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揚水の「人生薔薇色計画」

僕のハンドルは「ようすい」ではなく「あげみ」と読みます。表記はaghemiとしています。

妻の海月は「くらげ」と読みます。



ふりぃのかうんた

yesterday ふりぃのかうんた today ふりぃのかうんた


自分が何者であるか今よりももっとわからず身悶えしていた学生の頃、何をしたらいいのかについて友達と話しに話した。
結論は出なかった。どころか何をしてもいいんだということにすらなった。
ただし、本当に何をしてもいいというのではなかった。
一つだけ基準がある。
それは俺の、俺たちの、ひいてはほかの人たちの人生を薔薇色にするか、その一点。
時々それを思い出しては行動する。
それが僕たちの人生薔薇色計画。



    よそいき仕事日記   

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-07-14 転載 新世紀へようこそ 101(号外) これまでとこれから
2003-07-13 ただそこにいるだけで
2003-07-11 もの思う雨の夜の空
2003-07-10 三冊目を今まさに読了
2003-07-09 ふたつの初めて
2003-07-06 つまびら、か
2003-06-26 後始末
2003-06-25 そうしてわたしは思い至るのです
2003-06-21 ゴライアテ
2003-06-15 その厚み


2003-07-14 転載 新世紀へようこそ 101(号外) これまでとこれから

 まず、「100 なぜアメリカは戦争をしたか」を発信した後、こんなに長い間が空いてしまったことをお詫びします。

 本の刊行予定が続いた上、身内の者を見取るということが重なって多忙をきわめ、どうしても執筆の時間がとれませんでした。

 次に、これまで100回にわたって「新世紀へようこそ」をお読みいただいたことにお礼を申し上げます。

 読者に促され、導かれて、ここまで来ることができました。2001年の9月24日に「001 しかし」を発信した時には、こんなに息の長い仕事になるとは思ってもみませんでした。

 100回を終えて、その内容を『新世紀へようこそ』と『世界のために涙せよ』として刊行し、一つの区切りがつきました。

 今後どうしようかといろいろ考えた末、しばらくの休憩の後、新しいタイトルと方針のもとに書き続けるということにしました。

 ぼくはもともと小説を書くのが本業で、国際政治を論じるなど不得手な分野です。状況に押されて始めてしまったものを、その時々の課題を必死で勉強しながらなんとか続けたというのが本音です。

 返信をいただいてまた考え、それに基づいて次回を書きながら、読み手あっての書き手であるということを痛感する日々でした。それがわかるのがメール・マガジンの利点でした。
 
 9.11の直後ほど緊迫してはいないものの、今も論ずべき課題はたくさんあります。テロリズムを生み出す国際的な政治環境は変わっていませんし、チェチェンやアチェに見るとおり国家によるテロはいよいよひどくなっています。

 アフガニスタンは軍閥割拠の混乱状態にあり、イラクの「復興」の先行きはまるで見えない。大量破壊兵器については、ぼくたち開戦反対派の言ったとおり、存在しなかったことがほぼ明かになりました。最初から大義なき戦争であった。「だから言ったじゃないか」と言いたいところです。

 にもかかわらず日本はいよいよ右へ傾いて、「戦争ができる国」になりつつあります。与党とメディアが誘導するだけでなく、国民もまたそちらに目を向けはじめて
います。

 事態はいよいよ悪くなっているわけで、今、考えるべきことは多い。

 それを承知の上で、2か月ほど沈思黙考の期間を置くことにしました。

 9月中には新しいタイトルの新しいシリーズの1回目を発信するつもりでいます。

 「新世紀へようこそ」は9.11という具体的な事実から始まって、ぜんたいとしては各論から総論へという流れをたどりました。

 この先はもっと広い視野を用意して、世界と日本、現在と未来を考えていきたいと思っています。

 基本姿勢は、平和の原理を探すこと、になるでしょう。

        (池澤夏樹 2003−07−14)


池澤さんの公式サイトはこちら

先頭 表紙

2003-07-13 ただそこにいるだけで

昨夜は海月にお呼ばれして野菜尽くしのお食事を食べさせてもらった。
逢えないと思っていたのに逢うことが出来た。
南瓜、トマトのサラダ、茄子の甘辛赤味噌和え、隠元の胡麻和え、ついでに帆立。

アワビなんかよりよっぽど豪華。
ごちそうさまでした。

今晩は例によって外食だったけれど、食べていると海月から電話。
「今どこに居るの?」

寮よりも海月の家に近いところで食べていたので顔を見にだけ行った。

海月は勉強していた。

彼女が鉛筆を走らせる音を聞きながら、たまに話し掛け、話し掛けられしていたけれど、彼女はそのうち勉強することに熱中するようになった。

僕は半分寝ながらまた彼女にたまに話し掛けられ、
「うん、うん」と半ば生返事。

勉強を終えた彼女が「寝る」と言ったので布団を敷いて帰ってきた。

ただ僕がそこにいるだけで。
あなたがそこにいてくれるだけで。

先頭 表紙

いえ、「昨夜」は「だけ」だったので…。ただそこにいるだけ。それだけで、嬉しい、しあわせ。二人とも本当に「眠」かったから。「寝」てはいません。残念ね(笑)。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:35 )
あり???? 当然「寝て」きたよね?こらこら・・・ / 闇猫 ( 2003-07-14 06:08 )

2003-07-11 もの思う雨の夜の空

軽いストレスで首が、肩が痛い。

痛みをもって、ああ、生きているな、と思うこともある。
今日は特に何事もなかった、そんな日。

何も起こらなかった、あまり感じるところがなかったという日でも一日は一日。
時間は過ぎていく。
置き去りにされたように感じても、僕の上でも時間は飛び去っていく。
たとえどんな日であったとしても。
月日は経っていく。

僕はまだ生きている。

彼女はもう寝ていることだろう。閉め切った部屋の壁越しにそちらを仰ぐ。
明日もまた、まだ逢えない。
それでも。

ああ、生きているな、と思う。

先頭 表紙

jinkoさん、それもアリ。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:30 )
僕の痛みはそんなに大きなものではありはしませんが…。何事もない中でほんの少しの異物感みたいなものを感じて、その異物感によって普段知覚されない自身の身体感覚を再認識させられる、のかも。「静かな海」と呼んでもらえるのは、最高位に嬉しいです。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:30 )
そこにある、ここにいる、ということですね。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:26 )
それは素敵なスタンス、です。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:25 )
うん 腹筋をした後 お腹に軽い痛み。 締まってきてカナ?と勘違いします。 / jinko ( 2003-07-13 23:23 )
昔、ちょっと大変な手術をした時に同じ事感じだよ。 痛みで命を感じる。  好きな人と同じ空の下って感じる時の郷愁ってすき。 ここはいつでも静かな海みたいな世界があるなあ。 / さにゃえもん ( 2003-07-13 22:58 )
存在を感じる。これが幸せなときがある。 / 夢樂堂 ( 2003-07-13 08:58 )
すごくショックなことを言われた。でも、ショックだけど、落ち込んでない私。なんでだろう?私は私、だからかも。 / ど〜にゃ ( 2003-07-12 01:14 )

2003-07-10 三冊目を今まさに読了

ある日偶然眼に留まり買ってきた三部作の一冊目。
昨日その完結編が書店にあることに気がついて、買ってきた。

デイブ・ペルザー著  『 “ I t ”(それ)と呼ばれた子 』

そんなに売れているなんて知らなかった。

この先もっともっと読まれるべきだろうと思う。

すでに本国では彼の他の本も出版されているらしい。
僕は英語読めないので、ペーパーバック買ってきて辞書片手より翻訳待つ方が早いに違いない。

先頭 表紙

貸してあげてもいいけれど、そのくらいの本を買う余裕があるというのであればぜひ買って読んでください。微力ながらも著者の活動の資金に売上げの一部なりとも役に立てるのではないかと思うからです。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:24 )
その衝撃は如何ばかりのものかと考えさせられます。そういう方々にとってはショックだったことでしょう。僕が怖いのは読んでなお衝撃を受けずに済む人もいるのではないかと想像がつくことです。「よみもの」として済まさないで欲しい。そう願います。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:22 )
三部出ましたから、読み返してみてください。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:19 )
読んでください。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:18 )
間違いなく売れてはいるようですから、あとはきちんと読んでもらえることを望みます。 / 揚水 ( 2003-07-14 13:17 )
私もそのタイトル、本屋で見てすごく気になってたんだ。そうなんだ。母として是非読まなくちゃ! / もげんぴ ( 2003-07-11 22:47 )
私は古本屋さんで軽い気持ちで手にして読んだよ。 凄く考えさせられたよ。 私の友達は幼児教育に携る人が多いのね。 そう言う人たちは発売と同時に衝撃を受けてたらしいよ。 / さにゃえもん ( 2003-07-11 00:09 )
1部目が出た頃いろいろ沢山出たので記憶がゴッチャ。今度はじっくり読もうと思っています。 / 闇猫 ( 2003-07-10 08:45 )
家族が買ってきてうちにあるのに、まだ読んでません(^^;  これから読みます。  / ぷらら(^ー^)  ( 2003-07-10 08:37 )
夢樂堂も読みました。虐待は意識しないで行うことが多いとか。いろいろな人にホント読んでほしいです。 / 夢樂堂 ( 2003-07-10 07:23 )

2003-07-09 ふたつの初めて

海月は最近仕事がとても大変なようです。
疲れています。

電話が掛かってきて話を聞くところ、何も食べる気がしないと言うのです。

僕は夜勤明けでだらだらと起きて本なぞ読んでいましたが、「心配かけてごめん、でも来なくてもいいから」と言って電話を切った彼女の家まで、途中スーパーに寄って出掛けていきました。

ニジマスを買いました。

生まれて初めてお金を出してアワビを買いました。
僕にとってアワビというものは、父親が潜って採ってきてくれるものでした。
買うものだとは思っていなかった。
 
生まれて初めて生のさくらんぼを買いました。
これまで人からいただいたことしかありませんでした。
買ったことがない。

ニジマスは液体胡椒、荒挽き黒胡椒と白ワイン、牛乳と赤玉葱、マイタケをぶち込んで蒸します。
アワビは刺身でバルサミコと米酢、醤油、ワサビ、大葉と和えます。
玉葱とマイタケは海月のお父さんが作った味噌で味噌汁、隠し味はアワビのえんがわとでも言うのでしょうか、身の周りのビラビラしたところを刻んで出汁替わりに。
ご飯は玄米と黍。これは海月が炊いてくれていたもの。

そしてデザートはさくらんぼ。

ずいぶん久し振りに彼女にご飯を作りました。
そもそも料理すること自体久し振り。

調味料の分量の加減に対する勘が鈍っていました。
白ワインは多すぎる、マスに下味の塩をしない、バルサミコはこれまた多すぎる。
敗因だらけ。
しかし不思議と瓢箪から駒、どれもみな美味かった。

愛おしくてたまらない人においしいものを食べさせられてとても嬉しい。
僕は嬉しい。海月も嬉しい。
そして僕は自分の部屋に帰るのです。

気持ちよかった。
とても。

先頭 表紙

あわびってめちゃくちゃ高いのよ、おじさんもうびっくりだわ。庶民の味方閉店前のタイムサービスがなければ躊躇したわいな。たぶんタイムサービスで半額になってなくても買ったは買っただろうな。でも躊躇ったね、ボンビーなあたくしは。僕の料理はね、ハニーさんに聞けばわかると思うけど玄人っぽいっつーより適当よ、テキトー。 / 揚水 ( 2003-07-12 00:35 )
そうですね、フローラさん。いつもいつもそんな食事が出来ればいいのに。いまはまだ。 / 揚水 ( 2003-07-12 00:31 )
美味しかったですよ。でも彼女はまだ疲れていそうです。なんとかしてあがられればいいのに。今は僕に出来ることはこのくらいしかない。 / 揚水 ( 2003-07-12 00:30 )
病気ではないのです。疲れていたのです、ありがとうございます。でも僕の愛し方はそっけなくないぞ。鬱陶しいくらい。 / 揚水 ( 2003-07-12 00:28 )
ふふふ、夢樂堂さん、あなたからそんなことを言っていただけるとは。汗顔の至り。 / 揚水 ( 2003-07-12 00:27 )
あ、あわびってめちゃくちゃ高いことない?頑張ったねー。しかも料理が玄人っぽい。液体胡椒って何?おいしそーう。夕食食べたばっかなのにお腹がすいてきた。料理は愛をこめてつくれば何だっておいしいし、いくら高価な食材使ってもいやいや料理したらまずい。そうゆうもんだよね。 / もげんぴ ( 2003-07-11 22:45 )
結婚して、食べることが本当に楽しくなりました。 ふたりで食べることのしあわせ、何よりの贈りものだね。 / フローラ ( 2003-07-10 14:56 )
バルサミコ酢とお醤油って合うんだよね。美味しそう。良かったね、手作りディナー。また元気で頑張れるね。 / みるみる ( 2003-07-10 10:43 )
ああ病気ではなかったのですね。疲れているときは、してもらうのがうれしいですよね。時にこちらが弱っているのに、見舞いと称してさらに壊していく人がいますが、少し足りないくらいのそっけなさっていうのも愛ですね。 / 闇猫 ( 2003-07-10 08:43 )
誰も作ることの出来ない魔法の調味料、これが一番ですね。 / 夢樂堂 ( 2003-07-10 07:24 )

2003-07-06 つまびら、か

まだ首の据わらない赤ん坊をあやしてるお爺さんと道端ですれ違う。
あまりのこぼれんばかりの笑顔につられて笑って見ていると、彼はこちらに気付いて会釈をくれる。
会釈を返す。
赤ん坊に我がないのでもないだろう。むしろ赤ん坊にも我はあるに違いない。
我を張る能力にいまだ欠けているだけなのかもしれない。けれどまだ人間になっていないその生き物は目立って我を張ることはない。
それを見ている者は自分も我を張ることが少ない。

裏山に麻が生えている。
当然ただ生えているのではなく、誰かが植えたに違いない。
周りの草を刈りいい土をくれて肥料を与えた痕跡まである。
魔法の草を使ってまで開放されたい者が望む境地は、逃れるのは自分の我からか他人の我からか。
逃れるのでなく別の場所に行くことを望むものか。

息子は母親の介護を訪問介護にくる他人に任せたい。
母親は摂食もままならず週に二度栄養点滴を受ける。
風呂に入りたくてたまらない。
肩まで湯船に浸かりたい。
心臓が弱く近頃では肺炎の気もある。
息子夫婦は母親を風呂に入れることはしたくない。
任せている他人がやってくれればいいと思っているしそう口にする。
「死んでもいいから風呂に入れてくれ」と母親は言う。
「死んでもいいから風呂に入れてくれ」と息子も言う。
それが出来ない担当者はもう来てくれるなと息子は言う。
訪れて要請される者は結果として人を殺すことになるかもしれないことをするのは当然躊躇われる。
母親は自分が無理を言っていることは承知している。
息子は自分が無理を言っている自覚はきっとない。
みんなが少しずつ我を張り合ってその糸が絡まりあう。
事態は硬直する。
「あたしは業が深い」と彼女は嘆く。

みんな首が据わらない姿で生まれてきた。
何も知らない無垢な姿こそが美しいのだとは言わない、考えない。
人と関わるからこそ人は人でいることとなる。
「あたしは業が深い」と彼女は嘆く。

まだどこを見ているとも定かではない赤ん坊の視線。
視線の先にはその子がやがてもまれるであろう波。
穏やかなものも荒れ狂うものもあるであろう、波。
波、波、波。

波にもまれてやってきた老婆が口にする言葉。
彼女は麻を焚いた煙を吸引したことはない。
そんなことをせずとも彼女は充分、
「あたしは業が深い」

わたしたちを照らす闇と、見ようとするものを隠す光。
業が深いのはなにも彼女ばかりではない。

見えるから見えているとは限らないし、見えないから見えてこないとも限らない。
見ようとするものを隠す光と、わたしたちを照らす闇。
詳らかなのは闇ばかり。
安らかな暗闇。

先頭 表紙

ご本人が希望されることと、それがご本人の体にとっていいことなのか悪いことなのか。そこいらの判断はケースによってまちまちで一概には言えないのでしょうね。 / 揚水 ( 2003-07-10 23:41 )
ハニーさんのご母堂は偉大だ(笑)。 / 揚水 ( 2003-07-10 23:39 )
わがオヤジ殿、体が大分弱っている時に、家族の反対をよそに夜中に風呂に入っていました。皮膚感覚が弱くなっているためかなり暑い湯、やはり入らせたくない。 / 夢樂堂 ( 2003-07-07 11:09 )
おお、とうとう始めたんだね。私達は今「八月のキリン(発泡酒)」にはまってるよ。うちの子最近めっちゃくちゃ我が強くて(というか性格が激しい?)自分の思いどおりにならないと、全身全霊から怒りのオーラを吹き出して怒るんだけどその姿がきゃわいいのなんのって。ハニーのお母さんも「(ハニー)の小さい頃と一緒」って、目を細めてるよ。 / もげんぴ ( 2003-07-06 10:29 )
ずいぶん下の記事のもげんぴさんに対する返事ですが、七月に入ってから酒もタバコも買ってない。くれる人からもらって吸ったりはするけど、何しろ買うのも自分から吸うのも止めた、とりあえず。いつまで続くか。 / 揚水 ( 2003-07-06 02:20 )

2003-06-26 後始末

いくつも並んだステンレス製の扉のひとつが上下に開かれる。
熱気が噴き出す。

ついさっきまでおばあさんのカタチをしていたモノが載せられていたストレッチャーが曳き出される。

カルシウムに還元された骨片。

二人一組にされて箸でその骨片をつまみ、壺に収める。
小さくなってしまったおばあさん。こんな小さな壺に収まってしまう。
係の黒衣の男がつつましやかに、けれど有無を言わせぬそ知らぬ顔で、壺の口を通らない骨片を砕く音。
誰一人その音が気にならないかのような素振り。

僕はおばあさんだったモノが焼かれている間、扉と扉の間の低い位置にある穴が何なのかずっと考えていた。

一通り遺族が箸での遺物の移動を終えた後、黒衣の係に替わって作業着のおじさんが現れた。実にさりげない様子で。
黒衣よりも余程目立たない儀式の黒子。

おじさんは刷毛とステンレスの大きな塵取りで箸には扱えなかったおばあさんの欠片を手早く掃き集め、壺に注いだ。
がしゃがしゃと骨片と骨粉を掻き集める様子にみな一様に驚いている。多分。

けれど誰もそれを口にしない。

遺族は黒衣に促されてその場を離れる。

僕は刷毛でもまだ集められなかったおばあさんの一部だったものが気になっている。
そして、まだ穴のことも気にしている。

おじさんは刷毛と塵取りを、彼が押してきたステンレスのワゴンに収納し、ホースを取り出した。
驚いたことにホースを穴に差し込む。そしてそこにあることに気付かなかった、穴のずいぶん上方にあるスイッチを入れる。
ごう、と音がする。
掃除機だ。

ごうごうと誰か知らない人だった、人々だったモノが焼かれる音にかき消されてはいるものの、その掃除機の音も大層なものだった。

ああ、そういう仕組みだったのか。
働くおじさんの背中を見ながら、僕は合点がいった。

遺族はぞろぞろと控え室に戻っていく。

ひとり従妹が泣いている。
どう表していいかどこにぶつければいいのかわからない怒りを視線に溜めて、掃除機のホースを眺めながら。

僕はそれを見ている。
従妹の視線に比べてあまりにも無機質な自分のそれに、正直戸惑っている。
自然怒りは自分自身へと向かう。怒らない自分に。
怒れない自分に。

僕はただ見ている。

先頭 表紙

かける言葉もないです。仲のいい、人でなくても生き物が死ぬのはつらいですね。何も言えなくてごめんなさい。 / 揚水 ( 2003-07-02 23:18 )
ディティールは、異なるかもしれませんが実話を元にした作り話です。そりゃないぜってことが実際にあるのです。 / 揚水 ( 2003-07-02 23:16 )
昨日、実家の犬が死んじゃった。十五年半生きた。私が実家に到着するほんの前に死んじゃったみたい。今日母が火葬場につれってってくれたよ。私にとって兄弟みたいなものだったからとても辛いよ。 / もげんぴ ( 2003-06-30 20:14 )
コレって実話?随分沢山の火葬場に行ったけど、最後に掃除機様の物でというのは初めて。ソリャナイゼって感じだけど。 / 働くおばさん@kotarou? ( 2003-06-26 21:56 )

2003-06-25 そうしてわたしは思い至るのです

そうしてわたしは思い至るのです。
結句わたしには他人を慮ることなど出来ないのではないか、と。

水洗便所に排便します。
便器の水溜りにわたしの大便が落ちる。

大便は滲んだように水に溶け出しています。
どこまでが便でどこからが腸壁から剥がれ落ちた腸粘膜なのか判然としません。
あまり体調がよろしくないものと思われます。


店が退けて客の若い女三人と後輩とで飯を食いにいくことにした。
俺の四駆は後輩に運転させた。飲酒運転で捕まるのなんか真っ平だ。
後輩は馬鹿だ。馬鹿だからこいつが捕まるのは一向構わない。
馬鹿の上に運転も下手なので運転席のシートごとガンガン蹴った。
「危ないっすよ」
奴は不平を言ったが「そいつは俺の台詞だ、この下手糞!」と怒鳴って黙らせた。
それを見て客の女たちはきゃいきゃい笑っている。
煩い。
こいつらも馬鹿だ。
だが客は金を落とす。だから蹴らない。
後輩は俺に金を払う訳ではない。だから蹴る。
そこまで思い至ってかなり腹が立った。だからまたシートを蹴った。

「何食います?」
後輩がミラー越しに愛想笑いを浮かべて訊いてくる。
「あたしお寿司が食べたい」
「寿司かよ」
「えー、いいじゃない、ねえ」
「ねえ、いいんじゃない」
「ふん、そんじゃまあ寿司にするか。回るヤツでいいよな、おい寿司屋だ寿司」
「はいはい、寿司っすね」
「『はい』は一回でいい」
また蹴った。
後輩の目の中に憎悪の光がちろりと燃えた。


その人は端座して食事をしていました。

わたしは彼のその姿を見て、ああ、負けた、と思ったのです。
やはりわたしは負けていたのです。それを思い知りました。


開いている回転寿司の店を探して回った。
ホストクラブが終わる明け方に開いている店なんかそうそうあるはずもないのはわかっていたが、店が見つからないのはお前のせいだと後輩に当り散らした。
そうこうするうちに朝帰りと呼べる時間は過ぎようとしている。
「まとも」な時間に動く「まとも」な連中が動き始める時間になりつつあった。

いらいらする。

なんとか店は見つかった。
後輩はシートを蹴られずに済んだとばかりに安堵した表情を見せた。
それに腹が立って、駐車場に入って車を降りる直前にまたシートを蹴った。
「勘弁してくださいよお」
後輩は笑って言った。目は笑っていない。

いつか俺はこいつに刺されるだろう。

奥のボックスに陣取って、五人で大騒ぎしながら寿司を食った。
昼近くまでだらだらと長居した。


その人は一人で店に入ってきました。
足をゆっくりと小刻みに動かし、歩みは鈍いながらそれでも確実に歩いている、そういう風情で。

よく洗ってはいるようですが、着ているものはみすぼらしいと言っても構わないでしょう。
カウンター席の一番隅にひっそりと腰掛けて、ズボンのポケットから剥き出しの千円札を二枚取り出し、カウンターの上に丁寧に拡げました。
自分の持ってきたお金の金額に間違いがないか確かめているかのようでもありました。
そうして多分自分の予算を計算しつつ、慎重にゆっくりと食事を始めたのです。
背が曲がっているにもかかわらず姿勢正しく。

思うに。

何週間に一回、或いは何ヶ月かに一回、彼が自分自身に許した贅沢なのかもしれません。
彼がどういう人生を歩んできたどういう人物なのかわたしに知る由もありません。


「何見てんの?」
俺の視線の先に女の一人が気付いた。
「あのじじい? きったないじじいねえ」
「めちゃ貧乏臭えな」
「どれ? ああほんとだ」

俺はものも言わずに連れの四人をぶん殴った。

先頭 表紙

あ、みるさんへのお返事がぬけた形になってますね。酩酊はしてましたがそこまで腸はおかしくなってませんでした、だいじょうぶです、ありがとう。 / 揚水 ( 2003-07-06 02:15 )
ですね、暴力反対に賛成。 / 揚水 ( 2003-07-02 23:14 )
いや、いい子っつーか、アンビバレンツかなんか知らん、いちばんヤなヤツでしょう。じいさんとは一番遠いところに居る自分に腹を立てて同類に暴力ふるおうってんですから。 / 揚水 ( 2003-07-02 23:14 )
ぷららさん、「俺」の煩悶はこれからです。 / 揚水 ( 2003-07-02 23:12 )
暴力反対。 / もげんぴ ( 2003-06-30 20:15 )
えーと、誤解を招いているとしたらごめんなさいね。「俺」は僕じゃないですからね、取り急ぎ悪しからず。 / 揚水 ( 2003-06-26 09:59 )
揚ちゃん、酩酊してたの? それよりも腸炎にならないようにね。あみすけ、かなり辛そうだったよ。 / みるみる ( 2003-06-26 09:47 )
類友なんですから、ダメですよ〜自分だけイイコしちゃ〜。じいさんからすれば5人とも全部煩い客。 / 闇猫@嗚呼最近の若いもんは・・ってか? ( 2003-06-25 12:25 )
あー、スッキリ♪   / ぷらら(^▽^)v ( 2003-06-25 12:13 )

2003-06-21 ゴライアテ

巨人を倒すこと適わずとも、巨人をしげしげ見ることは前よりも覚えたかもしれない。
少なくとも、昨日よりは。

今朝もまた日が昇る。

明日になればまた僕の眼は掻き曇り、見えたものが見えなくなるかもしれない。
そして次の日にはまた数日前より見えるようになり、またその次の日には見えなくなるかもしれない。

その繰り返しで、少しずつ、少しずつ、ただ巨大であるとしかわからなかった巨人の容貌が、僕の眼に映るようになっていく。
僕は巨人に近づいたり離れたりを反復する。

倒すのはまた今度にしよう。

今度が確実にあるいは即時にやってくるかどうかは、また別として。

先頭 表紙

デイヴィッドは石を投げる。投げる。 / 揚水 ( 2003-06-26 09:57 )
石を投げようとするあの憂いを含んだまなざしと、美しい肉体が目に浮かんできたわ。 / ど〜にゃ ( 2003-06-25 22:36 )
はいな、さにゃえさん、ありがとうございます。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:15 )
もげんぴさん、答えようかと思ったらさにゃえもんさんが上手く言い当ててくれました、そういうことです。それとゴライアテは巨人ゴリアテですね。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:14 )
原巨人ではないですね、少なくとも。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:13 )
私は自分で商売をしてるのね。 何だか読んでいて自分の未来に対する姿勢を代弁してもらった気がしたよ。 お互い巨人に挑んで倒せる未来になりますように。 / さにゃえもん ( 2003-06-24 21:09 )
私もそれ、ききたい。それと、ゴライアテって? / もげんぴ ( 2003-06-24 14:06 )
この巨人はどういう巨人なのでしょうか。 / 夢樂堂 ( 2003-06-23 07:34 )

2003-06-15 その厚み

久しぶりに新聞なぞ買ってみる。

アウン・サン・スー・チー氏拘束に絡んでパウエル米国務長官が、ミャンマーの軍事政権が自身の最高意思決定機関を「厚かましいことに国家平和発展評議会と名づけている」と指摘、批判との記事。

どの口が言う?

ミャンマーで起こったことの是非はともかく、世界で一番の軍事大国、世界一の軍事政権の強権発動恫喝国家の中枢に居ると自分の面の皮の厚さには無頓着になるらしい。

なんて人のことを言うのは簡単だから、僕の面の皮もきっと分厚いのに違いないやね。

先頭 表紙

わたしはパウエルさんについて何も感じるところがなかったので、意外というより当然かと思いました。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:12 )
はい。海月さんは大丈夫なようです。ありがとうございます。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:12 )
どうでしょう? 僕なんか権力のかけらも持ち合わせてはいませんがかなり厚かましいですからねえ。厚かましいというよりも、「偉い」んでしょうかねえ。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:11 )
はい、またよろしくお願いします。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:09 )
多すぎますね。 / 揚水 ( 2003-06-25 06:09 )
またかって感じ。ほんっと棚に上げまくってるよねー。でもパウエルさんがそんな発言をしたとは意外だった。 / もげんぴ ( 2003-06-19 22:20 )
誰でも初心忘れべからずよね。。つっこみご無沙汰していましたが、海月さん具合大丈夫ですか?お大事に。。 / みるみる@Atelier ( 2003-06-16 23:55 )
権力と暴力にうしろだてされた人間は、やはり厚かましくなってしまうのでしょう。 / 柏原真言 ( 2003-06-16 14:28 )
浮上してきました。また、よろしく。 / 風歌@ありがとうございました ( 2003-06-16 07:25 )
何をかいわんや、そういうの多すぎるね。 / 夢樂堂 ( 2003-06-15 22:52 )

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