
蘭光生が亡くなっていたとは…。学生時代の友人で現在N○Cに勤めるネズミ男クンは、出会う女性全員に蘭光生を薦めていたことだなあ。 / ( 2000-11-27 14:50 )
「戦争も未来も殺人も」……なるほどおっしゃる通りです。経験者だから優れたものが書けるというわけでもありませんしね。烏丸様による監禁文学傑作の誕生をお待ちしてます! 最初の発表はもちろん「ひまじん」で……!? / ( 2000-11-27 13:18 )
「朱の檻」もこの選集に入れるから妙なので,作品として文句があるわけではありません。篠田,小池は,はっきり「監禁」をテーマにして書きながら,ヌルい。式に関しては,「監禁」と「猟奇」をうたいながら式であって蘭でないのはなぜ,ということで編集,築摩のヌルさを感じます。気持ちはわからないではないけど,もっとキツいものがあるのにお茶を濁した感じがしてしまうのです。 / 烏丸 ( 2000-11-27 12:30 )
それから,3000バイトの壁で書ききれなかった点として,谷崎の耽美のことがあるのですが,大正時代にこのような絢爛たる耽美を書いたことは本当に凄いと思います。内容的にも一種徹底している。表現力は烏丸ごときが言うことではない。ただ,「監禁」テーマのオムニバスにこれをいれるべきだったかというとちょっと違う感じがします。 / 烏丸 ( 2000-11-27 12:25 )
そうかもしれませんが,ベルヌが旅行嫌いだったような具合に,実行にいたらない者の想像力にも期待したいのです。そうでないと経験していない者には戦争も未来も殺人も書けないことになってしまいかねない。もちろん,キングが『ミザリー』を書いたのは,ファンに直接監禁された経験はなくともファンの異常心理を常々感じていたため,とかいった具合に,想像の核は必要でしょうが。 / 烏丸 ( 2000-11-27 12:21 )
こういうのはふつうの神経では書けないですよ。耽美や感傷ではね。烏丸様レベルの読者を納得させるようなのが出るとしたら、被害者からしかないでしょう。 / み ( 2000-11-27 11:46 )
何冊か購入経験有りです。マンガ文庫も数冊・・・あれ?どこにしまったっけ?もしかして、息子たちに見つかったかな?(笑) / akemi ( 2000-11-27 02:42 )
↓&↓↓,1分違い。惜しい!(そうか?) それはともかく,びっくりしていただいて本望ではありますが……「式」はともかく「蘭」をご存知とは……。エルさまさすが。ちなみに,烏丸はフランス書院文庫に書いたことはありません,はい。 / 烏丸 ( 2000-11-27 01:41 )
それにしても筑摩書房も,こんな普通の文学短編集に「猟奇文学館」はないよなあ。売れればよいのか。 / 買うほうも買うほう 烏丸 ( 2000-11-27 01:38 )
なんと、式=蘭!びっくりでございます。。「また」って・・もしや、フランス書院の作者の1人が実は烏丸さまだったとか・・? / エル ( 2000-11-27 01:37 )

2000-11-26 烏丸のそれはちょっといやだ その7 『女(わたし)には向かない職業2 なんとかなるわよ』 いしいひさいち / 東京創元社


【ま,ねかせておいてあげなさい】

 11月30日,つまり今から4日後に発行される予定の新刊である。本屋に積んであったのだからよしとしよう。
 1巻については『ののちゃん』の書評内でケロロ軍曹の手で必要にして十分な紹介がなされている。野暮を承知で繰り返すなら,朝日新聞朝刊掲載『ののちゃん』のクラス担任でおなじみ藤原瞳先生が推理小説の新人賞を受賞し,豪放な女流作家として活躍するというもので,タイトルはイギリスの女流作家P・D・ジェイムズの『女(おんな)には向かない職業』(ハヤカワ書房)のパロディである。

 第1巻では「27の瞳」と称して瞳が学校の先生をしながら市民講座で推理小説を学び,新人賞に入選するまでの話がプロローグとして挿入されているが,今回はなんと17歳でソフトボール部に所属する(可憐だ)瞳のノンシャランな日々を描く「17の瞳」(中学時代はアルゼンチンの山奥にいたとは),地元の小学校に赴任する「でもしかの瞳」,『ののちゃん』と同時期の「27の瞳」,そしてミステリ作家としてデビュー後の「34の瞳」という構成になっている。肝心の瞳のノンシャランさ,作家業界の内幕暴露色は残念ながら第1巻に比べるとやや弱いかもしれない。
 ……それにしても,なぜ2巻になってこういう構成なのか。釈然としないので初出一覧を見て,驚いた。小説現代(講談社),朝日新聞,オール讀物(文藝春秋),週刊文春(同),小学四年生(小学館),パロル(パロル舎),小説宝石(光文社),おそい・はやい・ひくい・たかい(ジャパンマシニスト社),おりがみ(清興建設),創元推理(東京創元社)。どんな雑誌かまるでわからないのまで混じっているが,ともかくこれだけバラバラな発表先に4コママンガを書きまくり,集めてみれば大河ドラマとまでは言わないまでも,全体を通してスジの通る一人の作家の人生が描かれているわけである。

 どうもこのいしいひさいち,底が読めない。やくみつる(=はた山ハッチ)らのスポーツ4コマの先鞭を切ったのは当人だし,秋月りすのOL4コマに対しては『ノンキャリウーマン』,植田まさし『コボちゃん』等に対しては『ののちゃん』があり,業田良家『自虐の詩』が4コマで大河ドラマを!? と言えば,しれっとこういうことをしてみせる(もちろん,『女には向かない職業』と『自虐の詩』を同次元で語るのは双方のファンにとって無理があるとは思うのだが)。
 4コマでどうしてこんなことができるのか,と思っているうちにいつの間にか単行本も100冊を越え,とどまるところを知らない。ドーナツブックスの4コマだけでもすでに4483作品。貧相な自画像の下に,どれほどの余力が残されているのか。ときどき,いしいひさいちの本当の姿を知らないまま,釈迦の掌の上を飛んでいる猿のような気分にさえなってしまう。いしい家の金庫には25年前に描かれた全シリーズの最終回がしまわれているとか,著者の死後全作品をグラウンドに並べてヘリコプターから見たら新たな4コマ作品が浮かび上がるとか……それはちょっといやだ。

 なお,東京創元社からはほぼ同時に『大問題2000』も発売されている。これは自自公,セクハラ知事,日の丸・君が代,地域振興券,ブッチホン,フリューゲルス,脳死移植,臨界事故,てるくはのる……といった1999年の出来事を峯正澄の文と合わせて振り返る「いしい版・現代用語の糞知識」である。峯正澄の文はともかく,必携であること言うまでもない。

先頭 表紙

この「17の瞳」部分は,いったい何に連載されているのやらっ。まだ連載中なら,買わねばっ。 / 烏丸 ( 2000-11-26 01:24 )
いやあ、17歳の瞳ちゃんは萌えでしたな。あの図書館で本を読む際の姿勢などたまらん魅力でした。近日刊と言われている「となりのののちゃん」も楽しみですなあ。 / こすもぽたりん ( 2000-11-26 01:20 )

2000-11-24 烏丸のそれはちょっといやだ その6 『三毛猫ホームズの推理』 赤川次郎 / 光文社文庫


【犯人……見た……】

 グイン・サーガの75冊というのも凄いが,こちらの赤川次郎も凄い。すでに著書の数300冊以上,三毛猫ホームズシリーズだけでも30冊以上あるという話だ。普段の烏丸なら紀伊国屋BookWebに駆け込んでちゃっちゃっと正確な数字を調べるところだが,正直言ってこの場合,300が500,30が50でも大勢に影響なさそうなのでそのまま話を進めよう。

 赤川次郎のデビューは1976年,女子大生・永井夕子とくたびれた中年警部・宇野のコンビの活躍する短編『幽霊列車』(第15回オール読物推理小説新人賞受賞)だったが,実質的な出世作はカッパノベルスから発売された長編『三毛猫ホームズの推理』である。

 「お嬢さん」とあだ名される主人公・片山は警視庁捜査一課に勤めながら血を見ただけで貧血を起こすほど気が弱く,おまけに女性恐怖症。そんな彼がこともあろうに女子大生殺害事件を担当して女子大寮に張り込むことになってしまった……。
 驚いたことに,本作には,本格推理とまで言わないものの,ちゃんとした推理小説としての,しかもかなりトリッキーなトリックが用意されている。片山と女子大生・雪子とのドラマは意外やシリアスだし,妹・晴美の言動もヘヴィだ。何より,前半にはいくつか伏線があり,最後にはそれが解きほぐされる。三毛猫ホームズの関与も,のちのようにこじれた糸を全部無造作にほぐす神の手でなく,多少は偶然っぽく描かれているし,晴美に恋する食いしん坊の石津刑事が登場してドタバタ色が強まるのは第2作の『三毛猫ホームズの追跡』から。
 ……要するに本作は赤川次郎作品としては「人間を描けている」とまでは言わないものの,立派なミステリ長編としての骨格を保持しているのである。セリフ,改行も,最近の作品に比べればずっと,もう全然少ない。

 で,あるからして,赤川作品としては,よろしくないわけである。

 産業の理想の形態は,市場を囲い込み,占有してしまうことである。独禁法が存在するのは,私的独占(トラスト・コンツェルン)や不当な取引制限(各種のカルテル)が行われると,一部の企業に有利に過ぎるからだ。つまり,小説の世界でいえば,他の小説家の小説を一切読まさず,自分の新作が出たら必ず買わせることができるなら,それに勝る売り方はない。
 赤川次郎の作品は,見事にそれを実現している。論より証拠,『三毛猫ホームズの推理』が(つまらない,本文スカスカという赤川評に反して)そこそこ読めたため,うっかり『三毛猫ホームズの追跡』『三毛猫ホームズの怪談』……と20冊ばかり続けて読んでしまった烏丸は,気がつけば立派な依存症状態,どうしてもほかの作家の文章が読めなくて困ったものである。なにしろ,ほかの作家ときたら,普通の文体だし,漢字が多く,改行が少なく,内容が詰まっていて,数ページ読むのに普通の労力が。しかたないので,今度は『幽霊列車』『幽霊候補生』『幽霊愛好会』……幽霊シリーズが片付いたら,次は……。

 赤川やめますか,それとも読書家やめますか,とAC公告機構の声が耳元で鳴り響き,血液から赤川を抜くために山にこもり,片方の眉毛を剃り落として阿刀田高からゆっくりとリハビリを始め,なんとか澁澤龍彦まで戻ったのはその年の暮れのことだった。
 しかし,安心はできない。回復したように見えて,ときどきフラッシュバックして改行の少ない普通の文章に向かうとまるきり意味がつかめなくなることもあり……それはちょっといやだ。

先頭 表紙

テレビ版の『探偵物語』のほうの原作は小鷹信光なんだそうですね。幻冬舎文庫から2冊出ていて,読もうかどうか思案中です。 / 烏丸 ( 2000-11-27 00:31 )
おいら、TV版『探偵物語』(工藤ちゃんのやつ)のLD全巻持ってます。貸し出し可。 / バニー服部 ( 2000-11-26 11:47 )
をを,あややさま,『探偵物語』といえば角川映画の……。実はいまだビデオを愛蔵しております(ビデオはβ)。松田雄作がたいへんかっこよい。薬師丸の歌も切ない。 / みーはー 烏丸 ( 2000-11-25 11:40 )
エルさま,三毛猫ホームズを小学校の時にですか……最初の『推理』は,女子大生のうにゃむにゃが背景にあるんですが……まあ,あとはとくにアダルトではなかったとは思いますけど。赤川次郎ってジュブナイルというか,女学生向けの作品もあるのですが,そうすると,そちらの実際の読者は幼稚園児とか。……。 / 烏丸 ( 2000-11-25 11:30 )
初めて読んだ赤川次郎は、「探偵物語」でした。高校のとき、「赤川次郎って本当にひとりなのか?」って論議が巻き起こりました(あまりにもペースがはやいため) / 中・高ずっと図書委員あやや ( 2000-11-25 07:57 )
三毛猫ホームズ、懐かしいです。小学生の時に、とりつかれたように読んでいた理由が今、分かりました。。! / エル ( 2000-11-25 00:07 )

2000-11-24 烏丸のそれはちょっといやだ その5 『グイン・サーガ(75) 大導師アグリッパ』 栗本薫 / ハヤカワ文庫


【ヤオイ,ヤオイとはしゃいで】

 ケロロ軍曹の「第666野戦重砲マンガ小隊」でも期せずして盛り上がったが,実はごく最近,親しい者の集う掲示板でも栗本薫(中島梓)周辺のどたばたについての報告があったばかりだった。

 栗本薫はヒロイックファンタジーの長編「グイン・サーガ」シリーズを発表し続けており(一昨年には32冊書いたそうだ),それなりに売れているようなのだが,最近は作風が「お耽美」「やおい」に傾き,しかも本人が同人誌として「グイン・サーガやおい小説」を個人販売し,一部のファンを呆然とさせいるというのである。
 最新刊のあとがきでは,作者本人がニフティの会議室やどこかのHPについて「書かれたものはともかく著者の人間性についてまでバリザンボウをあびせてよいのか,オフで栗本薫の前で同じことが言えるのか。匿名だからと何でも言っていいという態度は許せない」とケンカを売っているらしい(と聞いて,あとがきだけ見るために最新刊買ってくる烏丸の野次馬根性もどうかとは思うが)。

 知人が教えてくれた彼女の個人サイトは全文太字指定,しかも左右めいっぱいに表示されて実に読みづらいのだが,ざっとスクロールしてみたところ「自分はまだまだ老大家ではなく若者のつもりで,だから攻撃的に書いていくぞ」というような部分に少しだけ笑ってしまった。自分が老大家として若者から攻撃されるのは許せないわけである。
 読者が身勝手なのはある程度しようがないと思うし,マスに作品を販売するなら匿名か否かを問わず多少の個人攻撃を受ける覚悟も必要なのではないか。お耽美というのがどれほど高尚な趣味か知らないが,「レズビアンのアダルトビデオが好きだ」と公言する男の世間ウケがよいとも思えないし。

 栗本薫は,デビュー当時のシリアスなミステリやSFはそれなりに楽しみに読んだものだが(というより,本格ミステリが壊滅的に枯れた時期だったので,それっぽいものならなんでもよかったのだ),どんどん趣味と違うほうに行ってしまい最近は全く手にしていない。デビュー長編ミステリ『ぼくらの時代』の主人公の組むロックバンド名が「ポーの一族」という無神経さには少し引けてしまった。また,主人公が作家名と同じ薫クンというのも,『赤頭巾ちゃん気をつけて』の庄司薫の老後の貯えを削ってしまったわけで,結果的にひどいことをしたものだ。
 当初は心理ミステリだった伊集院大介モノも後半は催眠術使いまくり,明智探偵と怪人20面相との戦いみたいになってしまった。
 
 問題は,少女マンガについて,評論の権威がほかにあまりいないということである。評論家は数いても,誰か一人,といったときにこの人を思い出すメディアの担当者はいまだ少なくないのではないか。しかし,この人のマンガについての物言いがかなり偏っているのは明らかで(橋本治に比べれば内容がないも同然),栗本薫がある世代や層を代表するような書き方されても困ってしまうのだけれど,今後とも大物マンガ家の再版とかいうことになるとこの人が担ぎ出されることになるんだろうなあ。
 それはちょっといやだ。

 なお,本気の同性愛の人はやおいを許せるのかという疑問もあるが,真実を追求したい気持ちはちーともわかないのであった。
 別の知人によると,グイン・サーガはタイトルで大体どの国がその巻のメインなのかがわかり,パロのクリスタル公がらみ,モンゴールのイシュトヴァーンがらみのタイトルの場合はお耽美ないしほもネタなので×。ボーダーライン上のは中身をパラパラとめくってから買うとのことである。なるほど。

先頭 表紙

恩田陸『Puzzle』は……なんというか,風景画をジグソーパズルにした,としか言いようのない構図で,くどく文句を言うのも妙,といった感じざんす。ま,書評も書いたし,そのうちポア。 / 烏丸 ( 2000-11-24 17:51 )
ちなみに烏丸,やおいを読み描きしたい方,に対してはニュートラルで「そういうシュミはわからん」でオシマイ。性に関しては,相手がいやがらなければいーんじゃない,な感じ。ましてや作品として見たり読んだりは別に,と思うのですが,その一方で銀行の水着ポスターがクレーム受けたり,神戸のA少年事件の中学校の校長センセがストリップに行ったと騒ぎになったりというのもさてどうなのか。その前に街中で売春がまかり通っているのをなんとかしろよぉ。 / 烏丸 ( 2000-11-24 17:44 )
栗本薫の「グインサーガやおい本」、やっぱり・・という感じです。なんかこの作者ならやりかねない感じでした。しかしもう75巻目ですか。もう彼女の本を買わなくなり幾久しく・・。 / エル ( 2000-11-24 15:26 )
初めてグインサーガを読んだときに登場人物の美辞麗句&今日のいでたちを延々と書き連ねてらっしゃってて、この作家さんはあたしゃだめかも、と思ってそれきり読んでません。パロのクリスタル公大活躍だった巻だったような気がする・・・。まだ一桁台の巻で加藤直之氏の挿し絵が好きで手に取ったのでした。なつかしいっす。 / よこ ( 2000-11-24 14:52 )
もうつっこめないくなってしまったのでこちらに。恩田陸『Puzzle』読みました。恩田陸でなく権田陸ならば、逆から読んだときに「くりだんご」だったのに、というのが唯一の感想でございました。 / こすもぽたりん ( 2000-11-24 14:17 )
いやー,竹宮恵子以来,そちらの方面にはとんとうといもので。 / 烏丸 ( 2000-11-24 12:44 )
あー、びっくりした。全巻揃いでお持ちでいらっしゃるのかと思いました。 / こすもぽたりん ( 2000-11-24 12:28 )

2000-11-23 烏丸のそれはちょっといやだ その4 『悪魔学大全』 酒井 潔 / 桃源社


【我国魔道研究の先達】

 こすもぽたりん氏の『トンデモ美少年の世界』書評中に「昭和50年代に復刊されたらしいが、澁澤龍彦が解説を書いているおかげでめちゃくちゃ高いらしい」と紹介された問題の1冊,それが『悪魔学大全』である。
 なぜそんな本が烏丸の本棚にあったかは聞かないでほしい……実はどこで手に入れたか覚えていないのだ。

 ともかく物凄い本であることは確かだ。本書は昭和4年発行の『愛の魔術』第六部と昭和6年の『降霊魔術』全章,さらに著者の個人雑誌「談奇」から4篇を加えてまとめたものである。つまりざっと70年前に書かれたものだ。その博覧強記ぶりには恐れ入るばかり。しかもこのような本を書いているだけで警察にマークされた時代である。

 目次に目を通してみよう。
  淫魔
  黒弥撒
  Sabbat(悪魔の夜宴)
  魔術に対する処刑
  奢覇都 黒弥撒 淫鬼魔
  降霊魔術
  妖幻夜譚
  天狗雑考
  草木 動物 金石の魔法
  護符呪法
  占星術
  聖天秘話
  錬金術
  論考集(沙翁劇に現れた魔薬毒薬の研究・人造人間第一世ドロズの自動人形・ラヴァル元帥嬰児の血を持って淫惨なる悪魔の弥撒を修する事・南方先生訪問記)

 黒弥撒は黒ミサ,奢覇都はサバト,ラヴァル元帥とはジル・ド・レー候,南方先生は言うまでもなく南方熊楠である。
 解説で澁澤龍彦も書いているが「天狗雑考」が含まれているのがなんとも言えない。第一章「淫魔」を見ても,インキュブス(女性のベッドに現れ夜な夜な悪さをする悪魔)だけでなく,もちろんその例も多々紹介されているが,中国の『聊斎志異』から読み下し文を延々と引用したりと,それは素晴らしい素材の厚み,衒学の極みといった感触である。ただ,著者が猟奇的ディレッタンティズムに満足しているところを澁澤は「あえて酷なことを言えば,この書物の時代的限界があったのであろう」と書いている。まったく,あのディレッタント澁澤にそう言われてはかたなしだ。

 少し詳しく内容を見てみよう。
 たとえば基督に対して普通のミサがあるように,悪魔に対しては黒ミサを行う。通常のミサの裏返しだから,若く美しい女が聖壇に全裸で横たわり,その腹の上に聖餐杯を置き,胸に十字架を置き,その上で子供の喉を掻き切ってほとばしる血潮を聖餐杯にそそぎ悪魔の名を唱える。後は黒司祭が壇上の女性と×××……無茶苦茶である。
 こういったいかにも悪魔学な内容が(実際はもっとずっと詳細に)紹介される一方,古今東西の様々な妖術についても紹介される。たとえば,

  駱駝の血を呑んだ人は狂人になり,ランプの火にその血を注ぐと,其の場に居合せた全部の人の頭が,皆駱駝の頭に見える。

  水晶は,太陽の光線を取って,物を焼く事が出来る。其の粉末を蜜と共に呑めば,乳がよく出る様になる。

 他の章では,聖天(ガネーシャ。オウム真理教が冠った象の帽子でも知られている)の像を作る際に注意すべきことが細かく紹介されている。

  四,鼻はフクフクと大きく作ること。貧相に作ってはならぬ。
  七,牙は短いのがよろしい。長いと物にかかるおそれがある。

ご親切なことだ。

 さすが,唐沢俊一が「めちゃくちゃ高い」と書いただけあるまことに重厚な書物ではあるが,新妻千秋とチリ鍋をつつき合うために稀覯本を売っ払うのもまた一興。さっそく古本屋サイトで本書の実売価格を調べてみた。何万円,いや何十万か……わくわく。

  4,000円

 ……それはちょっといやだ。

先頭 表紙

唐沢本に載っていたオカルト古書店ですね。今ではそんな専門店でないと入手できないのでしょうか。25年前に文学部のエキセントリックな女の子と一緒に歩いていてたまたま手に入れたのは早稲田のありきたりの古書店でしたが……シマッタ,覚エテイルジャン。 / 烏丸 ( 2000-11-27 00:36 )
神保町を探したけどなかった。やはりこの手の本は中野の「大予言」に行くしかないですかのお。 / こすもぽたりん ( 2000-11-26 11:48 )
この本のもう1つのポイントは,著者が亡くなったのは昭和27年(1952年)。つまり,2002年には没後50年で,著作権的にはフリー。引用し放題ということですね。ホラー作家,RPGゲームシナリオライター,その他もろもろ,必携かも。 / 烏丸 ( 2000-11-24 11:41 )
しかも,古本屋さんでの売り値ということは,持ち込んだときの引き取り値は当然もっとずっと安いわけで……。フグ鍋と引き換えにしようなんて烏丸が悪かった。もう一生大切にするからね,『悪魔学大全』ちゃん。 / 烏丸 ( 2000-11-24 11:39 )
悪魔学のスゴイ本が、サンキュッパ+20円・・・。 / エル ( 2000-11-23 20:29 )
それはそうと、4,000円なら買っちゃおうっと。何に使うかは追々考えるとして。 / 久々登場、黒ぽたりん ( 2000-11-23 11:16 )
にょ〜(©でじこ)、こ、これではサイバラ命名「フグDJオヤジ」のいる築地『天竹』にも行けないにょ〜。フグ断念、アンディ・フグ追悼だにょ〜。 / 無念 ぽたりん ( 2000-11-23 11:15 )
なんだか表題を読むと自動的にクリックしてしまう・・。はっ?これもなにかの魔術・・?? / あやや ( 2000-11-23 07:52 )

2000-11-22 烏丸のそれはちょっといやだ その3 『SpaceAdventure コブラ』 寺沢武一 / 集英社


【今日は最高潮なのさ 惑星でも砕いてみせるぜ──────っ】

 相棒のアーマロイド・レディと高速宇宙船タートル号で宇宙をかけめぐる正統派の海賊,コブラ。彼は鋼の肉体と不屈の精神力で「不死身の男」と呼ばれている。しかし残虐非道な海賊ギルドとの闘いに明け暮れ,銀河パトロールに追われる日々にいやけがさした彼は,3年前,顔を変え,記憶を消してしがない貿易会社のサラリーマンに身をやつしていた。ふとしたきっかけで記憶を取り戻したコブラは,レディとともに再び危険な世界に旅立っていく。左腕のサイコ・ガンとともに──。

 『SpaceAdventure コブラ』,驚いたことにこれは寺沢武一のデビュー作だ。
 第1話には,すでに彼の作品のあらゆる特長が表れている。バタくさいSFスピリッツ,キザでお調子者だが陽気なタフガイとグラマラスな美女,命をかけた闘いと冒険。
 コブラと浅からぬ因縁を持つ,特殊偏向ガラスのボディーがあらゆる光線銃を素通りさせる暗殺者,クリスタル・ボーイの存在感も素晴らしい。そして,物語は宇宙の破滅と誕生をからめて大きく動いていく。コブラはアーマゲドンを防げるのか……。

 異論もあるだろうが,『SpaceAdventure コブラ』こそ和製スペースオペラの最高傑作と烏丸は考える。のちに同じ作者から『Blackknight バット』『鴉天狗カブト』『MidnightEye ゴクウ』『武 TAKERU』などの作品が発表されるが,コブラを上回るヒーローはいない。

 しかし,問題はある。
 作中の女性がみんなお尻丸出しで風邪をひくのではないかと心配,ということではない。寺沢武一は1980年代よりMacintoshを利用したマンガ制作に着手,デジタルマンガ制作スタイルを確立してオールカラーコンピュータグラフィックスコミックスを制作するにいたった。『武 TAKERU』はその最初の作品だが,これは彼の全作品の中でもっとも出来が悪い。
 コンピュータグラフィックスは図形を切ったり貼ったりゆがめたり伸ばしたり色を変えたり特殊効果を加えたりするのにはとても便利だが,マンガに必要なセンスの中には白いケント紙にフリーハンドで向かって初めて発揮されるものもあるのである。慣れの問題もあったのだろうが,『武 TAKERU』は多くのコマでキャラクターの顔が真中に置かれ,似たような画像効果が繰り返され,全体がのっぺりした悪い意味でのMacマンガになってしまった。
 そして,「コブラ」も最近はオールカラースタイルで発表されるようになってしまったのだ。レオナルドがモナリザを主人公にマンガを描いたからといって,別に傑作マンガができるわけではない。絢爛たるカラーエフェクトより大切なものが初期のモノクロコブラにはあったように思うのだが。
 ちなみに,それは,彼の主人公・コブラが大切にしたものと同じものだ。

 結局,今や当初単行本1冊300円代で購入できた程度のボリュームの作品が,Jump comics deluxeという名のもとに雑誌サイズの豪華版オールカラーで1,456円。しかも今のところ,新作より従来の単行本で発表済みの作品をオールカラーに書き換えたもののほうが多いのだ(書店店頭ではビニールパックされていて,内容を確認できない場合が多い)。
 オールカラー版はすでに9巻,今後いったい何冊お付き合いするハメになるのか。大好きな作品だっただけに,それはちょっといやだ

先頭 表紙

でしょでしょ? カラーイラストと「マンガ」は違うと思うわけです。 / 烏丸 ( 2000-11-24 11:42 )
同感です。僕もかってのコブラは好きだったんです。ホント残念に思ってます。 / TAKE ( 2000-11-23 02:40 )
なるほど,寸前で落馬,と。実のところはキスシーンすらほとんどない健全SFなんですが,なにしろ女性のファッションが添付画像のような……ですから。しかし,幼稚園のときに,もう単行本あったのね……。 / 遠い目 烏丸 ( 2000-11-22 16:05 )
「コブラ」・・・私が幼稚園生だった頃、伯父の部屋にあったヤツを下心丸出しで読もうとしたまさにその時、母親に「読んじゃダメ」と素早く取りあげられてしまったホロ苦い思い出が・・・。・・・いや、ただそれだけなんすけど。すいません。 / 2ダブ ( 2000-11-22 15:58 )

2000-11-21 烏丸のそれはちょっといやだ その2 『諸怪志異』シリーズ 諸星大二郎 / 双葉社


【魑魅魍魎を遍く探ね回り】

 「アクションレボリューション」なる言葉をご存知だろうか。「行動革命」,直訳するとまことに物々しいが,なんということはない,双葉社の週刊誌「漫画アクション」のこの秋のイメチェンのことである。

 漫画アクションは1967年創刊の老舗青年誌で,『ルパン三世』『同棲時代』『子連れ狼』『嗚呼!!花の応援団』『がんばれ!!タブチくん!!』『じゃりン子チエ』『気分はもう戦争』など一斉を風靡したヒット作も少なくない。
 しかし,最近は部数的に低迷していたのか,9月5日号で「アクションは真のヤング誌になります」と誌面刷新をはたした。どう変わったかといえば,エロ路線に走ったのである。

 そのため,
  『ほっといてちょうだい』いしいひさいち
  『トトの世界』さそうあきら
  『キャラ者』江口寿史
  『鎌倉ものがたり』西岸良平
  『元祖Dr.タイフーン』かざま鋭ニ
  『CURA』六田登
  『ガダラの豚』阿萬和俊
などの連載マンガは休載をやむなくされ,目玉商品の
  『クレヨンしんちゃん』臼井義人
も他誌に移った。

 休載された作品で追いかけていたものはとくにないのだが,困ってしまうのが諸星大二郎の『諸怪志異』シリーズである。

 『諸怪志異』は中国・宋時代を舞台に,道士の五行先生とその弟子の燕見鬼(阿鬼)を中心として,さまざまな怪異を描いた作品群。
 『聊斎志異』(蒲松齢が収集した中国の妖怪談義)などに見られる中国の怪異譚というのは,日本のそれがはかなくセンシティブなのに比べ,土俗的,土着的というか,妖怪幽霊ともに色濃くずっしりと重みがある。諸星大二郎の黒々とした描線は(もちろん意図的だろうが)その重みによく合い,非常に魅力的だ。この絵柄を中国の読者が見たらどう見えるのかはそれはそれで興味深いが……。

 本シリーズは1巻めの「異界録」が1989年5月,2巻め「壺中天」が1991年2月,3巻め「鬼市」が1999年10月。非常にゆったりしたペースで漫画アクション誌上に発表され,単行本化されてきたわけだが,漫画アクションがエロ路線に走った今,掲載の先行きは不明だ。一部にエロティックなシーンがないわけではなかったが,エロを売り物にする雑誌のカラーとは違うように思う。

 このままお話がうやむやになってしまったら,それはちょっと(かなり)いやだ。

先頭 表紙

9月5日号で一気にエロ雑誌になったわけでなく,順次の入れ替え作業のようです。作家の方の他誌での仕事量とか,担当編集者の意地とか,裏ではいろいろあるのでしょう。 / 烏丸 ( 2000-11-24 11:44 )
アクション誌の路線変更はビックリですが、エロマンガに混じってなぜか「馬なり1ハロン劇場」と「軍鶏」が残っているのがフシギ。 / TAKE ( 2000-11-23 02:30 )
そしてそして、のはらしんのすけ&アクション仮面の唄う『とべとべおねいさん』の行方は… / しつこい… ( 2000-11-23 00:17 )
あ、「アクション幼稚園」はどうなってしまうのだろう… / ミミ子クン、春日部の危機だ! ( 2000-11-23 00:15 )
ということは、「アクション仮面」は「まんがタウン仮面」になっちまうのかなあ… / 春日部博士 ( 2000-11-22 20:34 )
なお,本文,どう表記するか迷ったのですが,『トトの世界』だけでなく『Dr.タイフーン』『CURE』などのストーリーものは,休載というよりはいきなり最終回,といった趣のようです。ただ,実際にそれぞれの終わり方を確認しているわけではないので,正確なところはよくわかりません。 / 烏丸 ( 2000-11-22 15:00 )
よこさま,いらっしゃいませ。さそうあきら『トトの世界』は7/11日号(6月27日発売)で連載終了,9月に単行本の4巻が発売されており,それで終わっているもようです。 / 烏丸 ( 2000-11-22 14:56 )
さそうあきら作品を密かに愛するワタクシ、少なからず動揺いたしました。「トトの世界」はどこにいっちゃったんでしょう(涙) / よこ ( 2000-11-22 14:38 )
最近まで,表紙も江口だったもよう。「クレヨンしんちゃん」臼井儀人,「かりあげクン」植田まさし,「鎌倉ものがたり」西岸良平はそろって双葉社の「まんがタウン」という月刊誌にお引っ越しです。 / 烏丸 ( 2000-11-22 14:28 )
へぇ〜、江口寿史とか書いてたんだ。白いワニは去ったんですかね(古い?)。『クレヨンしんちゃん』は何処へ? / こすもぽたりん ( 2000-11-22 14:04 )

2000-11-21 烏丸のそれはちょっといやだ その1 『ドロファイター』 村上もとか / マインドカルチャーセンター(MCCコミックス)


【泥の中から金を,生活を築いていくレースを……】

 村上もとかといえば,F1を舞台にした『赤いペガサス』,山男の苦闘を描いた『岳人列伝』,剣道を歌い上げた『六三四の剣』など,骨太なストーリー,力強いデッサン,細緻な描線で知られる小学館系の大家である。個々の作品の設定だけ見るとB級といえばB級なのだが,これだけ堂々と描かれてしまうと黙るしかない。要するに大デュマやバルザックをB級とは誰も言わない,その領域である。
 一時,バイクマンガ『風を抜け!』やボクシングマンガ『ヘヴィ』で少々タッチが衰え,『六三四の剣』で燃え尽きたかと心配されたものだが,なんのその,昭和史を描いた長編『龍-RON-』,タイの犯罪を描いた『水に犬』,検事を主人公にした『検事犬神』など,地味な題材を取材を重ねてじっくり描き,最近さらに凄みが増したような次第である。

 添付画像の『ドロファイター』は『赤いペガサス』の直後(1979年〜),少年サンデーに連載された作品。主人公は身長6フィート9インチ(2メートル6センチ)の日系アメリカ人ノブ・トクガワとその妹サキ。賞金目当てにアメリカ各地を戦線する金も学もない無名レーサーが不屈のガッツとタフな肉体を武器にスプリントからドラッグレース,ストックカー,そしてインディとだんだん大きな舞台で活躍していく文字通りのアメリカン・ドリームを描いたものだ。
 ヨーロッパを舞台に精密機械のような天才F1ドライバーを描いた『赤いペガサス』がレッド・ツェッペリンなら,アメリカのパワーレースを描いた『ドロファイター』はグランド・ファンク・レイルロード,といった感じだったろうか(ジミー・ペイジが精密機械? というつっこみはこの際なし)。

 村上もとかという人は単行本の再版に無頓着なのか,この『ドロファイター』は1981年に単行本が完結して以来ずっと再版されず,古本市場でも割合高額だった。元気は出るがドタバタしたB級アクション,に,大枚はたくべきかどうか迷っているうちに買い逃す,そんなことが何度かあった。それが今回,マインドカルチャーセンターなる聞いたことのない出版社からめでたく再版され始めたわけである。喜びいさんで1冊めを買ったのはよいのだが……実は,1999年12月に第1巻が出て以来,1年近く音沙汰がない。すでに一度単行本となったマンガの再版に,それほど手間がかかるとは思えない。あまり間があくのは営業的に不利なはず。いったいどうなっているのか。

 このまま沙汰止みになってしまうのは……それはちょっといやだ。

先頭 表紙

『ドロファイター』が連載されていたころは,ぴりぴりした『赤いペガサス』に比べてなんとなくギャグっぽくてタルいように思っていたのですが,時間が経つとこちらの余裕も好もしく思えるようになりました。当時単行本を買っておけばなんてことなかったのに……。 / 烏丸 ( 2000-11-24 11:46 )
遅いつっこみになってしまいましたが、このマンガ結構好きだったんですよ。ジャンプ誌の「虎のレーサー」でデビューした村上もとか氏、「赤いペガサス」のモナコGPあたりから作風が変わったんですけど、そのあたりからこの「ドロファイター」で氏のスタイルのベースが出来たような気がします。 / TAKE ( 2000-11-23 02:24 )
あ,そういうわけではないです。この新企画では怖くてやれん,というだけ。サイバラは黒ネズミ,白ウサギ,白ネコ,緑カエル……十分ですね。 / 烏丸 ( 2000-11-21 20:13 )
え、無敵のサイバラはデンキネズミにも喧嘩売ってるんですかい? / こすもぽたりん ( 2000-11-21 19:49 )
サイバラ@ロッキンオン的なのは多分タイトルだけかと……。「その3」までは用意しているけど,その後どうしましょう。黒ネズミや白ウサギ,黄色ネズミにケンカ売る気はないしなぁ。あんな勇気ないっす。 / 烏丸 ( 2000-11-21 15:56 )
あ、間違えた。↓は新企画だっちゅうの〜。 / 三菱銀行東長崎支店の、誰だっけ?? ( 2000-11-21 15:12 )
お、サイバラ@ロッキンオン的雰囲気な新規格ですな。 / こすもぽたりん ( 2000-11-21 15:11 )

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