2003-12-24 クリスマスプレゼント
2003-11-11 通じ合うこと
2003-08-27 夏が終わる
2003-06-03 暗闇のキス、青空のハナミズキ
2003-05-21 バラの季節、暖かい日差し
2003-03-28 ひとひらの花びら、彷徨う
2003-01-30 冬の朝
2002-12-12 二度目の出会いは花市場で
2002-12-03 目覚めのキス
2002-11-20 寒い夜でも

一年に一度ぐらいしか
あなたの住む街を訪れることはないのだけれど
それももう6年も経った。
一人で電車を乗り継いで
予約したホテルに向かう途中
迷子になることもない。
幼い頃、祖母が住むこの街を
休みのたびに訪れていたせいもあって
断片的に見覚えのある景色に出会うと
とても懐かしくなり立ち止まっては
記憶を遡ってしまう。
私もそろそろこの街に馴染もうと
思うことができるようになった。
本当は忙しないところが
あまり好きになれなかったのに。
恵まれた環境で大好きな仕事を続けることよりも
あなたと暮らすことを選択しようと決めた。
つい、昨日のことだ。

そして今日。

「横浜に行くよ」

電話口のその言葉の意味を全く理解できずに
「え？横浜？」
と間の抜けた声で聞き返すと
来年に異動が決まったと言った。
やっとあの街に住もうと決めたのに
あなたが帰ってくるのね。
ゆっくりと気持ちを整理したら
嬉しくなって涙が出てきた。


*　*　*　*　*　*


「芍薬」
本当なら5月の花なのに
真冬にも市場に出回っている。
こんなハッとする赤は初めて出会った。

つっこみ 先頭 表紙

「ねぇ、早く結婚しちゃえば？」
「彼がそばにいなくても不安じゃないの？」

何十回と繰り返されるこれらの質問の模範解答は
「信頼してるから」。

それを確認する術は持っていないけれど
例えば寝返りをうったときの軽いキスや
酔ったときに肩を引き寄せるタイミングが
絶妙なところに私は安心する。
「ケンカした次の日に必ず花を贈る夫が出てくる話」
という一言でその小説のタイトルが返ってくるし、
雨が降ったから鎌倉に行くのはやめて映画を観に行くことは
もう朝のベットの中で了解している。

四六時中の会話は私たちの間にはそれほど重要ではなくて
少しの時間に交わされる言葉に注意深く耳と心を傾けていればいい。


*　*　*　*　*　*　*


「ドウダンツツジ」
友人の結婚式にて。
彼女のお腹には新しい命が宿っていて
すくすくと大きくなっている。
もうすぐだね。

つっこみ 先頭 表紙

ほら、あっちにも咲いているよ
と教えてくれたけど
足元が悪くてなかなか辿りつけない。
手をとってくれて急な坂を下りたら
北海道のやさしい光を浴びて
色とりどりの花が見えた。

短い夏の旅が終わった。
もっと一緒にいたかった。


*　*　*　*　*　*　*


「ギボウシの花」
淡い紫の星型の花が
緑の中で可憐に咲いていた。

つっこみ 先頭 表紙

今年初めて半そでのカットソーに腕を通した。
ドット柄のひらひらした帽子を買って
もうすぐそこに迫っている夏を出迎えに行こう。
太陽の下で大きな空を見上げる幸せを感じた日。


*　*　*　*　*　*　*


日曜日の午前3時、
なぜ私は暗い空の下で君と向かい合っていたのだろう。
ついさっきまでは全く知らない存在だった君。
それなのにさよならをした後は
ぼんやりと君のことを考えていた。


「なぜ、キスをしたの？」
と聞かれて何も答えられなかった。
ただ、それが自然だったから。
考えるよりも先に唇を重ねただけ。
私の気持ちをさらっていった
ほんの一瞬のできごとだった。


*　*　*　*　*　*　*

ある春の日。
白いハナミズキが大空に向って咲いていた。
今日の空の色とはもう違う色。

つっこみ 先頭 表紙

久しぶりの実家の庭には
たくさんの緑が元気よく育っていた。
朝起きて寝巻き姿のまま水をやる。
ホースの先からは出る水はキラキラと弧を描いて
土に吸い込まれていく。
キレイ。
ただひとつ、残念だったのは去年母が植えたモッコウバラを
間違って父が刈ってしまったこと。
来年は無事に咲きますように。


*　*　*　*　*　*　*


恵比寿の駅からまっすぐ向った先は
荒木経惟「花人生」展。
朽ち行くバラの表情をじっと眺め
エロティックなファレノプシスのピンクに吸い込まれ
たくさんの花の中で眠る陽子夫人から目を離すことができなくて
そのままソファに腰を下ろす。
そこには温かいあの人の背中があって
取り残されたんじゃないと認識した。
あなただけはいつまでも側にいてね、と心の中で願った。


*　*　*　*　*　*　*


大好きなバラの季節。
優雅に、清楚に大きく咲いたよ。

つっこみ 先頭 表紙

桜の季節になった。
温かな風の匂いとともに思い出される風景。
みんな若くて希望に燃える季節だった。
たった4年前だというのに
これほど遠くに感じるのはなぜだろう。


*　*　*　*　*　*　*


私は迷う。
道が一つでもそこを通っていいのかどうか
立ち止まってしまうというのに。
確かだと分かっていても踏み込めない。
未知で遠いものに憧れたり
離れていくものをずっと追ってしまったり。
どれが幸せでどれが間違いなのか分かるはずもなく
もしかしたらどれも間違いじゃないのかもしれない。


*　*　*　*　*　*　*


「春の彩り」
リューココリーネ
ラナンキュラス
バラ
ホワイトスター
センニチコウ
スイートピー
クラスペディア
キャンディータフト
ギリア
スプレーマム
ビバーナム
ラグラス
ゼンマイ等



*　*　*　*　*　*　*

先頭 表紙

冬の雨が上がった空はとてもきれいに澄んでいて好き。
青くて高い空を見上げて深呼吸すると
寒さなど関係なく気持ちもきれいになった気がするから。

休日に深くベットにもぐりこんで
鼻のてっぺんが冷たくなっているのを確かめながら
目覚めるのも好き。
寝坊はいつもだと分かっているけれど
ゆっくり毛布の暖かさを味わいたい。


*　*　*　*　*　*　*


白いバラのブーケ。
長いベールをつけて
生成りのドレスに合わせたい。

白オールドローズ「フェアビアンカ」
スプレーバラ「グリーンアイス」
スズラン

先頭 表紙

まだ空が暗いうちに家を出て
市場へ向った。
普段は相当な数の花になるので
セリ担当者を通して仕入れるのだけれど
今回は自分の目で見て選びたかったので
寒いのと眠いのをガマンして慣れない市場を見回る。

小さな空間に所狭しと並ぶ花、その間を小走りで移動する男性。
迷わずに様々な花を選び抱えている。

2年前、彼が作る花に惹かれ初めて彼に会いに行った。
私が花屋になりたいと伝えたときには
考えの甘さを指摘されて落ち込んだことを思い出した。
それから1年後、私は今の仕事を見つけることができた。
どこまでも負けず嫌いな性格だから。

たった一度でほんの数時間の出会いだったけれど
私にとっては大切な時間だったんだ。


*　*　*　*　*　*　*


少しずつ自分のお客様が増えてきた。
今回は赤茶系で。
バラ「マイラブリー」「ジュリア」「テディベア」
カーネーション「ネボ」「ミルクティー」
ガーベラ「ベントレー」
スイートピー「ステラ」
シキミアレッド
ロフォミルタス

画像は一部なので全部の花は写っていません。

先頭 表紙

ワインを飲みながら遅い昼食をとった。
テーブルの向こう側では白髪のキレイなおばあさまがひとり
おいしそうにパスタを食べていて
私達は「かっこいいよね」と意見が一致した。
二杯目でいい気分になった私の手を取って店を出た彼は
チーズとオリーブと少し太めのボトルのワインを買い込んで
そのまま私の部屋に戻った。
二度目の乾杯をしてから私は彼の膝の上で寝込んでしまい
気がついたら日はもう沈もうとしていた。
目覚ましは額への軽いキスだった。


*　*　*　*　*　*　*

街は本格的にイルミネーションが輝き始めたよ。

先頭 表紙

「本当に幸せそうに笑うね」
と真っ直ぐ私を見ていたね。

愛する家族と恋人、友達、
大好きな仕事、
あの映画館での時間や
駅の途中にある小さなあのお店、
空色の暖かいセーターや
赤い色のワインと少しのご馳走。
寒い夜でも一人で大丈夫だよ。


*　*　*　*　*　*　*


「ブラックバッカラ」
限りなく黒に近い大人の赤。
もうすぐクリスマスだね。

先頭 表紙