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揚水の「人生薔薇色計画」

僕のハンドルは「ようすい」ではなく「あげみ」と読みます。表記はaghemiとしています。

妻の海月は「くらげ」と読みます。



ふりぃのかうんた

yesterday ふりぃのかうんた today ふりぃのかうんた


自分が何者であるか今よりももっとわからず身悶えしていた学生の頃、何をしたらいいのかについて友達と話しに話した。
結論は出なかった。どころか何をしてもいいんだということにすらなった。
ただし、本当に何をしてもいいというのではなかった。
一つだけ基準がある。
それは俺の、俺たちの、ひいてはほかの人たちの人生を薔薇色にするか、その一点。
時々それを思い出しては行動する。
それが僕たちの人生薔薇色計画。



    よそいき仕事日記   

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-06-09 光る道
2003-06-09 お伽噺じゃあ、ないんじゃよ
2003-06-04 人は面と向かって話してみるまでは判らない
2003-06-02 おいおいもう6月じゃんかよ
2003-05-31 べたべた
2003-05-30 遅ればせながら
2003-05-29 そりゃ無茶だろう
2003-05-25 生まれてきてくれて、嬉しい
2003-05-22 流浪 16  いつか来た道、やがて行く道
2003-05-22 流浪 15  桃の里


2003-06-09 光る道

明け方、彼女の部屋を忍び出て自分の家に帰る。

アスファルト道路に幾本もの直線が引かれていることに気付く。
その直線は明け始めた太陽の光の朧ろに煌く。
気付かなければ気付かないまま通り過ぎてしまうであろう、ある生き物たちの軌跡。

かつて這うは蛞蝓かいずれ蝸牛か。
今朝は晴れている。
雨の日に道に刻まれた生き物の足跡。

錯綜する線、光る。

僕の帰途。
彼女の体を這う僕の舌。

明日も、いや今日も世界が僕たちの前に拓けていますように。

先頭 表紙

ナニをおっしゃいますことやら。僕のようなアーバンでシティーな好男子を捕まえて(笑)。 / 揚水@もっとちゃんと動物らしく暮らしたい ( 2003-06-12 09:56 )
お褒めに預かり光栄至極。言葉をそぐことに留意してますから。しかし文学小説ではないのです。エロ小説を目指してます、高品位の。 / 揚水 ( 2003-06-12 09:54 )
ほふふふふ・・・。 / 揚水 ( 2003-06-12 09:53 )
してやったり。今回のテーマは精神の性感帯をくすぐる、です。誰のって? んなの僕のに決まってんじゃん(笑)。 あ、それじゃオナニーだ(笑)。 / 揚水 ( 2003-06-12 09:52 )
恋は人を詩人にするね。例えあなたのような動物君でも。 / 同じく動物君のもげんぴ ( 2003-06-12 00:51 )
短いけど文学小説みたいで素敵。 心情と背景がまとまってる文章って大好きっす。 / さにゃえもん ( 2003-06-09 23:12 )
ふほほほほ・・・。 / みるみる@Atelier ( 2003-06-09 22:28 )
(;´Д`)感じてしまう、ハァ。体がじゃないよ、揚水さんの感情と視線に。惚れます。揚水さんに、お二人に。 / りょう ( 2003-06-09 22:12 )

2003-06-09 お伽噺じゃあ、ないんじゃよ

齢90歳になんなんとするあるご老婆のお言葉、らしい。

らしいというのは僕が直接うかがった話ではなく人伝てに聞いた話だから。


このあたりには蛍がおったんじゃ。
本当の話、お伽噺じゃないんじゃよ。

源氏蛍を捕まえると、うれしかったなあ。

なぜ?

ほかのより、大きいからじゃよ。


およそひと世紀前、本当にあったことを知ってらっしゃる方が、今、生きている。

涙が出てくる。
そういう人の話をうかがうことができる生き方を歩めたらいいな、と思う。
そうしたい。

同じ泣くなら切なくても嬉しい方がいいに決まっているじゃないか。

なあ、そうじゃないか? そうだろう?

先頭 表紙

風歌さん、僕は高校生の頃祖母が巻き込まれた赤狩りの話を聞きました。大人になった今聞けるものならうかがって欲しいと思います。 / 揚水 ( 2003-06-12 09:59 )
そりゃうらやましいや、kotarouさん。 / 揚水 ( 2003-06-12 09:58 )
夢樂堂さん、経験値は知恵ですね。 / 揚水 ( 2003-06-12 09:57 )
涙は君のため僕のため、誰か知らない人のため。 / 揚水 ( 2003-06-12 08:03 )
そうだそうだ!涙は嬉しい時と感動した時のためにとっておきたいね。(斉藤由貴じゃないぜ) / もげんぴ ( 2003-06-12 00:55 )
僕はきっとなんでもないことを聞く時にそういう反応をしてしまうと思いました。もちろん今とは違ったことにはそれこそ「お伽噺」の反応をしてしまいがちになることも否めない事実でしょうが。以上お三方にまとめてのお答えですみません。 / 揚水 ( 2003-06-10 07:31 )
奇抜なこともありふれたこともひっくるめて彼女の生きてきた現実。ですから「お伽噺じゃないんじゃよ」、なんでしょう。百年弱昔といえば、各家庭にろくに電気が通っていた訳でもなかったでしょう。車も少なかった。今からすれば無いにも等しい。そうした中、それを特殊なこととせずに生きた生きてきた人のお話。嬉しくて切なくて、なんと言っていいのか、僕は聞けばきっとじわりとしてしまいます。 / 揚水 ( 2003-06-10 07:29 )
この方がおっしゃるには、昔語りをする時、リアルにあった現実として受け止めてくれるお孫さんと、自分の知らない、もう不思議な世界、遠い夢の国のお話でも聞くかのようなお孫さんとに分かれるとのことです。彼女にとってありふれた、まさにリアルな現実であった過去の経験。それをそのまま受け止めてもらえることが嬉しいのだと思います。 / 揚水 ( 2003-06-10 07:28 )
幼い頃は母から戦争の話しをよく聞いた、大人になったら替えって聞けなくなった。よそのお年寄りからは聞き出せるのに、なぜか身内には聞けない・・・ / 風歌 ( 2003-06-09 14:09 )
この間ホームのおばぁちゃんから昔「産婆さん」だった時の実録話聞いたけど、面白かったわぁ。半分ボケ話が混ざっていたとしても、ハラハラドキドキの冒険モノ聞いてるみたいでね。 / kotarou ( 2003-06-09 09:43 )
お年寄りのお話を聴くのが大好きです。味も知恵もありますからね。 / 夢樂堂@お見舞いありがとう ( 2003-06-09 08:49 )

2003-06-04 人は面と向かって話してみるまでは判らない

寮にいて、僕はほかの人間に会うのが正直面倒くさかったのです。
今日ある人と飲んだくれました。

意外にもその人は本を読むのが好きだとのこと。
でその好きだって本は?

そんでもって僕はフランス書院文庫を5冊も借りる羽目になりました。

これで勃たなきゃ男じゃないとまで言われましたが。

ぶははははははは。

先頭 表紙

いや、あの、書店に「フランス書院文庫」が並んでいる様が可笑しいかもしれないのです。えーと。百聞は一見に如かず、いっぺん見てきてちょーすか? / 揚水 ( 2003-06-09 04:59 )
いいっすね。あまり読んだ経験はないですが、そちらの方がぐっときそうです。 / 揚水 ( 2003-06-09 04:57 )
ええー、悶絶するほどおもろいの、それって??? / あみすけ ( 2003-06-08 00:33 )
白水社ではダメか? / 夢樂堂@お見舞いありがとう ( 2003-06-07 20:24 )
ええ!? そうなの? でもフランス書院文庫ってのはまったく別物です、はい。 / 揚水 ( 2003-06-07 08:18 )
そういえばあなたの文ってちょっとフランスっぽいね。サガンとか。 / もげんぴ ( 2003-06-06 22:01 )
お久しぶりです。本屋さんをのぞいてみてください。抱腹絶倒間違いなし。 / 揚水 ( 2003-06-05 20:55 )
はい、要りません(割ときっぱり)。 / 揚水 ( 2003-06-05 20:55 )
おひさです!フランス書院文庫?見たことも聞いたこともありません、私は^^;。 / あみすけ ( 2003-06-04 22:39 )
むははは。本なんかいらないわよねぇ〜  / kotarou ( 2003-06-04 19:02 )

2003-06-02 おいおいもう6月じゃんかよ

スキャナ不調。
でもってパソコンを振り出しに戻した。実に10時間以上もかかって。
普段怠っていた分、バックアップにえらいこと時間かかるんですわ。

結局スキャナは動いてくださいませんでしたとさ。
10時間かけて無駄でしたとさ。
ちゃんちゃん。

しかも海月と僕の大事な記録のファイルが一個とんじゃった。

もう6月になってんじゃん。
しかも2日だよ。

うへえ。

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ほお! / 揚水 ( 2003-06-10 07:15 )
いえ、仔細あってHNが変わりました。kotaさんとつっこみまくっていた化け猫です。 / 風歌@久しぶりにつっこんだの ( 2003-06-09 07:21 )
ねえ(笑)。 / 揚水 ( 2003-06-05 20:54 )
ああ、そうか、そういう見方もできるんだと妙に納得。気付かなかった。迂闊。 / 揚水@おはつでしたでしょうか? ( 2003-06-05 20:53 )
パソの根本的なお手入れ、ずっと先延ばしにしてていい加減やろうと思った矢先にここ読んで、再び挫折。そうなのよ、時間と手間と労力・・・で、スッキリしないんじゃねぇ・・・・ / 働くおばさん@kotarou? ( 2003-06-04 10:12 )
もう1年が半分・・などというベタなことは言いません・・・・怒涛の後半です。 / 風歌 ( 2003-06-02 07:54 )

2003-05-31 べたべた

くっついて離れてまたくっついて、眠る。

久し振りに2日も休みが重なった。

ただ一緒にいるだけ。

先頭 表紙

でがしょ? / 揚水 ( 2003-06-05 20:50 )
それが何よりでげす。こっちも一緒。 / 夢樂堂 ( 2003-06-01 12:46 )

2003-05-30 遅ればせながら

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、買いました。

映画『ブレードランナー』観てないんですけどね。

先頭 表紙

2003-05-29 そりゃ無茶だろう

わったっしゃっお〜んがっくっかっ、やっまっのっこっりっすー♪

「仔」リスである必要はあるのか?
リスでいいだろ? リスでさあ。

メロディーライン上、音(おん)が一個余る。
栗鼠だ。
そうだ、仔リスにしちまえ。
これですべての問題は解決さ!

辻褄が合いさえすればいいのか?
乱暴だなあ、と思う。

でもこの歌、大好きです。
上手にヴァイオリンは弾けませんが、数少ない下手くそなチェロのレパートリーですし。

ごめんなさい、焼酎でかなり酔っ払ってます。
おやすみなさい。

きゅきゅきゅっきゅっきゅー、てなもんだ。

いかがです?

先頭 表紙

あらためまして下の記事にまとめレス。みなさんおめでとう。 / 揚水 ( 2003-06-05 20:52 )
訂正済み。もり→やま。 / 揚水 ( 2003-05-30 09:06 )
伴奏つけてあげよっかぁ!山の子リス〜♪じゃなかったっけな? / みるみる@Atelier ( 2003-05-30 07:18 )
ベースもギターもチェロもドラムも、ほんのさわりだけ(笑)。 / 揚水 ( 2003-05-30 00:16 )
弾けません(笑)。音が出せるくらいです。チューニングに30分は掛かる(笑)。 その三味線なら夢樂堂さん、僕も弾けますよ(笑)。 / 揚水 ( 2003-05-30 00:13 )
ゴーシュ、ということは弾けない、ということですねえ(笑)。当たりです。 / 揚水@ちゃんと読んでないや ( 2003-05-30 00:10 )
酔っぱらいながら一緒にセッションしたいものです。横レスすいません 夢樂堂さん、三味線!すごいですね!! / りょう ( 2003-05-29 23:06 )
チェロが弾けるんですか。夢樂堂は三味線しか弾けない。楽器ではなく・・・・ / 夢樂堂 ( 2003-05-29 15:06 )
うん、上手、上手。(^v^) セロ弾きのゴーシュみたい♪  / ぷらら(^▽^) ( 2003-05-29 09:30 )

2003-05-25 生まれてきてくれて、嬉しい

いつか機会があって君に聞かせる日が来るかもしれない。
でもそんな日は来ないかもしれない。

君が生まれてきて、お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃん、そうした人たち以外にも嬉しい人間がいることを、君にいつか知ってもらえる日が来れば、その時僕はどんなに嬉しいだろう。

そのことを想像するだけで、僕は自然に目が細くなる。

僕も彼女も、君が生まれてきてくれて、嬉しい。

今日は君の一歳のお誕生日ですね。

おめでとう。

先頭 表紙

↓酔っ払ってるかも、言葉が変だ(苦笑) 誕生日もだけど、毎日がブランニューです^^ / りょう@親ばか再び ( 2003-05-29 23:09 )
生まれた日、そして誕生日、毎年が感動です。ものすごいプレゼントだなあと、毎年思います・・・^^ / りょう@親ばか ( 2003-05-29 23:07 )
とりあえずまとめレス失礼。この言葉は、皆さんにも言うことが出来ます。 / 揚水 ( 2003-05-29 02:40 )
おめでとう。 / jinko ( 2003-05-28 10:22 )
私ももうすぐ誕生日です。私にもこうやって思ってくれる人がいるだろうか・・・ってちょっと考えてしまいました(笑) / 綺羅 ( 2003-05-28 04:08 )
おめでとう!生命の誕生は素晴らしきもの。そしてその成長も。 / みるみる@Atelier ( 2003-05-27 11:52 )
全てに感謝!! / もげんぴのハニー ( 2003-05-27 09:02 )
誕生、それは無尽蔵の可能性を秘めているのと同じ意味を持ちます。ブラボー、中島みゆき風にいうなら『生まれてきて ウェルカム』切れの / 夢樂堂 ( 2003-05-26 17:37 )
ありがとう!慧地君ばんざーい!揚水ばんざーい!海月ばんざーい!ハニーばんざーい!私ばんざーい! / もげんぴ ( 2003-05-26 09:52 )
揚水さまにも、おめでとうを。  / フローラ ( 2003-05-26 05:45 )
一歳のお誕生日に戻って、その言葉を聞きたくなりました。(^v^)  / ぷらら(^▽^) ( 2003-05-25 23:29 )

2003-05-22 流浪 16  いつか来た道、やがて行く道

る物はぼろぼろだ、里の女に頼んで二揃い誂えておいたから、それを自分で取ってこい。僕は今日は勝手に炭を焼く気になっていたのでなんだか調子が狂ったように感じた。それに僕はここに来てから男以外の人間に会うのは初めてだ。食料を持ってくる農婦にも鉄屋にも顔を合わせたことがない。僕の心の動きを読んだか、男は言った。心配するな、里の人間は知らないうちに知らない奴がいるようになることには慣れっこだ。もとは自分もそうやってやってきた人間ばかりだからな。仕事に熱中するあまり、初めのうち感じていていつのまにか忘れそうになっていた疑問を、僕は男に問うてみた。いったい、どういうところなんですか? その、里、というのは。どうもこうもない、そういうところさ。男の答えは簡潔だったが、僕にはどうも要領を得ない。重ねて僕は同じ事を問うた。男は答えにくそうに、それでも判りやすいよう言葉を選んで話してくれた。説明するのは難しいんだ。どうしてそうなのかは判らない、いつからあるのかも判らない、ここの里は、どこにも行きようのない人間がやってきて暮らしている。どうしてやってくるのか、またやってこられるのかも判らない。行き場のない人間すべてがここに来るというのでもなさそうだ。新しい人間がやってくるのはたまのことだからな。僕のように、ですか? そう、だな。人間そのものが生まれ変わる訳じゃないさ、それでも今までの役割から降りて、ここで新しい役割を与えられる。与えられる? 与えられる、というのも違う、新しい役割を得る機会を与えられるのかな。だとすれば僕に与えられる役割とはなんなのだろう。男の言葉を聞きながら僕は考える。一人で暮らす者もいれば所帯を持つ者もいる。ここで生まれた人はいないんですか? もちろんいる。そんなに次々と、いくらたまにではあっても人がやってきて、里に人が溢れるようなことはないんですか? ああ、それはないな。何故? やってきた人間ここで生まれた人間の区別なく、いなくなるんだ。いなくなるんですか。そう、やってきたときと同じように、すうっと、今度はいなくなる。残された人は悲しくないんでしょうか。淋しいとは思うだろうな、けれど悲しむことじゃない。ここに来て自分の役割を得たのと同じように、またどこかで新しい役割を得ているんだろうからな。まあ、上手く説明出来たかどうか判らないが、ここはそういうところだ。僕は納得したようなしないような、なんともあやふやな心持ちだった。とにかく行ってこい、ついでにこれも届けてくれ。男は油紙に包んだ縫い針を僕に手渡した。僕は男に教えられた道順どおり、小川に沿って歩き出した。男の小屋は林に囲まれているが、しばらく歩くと視界がひらけてきた。小川から分かれて用水が切ってある。代掻きの済んだ田圃には水が張られている。それよりも。林から出た僕の視界の一番先に、そして視界の一番多くを占めたのは、桃。一面咲き乱れる見事な桃だった。田圃より高いところにある畑、草葺きの家々の庭、道筋、山の斜面、至るところに桃が植えられている。来たはずもない場所なのになぜか懐かしい。道を行く僕を見て、田や畑で作業する人々が頭を下げて挨拶してくれる。自然に僕も会釈を返した。その彼らの顔にも説明できない懐かしさを感じた。かつてどこかで会った、それも親しくしていた顔があるのかもしれない。けれど僕には誰がかつて会った人間なのか、それが誰なのか、どこで会った人間なのか判らない。里とは、こうしたところなのだろう。男に説明を受けても判らなかったことが、この場所にいればなんとは

先頭 表紙

今回は長いっすよ、多分。文字制限は確かにそうなんですけど、それでもいいところで区切ってるつもりでいるんですよぉ。 / 揚水 ( 2003-05-29 02:39 )
ぬお 久しぶりの長編ね。読んでます。いいとこで終わるんじゃなくて・・・突然終わるの・・(笑) 文字制限ね? / りょう ( 2003-05-24 01:26 )

2003-05-22 流浪 15  桃の里

か、里の下からやってくるか、それだけのことだ。上からか下からか、何か違いでもあるんですか? なに、たいした違いもない。まあどっちにしろ上にも下にもいられないような者がやってくるところさ。その言葉を聞いて考えた。あの兵士たちのうちどれだけかは里に辿り着いたのだろうか? 男もまたどこかにいられなくなってここにやってきたのだろうか。僕はどこにいられなくなってここにいるのだろう? 男は、鍛冶屋だった。鋤や鍬や鎌、包丁などを打っている。小さなところでは釘や鎹、釣針やヤスも打つ。鍋釜の鋳掛もやるようだ。僕はまだ里がどんなところなのかさえ知らないが、里の暮らしに必要な金物の仕事の類一切は男がやっているということになる。打たないのは刀くらいのものだ。僕は男の仕事を手伝いながら居候させてもらうようなかたちになった。水車小屋は男の仕事場だった。小屋中に革のベルトが張り巡らされ、水車の回転を動力に、鎚や鞴や砥石が動くようになっていた。僕がやってきた時は動力の源のベルトがはずされていて静かだった。流れてくる鉄屋から受け取るのだという玉鋼や砂鉄、打ち直すために里から持ち込まれた農具や刃物、炭、そういったものを運ぶ単純な作業の次に覚えさせられたのが、どのベルトをどこのどの軸に掛ければどこの動力になるかという組み合わせだった。まわっている軸によく張られた革のベルトを掛ける際に指を巻き込まれないように気を付けさえすれば、力は必要だったが難しい仕事ではなかった。しばらく小屋の仕事を続けるうちに僕の何かを認めてくれたのか、男が他所からやってきた者と何らかの交渉をもっている間、それは鉄屋でもあれば野菜や米を持ってきてくれた近在の農婦であったりもしたが、男が客の訪問を受けている間、荒打ちをやらせてくれるようになった。彼が小屋の外で話をしている間も鎚音が響くのを聞いて、訪れた人間は彼以外にもこの小屋にいる者があることを自然に知ったようだった。俺の古着で悪いがな。彼はまた、そう言いながら数少ない衣類の中から作業着兼普段着の、しっかりした生地の木綿の股引と筒袖の単、腹掛けを分け与えてくれた。手で鎚を振るって刃物を鍛える際は地面の上で中腰で行うが、荒打ちは地面に掘った穴に腰掛けて行う。穴は二段に掘られていて、浅いところに腰掛け、深いところは足を伸ばせるようになっている。伸ばした足の間には金床があり、その先には火床がある。金床の上には上下に動く鎚が設えてある。水車の動力によって断続して鎚が刃物を打つ仕組みになっている。右手には楫棒があり、少しずつ段差のついた円錐状の軸に掛けられたベルトが動かせるようになっている。軸の細い方にベルトを掛ければ回転が速く、太いほうに掛ければ回転が遅くなる。一番太い方の外側には空転する、鎚とは連結していない別の軸があり、そこにベルトを掛けておけば鎚は動かない。左手には手押しの鞴がある。水車の動力による鞴は炭の火を熾しておくだけの空気しか送っていない。鋼や鉄を灼くために火床の炭火をさらに強く熾す時、手押しの鞴を押す。あちこちの軸が軋む音、ベルトが空を切ってしなる音、さまざまな速度に自分で調節した鎚の響く音、暗い小屋の中に入ると、そうした音の中で僕は鉄を打つ仕事に没頭した。炭火ばかりが、赫い。小屋の外ではさまざまなものを運んだ。男の一日の仕事は陽が昇れば始まり、陽が沈めば終わった。だから外ではたとえ雨天でもすべてのものが明るかった。僕はどちらの仕事も好んだ。里に行ってこい。ある朝男が言った。今日は急ぎで片付ける仕事もない。お前の着て

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