ちりんちりんちりん。
路地を挟んだお隣の奥様のカギについている、鈴の音がした。
あー。今、お帰りだな。そう思う。
隣の奥様はかつて世田谷の大豪邸にお住まいだったそうだ。
会社を経営しているご主人が亡くなって、信頼している人に促されるまま判をついたら、会社を乗っ取られていたそうだ。
そして、ココに引っ越してきた。
ワタシが住み始めたより、少し前の事。
お子さんも独立されて独り暮らしだから不用心なのよって、カギに鈴をいっぱいつけていた。両隣の人たちは奥様の帰宅を鈴の音でわかっていた。
先週。
道を歩いていたら、真っ黒い車が停まっていて、喪服を着ていた、奥様の妹さんに出会った。
「実は、姉は亡くなったのよ。」と。「今日がお葬式だったの。」。
「元気な姿を覚えて欲しい。身内だけで送って欲しい。知らせないで欲しいと言われたから黙っていたの。」と。
数年前から闘病していた癌が再発して、入院2週間のあっという間の出来事だったそうだ。
ワタシは…。号泣してしまった。
理不尽な、一方的な保育園建設の時も、率先して交渉にあたってくれた。
「地域との共存を。」と。
ワタシにはいつも「門があけっぱなし」とか。よくご注意を受けた。
近所のご意見番だった。
妹さんにあった前の日。
お向かいのおばあちゃんが「最近、電気がついていないことが多いの。入院してるかしら?」とワタシに聞いて来てたりしたので。
実は…。と奥様の横のおうちの、カフェのママにご相談した。
「みんな気にかけているから。いつかはわかる事だから。ご遺骨がお宅にあるうちに、窓が見えるウチのお店でお茶でも飲みながら、奥様を偲びましょうか?」と言ってくれた。
それをまた聞いた妹さんから。「姉の遺言で、残った人たちに迷惑かけたくないから、大げさなことはしないでねって言われてます。踊りのお弟子さんたちが「偲ぶ会」をやりたいっていっているのもお断りしたから。姉の意思に反するから、そういう会はしないで下さいね。」と連絡があったそう。
カフェのママは「会費を取ったり、お香典を包んだり、お身内を呼んでお話を聞いたりとか、そういうことではないんですよ。ただ、みなさん、お見かけしないのを気にしていらっしゃるから。寒い中で立ち話もなんですから、場所を提供するだけなんです。おしゃべるするだけの集まりなんですよ」と説明してくれて。
ワタシは都合でいけなかったけれど、10人近いご近所さんが集まってお茶会を開いたそうだ。
黙っているはずを、つい私にしゃべってしまって大事に…。と妹さんは心配したのかもしれないけど。
亡くなった人を悼む気持ちまで止めないで欲しいと思った。
一人ひとりがそっと心の中で悼むのは構わないけど、集まらないでって事を言いたかったのかもしれないけど。
悼むことを誰かと共有することによって、悲しみが浄化されることもあるのに、とワタシは思った。
奥様にとって、息子と、その家族に迷惑をかけるようなことは不本意ってことはわかる。
ワタシも香典返しとか、お礼状をかくのは大変だったから。
遠くに住んでいる息子さん一家にかわって、奥様の通院の付き添いをしていた妹さんが、間にはいって気を使われたことも理解できる。
でも…。
勝手に偲ぶ会をやること位は黙認して欲しかったなと。 |