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ちほ〜家の人々

介護度4、中度の痴呆を患うバアバを中心とした、
二世帯5人家族の亜空間ワールドを実況中継。

目次 (総目次)   [次の10件を表示]   表紙

2003-11-10 偶然の妙
2003-11-04 なんでだろう
2003-11-02 ネコの手も借りたい
2003-11-01 ...なこの頃...
2003-10-26 うっかりヨメ子
2003-10-22 おそらく、バァバ譲り
2003-10-20 深い...深すぎる...
2003-10-18 確かに、初めて見た時は私もびっくりした...
2003-10-15 コスモスの揺れる丘(1)
2003-10-15 コスモスの揺れる丘(2)


2003-11-10 偶然の妙

病院のハシゴは、付き添うのも辛いが、
やはりなんといっても、本人が一番辛いであろう。
いかに外出時はお行儀がよいバァバといっても、
時間がたつにつれ、だんだん目がすわってくる。
不穏の前触れである。


二ケ所目の病院。最後の受診科の待合所にて。
バァバ「全く、いつまで待たせる気かい。」
ヨメ子「長いよね。でも、もうちょっとだよ。もうちょっと...」
バァバ「ノドが乾いた。」
ヨメ子「え?あ、そう?あったかいお茶買ってこようか?」
バァバ「やだ。冷たくて甘いのがいい。」

バァバにしては珍しい注文である。
ヨメ子「今、買ってくるよ。すぐ戻るね。」

幸い自販機はすぐ近くにあった。
待ち合いまで戻ると、急いでプルタブを開けてバァバに手渡した。
ヨメ子「はい、バァバは冷たいの。私は熱いの。じゃ、いただきま〜す。」
バァバ「飲めない。」
ヨメ子「は?」
バァバ「コップちょうだい。」
最近あちらこちらのコントロールができなくなってきたバァバ。
缶の穴と口がうまく合わせられないのであった。

ヨメ子「コップなんて持って来てないよ...ゆっくり飲めば大丈夫だよ。」
そういって、バァバの顔を覗き込んでぎょっとするヨメ子。
ヤバイ...目が完全にすわってる...
おまけに口までピクピクしている...

ヨメ子「わかったわかった、今すぐ持ってくる。まっててね。」
そうはいったものの、どこから調達していいかわからずオロオロするヨメ子。
辺りを見回すと、こちらを心配そうに見つめている看護婦さんと目が合った。
天の助けか、彼女の手には紙コップが...

ヨメ子「(身ぶり手ぶりで)それもらえますか?」
看護婦さんが右手でOKサインを出してくれたので、ヨメ子は取りに走った。
「これ、きれいなんだけど...大丈夫かしら、おばあさま。」
「全然オッケーです。助かります。」
また走って待ち合いまで戻り
バァバの様子をうかがいながらすばやく缶からコップに移し替える。

「バァバ、よかった、あったよコップ。これなら飲め......ううう......」
ヨメ子の口から思わず唸り声が...


検○コップと『午後の紅茶レモン』
計らずして、最高の取り合わせであった...

先頭 表紙

kiha様:さすがに、ガードしながら飲ませました(笑)。知り合いに見つかって「あそこの嫁は、姑がボケたのをいいことに〜」なんていわれたら、たまりません... / ヨメ子 ( 2003-11-11 12:37 )
看護婦さんが持ってる紙コップと言えば・・・ですよね〜笑いました。端から見てる人の方がギョッとしたりして〜 / kiha ( 2003-11-11 11:12 )

2003-11-04 なんでだろう

パジャマはもちろんのこと、行帰りの洋服まで洗濯してくれる△△荘...
恐い看護婦さんが、汚れた下着を黒いゴミ袋に詰めて返してくれる○○センター...
利用料は△△荘の方が安いのは
♪ なんでだろ〜ぉ

介護保険利用だと一割負担
医療保険利用だと一割負担&「オムツ代、実費です。」
♪ なんでだろ〜ぉ

おニューの入れ歯を早速隠したバァバ。
家族総出で探したがみつからない。
食事の度に
ノドにつまらせるわ、食後にモドすわ
粥やキザミはいやがるわ...
どうしようもないのでまた歯医者さんに行ったところ
かわいい受付の女の子がにっこり笑って

「前回の入れ歯作成から6ヶ月たってませんので、
 この度は保険適用外です。全額自費になりますが。」

♪ なんでだろ〜ぉ なんでだろ〜ぉ


短期入所の際
ヨメ子「最近、安定剤が強すぎるようで、昼間もぼーっとしてしまうんです。
    お医者さんからは、朝の薬を抜いてもいいといわれたんですが。」
係の人「わかりました。うちはできるだけ安定剤を使わない方向でやってますんで
    使わないでよさそうな分は減らします。」
ヨメ子「すみません。よろしくお願いします。」


ところが、退所日に迎えにいってみると
バァバが車椅子にぐったりポーズで座って
口の端からヨダレを垂らしている。
ヨメ子「バァバ! どうしたの? 大丈夫???」
呼び掛けても反応がないのは...

なんでだ! なんでだ! なんでだ!
なんでだろ〜ぉ

先頭 表紙

ぺんぺん様、ありがとうございます。お子さまの介護をなさっている方は、私よりずっとずっと大変だと思います。心が2歳の少年...天使のままなのですね。今日はバァバと一緒に養護学校に併設された病院にいってきましたが、どの子もみんな一生懸命で、元気をもらえました。ぺんぺんさんの美しい写真と優しい文にも癒され、まだまだがんばれそうなヨメ子であります。 / ヨメ子 ( 2003-11-10 16:11 )
はじめまして。涙あり、笑いありの実録介護日記、息もつかず一気に読んでしまいました。我が家は、身体健康、頭脳2歳程度の先天性知的障害11歳のムスコがいるので別の意味で日々是決戦ですが、身体機能が異常ないだけでも良しと思っております。バァバ様、動き回ってのおイタの対応も大変だけど身体の自由がきかなくなってしまってからの介護もしんどいですよね。ヨメ子さまのせいなどということは絶対にないと思います。ご自愛くださいね。 / ぺんぺん ( 2003-11-09 01:21 )
めぐみ様&koyuki様:とても心配なのです。急激にADLが低下してきて...これまでは、徘徊の対応ほど大変なことはないと思っていたのですが、実際体が動かないバァバの世話も大変だとわかりました。更に、具合が悪くなっていく姿を見ていると、自分のせいじゃないか、という気持ちになってきて、それも辛いです。どうなっちゃうんでしょうか、これから... / ヨメ子 ( 2003-11-05 17:02 )
ばぁばさん、大丈夫ですか?やっぱり家の者が見てないと子供にしてもばぁば様にしても心配ですね。 / koyuki ( 2003-11-05 10:14 )
バァバさん、具合はいかがですか?なんだか心配です・・・お大事に。。。 / めぐみ ( 2003-11-04 22:09 )
前の歯医者なら、同じ型でささっと作ってくれるかと思ったのに....。織姫さんちの「なんでだろ」知りたいです〜。すごそう、へへへ。 / ヨメ子 ( 2003-11-04 21:36 )
介護保険は点数限度ありだけど、医療保険はいくらでも♪ 入れ歯は合わないと言って何度でも作り直す人がいるから。歯医者を変えると保険で入れ歯が作れるわ。 ショートステイで使わないで良さそうなときって言うのは、いい子で動かない時。ちょっとでもふらふらあるったら、使わなくっちゃ!になります。感覚が違うのよ・・。 / 織姫@我が家もなんでだろ〜がいっぱい ( 2003-11-04 20:02 )

2003-11-02 ネコの手も借りたい

実は、ここだけの話(でもないが)
ダーリンはバツイチである。

最初の結婚は、ちょうど十年ほど前のこと。
お相手はもともと病弱で
新婚早々体調を崩した彼女に
ダーリンは、親友のお医者さんを紹介した。
彼女の具合が良くなった時
お医者さんと彼女の仲も良くなっていた。
というか、すでに仲良くなりすぎていた。

いわゆる、カラオケでよく歌う
♪ 悲しみが〜とまらな〜い〜 ♪
というやつである。

まだ結婚して日も浅く
子どももなかったので
あっさり協議離婚したそうだ。

話としてはこれだけではあるが、
それでもちょこちょこと話を聞いてわかったことは、
お嫁さんとバァバはうまくいっていなかった、ということだ。

十年前、すでにバァバは身障者2級。
普通歩行はできず、記憶障害をおっていた。
それを承知で嫁入りしたとはいえ
想像を超えた日々のやりとりの中
相談する人もなく、独り悶々と悩む彼女の姿が目に浮かぶ。


その彼女であるが、風の噂に
ダーリンの親友ともうまくいかなくなって
家を出てしまったと聞いた。

これまた一体どういうルートからか
この噂を聞き付けたヨメ子の実家の母親が
泡をくって、ちほ〜家に電話をかけてきた。

実家母「ちょっと、ちょっと。大変よ !!!
    前の奥さんが『私一人になっちゃった...』とかいって
    あんたの家に転がり込んで来たら、一体どうするわけ ???」
ヨメ子「うわ、それ助かる。今、うち女手がたりないんだよ〜。」
実家母「.....................................」



迂闊な発言で
実母の不安を倍増させたヨメ子であった。

先頭 表紙

キコリ:来てくれたら、何頼もうかな...娘の遊び相手をしてもらおうかな...ついでにダーリンの面倒みてもらおうかな...。なんて、取らぬタヌキの皮算用...。 / ヨメ子 ( 2003-11-03 08:37 )
織姫様:ヤキモチとか焼けるなら、「余力有り」ってことですよね。まだ結婚して3年目なんですが、すでに自分の存在がいわゆる「女」でなくなっているのを感じるこのごろであります...。 / ヨメ子 ( 2003-11-03 08:35 )
蓬様:ああ、今うちにネコちゃんいてくれたらな...。実は、昨日通院途中に、産まれたばかりの赤ちゃんネコが道路脇にちょこなんと座っているのを発見。本当に連れて帰りたかったんですけど、助手席の「ああ、やだやだネコって」の声で敢え無く断念。車にはねられたりしてないといいんだけど...。ネコ、飼いたい〜。 / ヨメ子 ( 2003-11-03 08:24 )
蹴り子様:分身の術とか、不眠不休の術とか。教えてほしいですよね、平和利用なんだから...。 / ヨメ子 ( 2003-11-03 08:21 )
もしかしてもしかして本当にそんなことになっても、「うわ〜、助かります。前妻さん。バァバ様もよろこぶわぁ」なんておっしゃいそうな気がするんですけど、ヨメ子さんなら。 / キコリ ( 2003-11-03 00:12 )
その気持ち分かる気がする。 だって、我が家も婆と嫁・姑の戦いなんてやってる暇も、考えてる暇も無いもの。 / 織姫 ( 2003-11-02 16:09 )
忙しい時に借りたいのがなぜ、犬ではなく猫なのか、両方飼ってみて分かりました!猫は本当に起用に手を使う!一番忘れられないのは、旦那と大喧嘩してシクシク寝室で泣いていた時、どこからかやってきたうちの猫ちんが正面に座り、私の肩付近をトントンってしてくれた時!かなり励まされました。 / 蓬@ペットロス予備軍 ( 2003-11-02 15:18 )
そうだよね、女手欲しいよね〜私は分身の術が使いたかったもん。 / 蹴り子 ( 2003-11-02 15:07 )

2003-11-01 ...なこの頃...

バァバの具合が
坂を転げ落ちるように
悪くなっていきます...

どんな事態の中にも
「笑い」はあるんですよね...
でも、悪い方へ変転する状況の中から
「笑い」を探すのは、難しいです...

低めでいいから安定してくれれば
また笑えるんでしょうか...

泣いて
ボンヤリして
また泣いて...
そんなこの頃です...

先頭 表紙

kiha様、優しいおことば、ありがとうございます。本当に、ひまじんで日記を書いていてよかったな、と思います。おいしい石鹸の話、私も楽しみにしています。 / ヨメ子 ( 2003-11-02 14:42 )
ヨメ子さん、いつもこっそり読ませて頂いてました。ヨメ子さんとバァバの関係すごく暖かさが感じられます。大変な状況でしょうががんばってくださいね。 / kiha ( 2003-11-02 11:38 )
めぐみ様、ありがとうございます。あたたかいつっこみに励まされて、またがんばれそうです。めぐみさんのプロレス話をよませていただき、自分が某球団の応援のため神宮球場に通い詰めていたことを思い出しました。確かに、あの頃、自分の転機でした...。またまたお邪魔しますね。 / ヨメ子 ( 2003-11-01 19:40 )
はじめまして。一気に全部読ませて頂きました。毎日毎日大変だと思います。なのに、こんなに素敵な文章を書けるなんて、素晴らしいと思います。内容は大変なのに、くすっと笑えてしまうような文章、すごいです。寒くなってきました。どうかヨメ子さんのお身体、おいといくださいませ。また遊びにきます♪ / めぐみ ( 2003-11-01 13:04 )

2003-10-26 うっかりヨメ子

バァバは、寂しがりやである。
家族が外出することを極端に嫌う。
出がけに見つかれば、なじられる。
帰りがけに見つかれば、どやされる。

これらの攻撃を避けるにはどうしたらいいか、
みな考えに考えた末、辿り着いた結論は
「出入りに、玄関を使うべからず」
幸いなことに、ちほ〜家には、それまで使ってこなかった通用口があった。
そこから、こっそり出てゆき、こっそり帰るのがポイントである。

もしくは視点をかえて、
「バァバを一緒に連れて行く」
という手もある。
バァバは車に乗って外へ出ると、大変お行儀がいいだけでなく、
運転手に気を使い、乗っている間中ねぎらい続ける。

バァバ「本当に運転上手になったね。乗っていても安心だよ...」
ヨメ子「そんなことないよ。まだまだ下手だもの。」
バァバ「本当に、迷惑かけてごめんよ。運転なんてさせちまって...」
ヨメ子「いいって、いいって。」

帰宅後、車から部屋まで送り込む間も、本当に低姿勢である。
バァバ「悪いね。悪いね...」
ヨメ子「いいって、いいって。どっこいしょ。(タタキにバァバを上がらせてから)
    じゃ、車をおいてきたら、すぐ戻るからね。ちょっとまってね。」
バァバ「ごめんよ...ごめんよ...」

外出後は水分補給が欠かせない。
急いで車庫入れして、ヨメ子は家の中に駆け込んだ。
ヨメ子「さあ、お茶しようね〜。お菓子もあるからね〜。」


バァバ「こんな遅くまで遊び歩いて、挨拶もなしかいっっっ!」


し、しまった。
うっかり玄関から入ってしまった...

先頭 表紙

おおっ、先が見えましたか? キコリさん、すでにあなたはちほ〜家の一員です。 / ヨメ子 ( 2003-10-27 21:29 )
読みながらちょっと結末を予想してドキドキしてしまいました、、、、、やっぱりそうでしたか。。。。 / キコリ ( 2003-10-26 22:02 )
蓬様、ありがとうございます。実情は眉間にしわをよせて、余裕のない介護をしてます...とほほ。蓬様のかわいさ大爆発のネコちゃんたちに癒されました。私はネコが本当に大好きなんです。うちではジィジとバァバがネコ嫌いなもので、飼えなくて、悲しいです。これからも、ほにゃ〜とさせてもらいにいきますね。 / ヨメ子 ( 2003-10-26 20:43 )
新着日記からまいりました。あまりにもテンポが素晴らしく、ぜーんぶ読みきってしまいました。ちょっと違うんですけど私は父の看病の時にはヘロヘロで、もしも当時日記を書いていても、絶対にこんな風にはならなかったことでしょう。視点を少し変えるだけで、こういう描写にもなるんですよねぇ・・・。勉強になります。 / 蓬@はじめまして♪ ( 2003-10-26 18:07 )

2003-10-22 おそらく、バァバ譲り

子育てをしているせいか、ついつい、
ネット上の「早期教育」関係のサイトに目がいってしまう。

そこで必ず言われていることは、
「3才までは天才です。どんな言語をも受け入れる力があります。」
ということである。

早速、バァバがいない隙をねらって、
英会話のCDをながしてみたりするのであるが...

「ねえ、ねえ、ねえ。
 何いってんの?ねえ、何いってんの?
 何いってんの?ねえ、何いってんの?...」
と、ヨメ子がプレーヤーをとめるまで、延々と叫び続ける花子。

その個性の強さは一体どこからくるのか...
花子、2才の誕生日まで、あと1ヶ月。

先頭 表紙

ほっ、よかった。「うちの子はどんなにグズっていてもCDを流すと、静かになってうれしそうに聞くんです。そしてある日突然英語をしゃべりだして...」系のお話をいくつも読んだ後だと、我が娘が野獣のように見えてしまって(笑)。 / ヨメ子 ( 2003-10-23 07:20 )
へっ? それって普通だと・・・・。(笑) / 織姫 ( 2003-10-22 16:59 )

2003-10-20 深い...深すぎる...

バァバと花子は、絶対に二人きりにしてはいけない。
これは、我がちほ〜家の家訓である。

花子の首がやっと座った頃の事。
ヨメ子が台所で夕食の支度をしていると、妙な声が聞こえてきた。

「ぶ〜...ぶ〜...ぶ〜...」

ふと茶の間のリクライニングシートに座らせてきた花子のことが気になって
ヨメ子が扉を開けると、果たしてそこには、
花子の口の中に、タオルを押し込んでいるバァバと
呻きながら必死で抵抗している花子の姿があった。

「何やってんのよっっっっ!」
叫びながらバァバを突き飛ばして、花子を抱き上げるヨメ子。

「前掛けをしてやってるだけじゃないか...何をそんなに...」
と言いかけたものの、ヨメ子の恐ろしい形相に言葉を続けることができないバァバ。


痴呆介護は、奥が深い。
深くて、深すぎて、
はっきりいって底なし沼である。


今では、バァバに押さえ付けられても自力で逃げだせるほどに力をつけた花子。
お勝手に立つのも、随分楽になったはずのヨメ子であるが...
ある日のこと、いつぞやの悪夢が蘇るような声が、茶の間からまた聞こえてきた。

「ぶ〜...ぶ〜...ぶ〜...」

全身総毛立ったヨメ子が茶の間の扉を開け放つと、
果たしてそこには、
箪笥の奥に隠してあったジィジのへそくりを引っ張り出しているバァバと
ブルドーザーのまねをしながら、そのへそくり小銭を部屋中に押し広げている花子の姿が...


介護が深ければ、育児も深い。
二つ重なれば、ブラックホールである。

先頭 表紙

はい、笑って、笑って。 / ヨメ子 ( 2003-10-21 09:29 )
どうつっこみ入れて良いのか、悩んでROMしてしまうKOYUKI。でも影ながら応援してます〜。 / koyuki ( 2003-10-20 19:11 )

2003-10-18 確かに、初めて見た時は私もびっくりした...

ある日の昼下がり
バァバ「ヨメ子さん。私、これきれいに掃除しておいたけど、ちょっとみてよ。」
みれば、CDラジカセが、なぜかひっくり返しておいてある。

「みてよ」といわれたからには、ただ礼をいうだけではすまない。
ヨメ子は「うっわ〜綺麗になったね〜」といったものの、
その後のリアクションに困り、ひっくり返されたラジカセを元の向きに直してから
とりあえずボタンを適当に押した。

CDを入れるスライド式の受け皿がすうーっと出てきて、またすうーっと本体に戻った。
それを見て、目が点になるバァバ。
初めて見たらしい。

それからというもの、「すうーっ」が見たくなると、
CDラジカセをひっくり返して、
「ちょっと、これ掃除したよ」とヨメ子を呼ぶバァバであった。

先頭 表紙

2003-10-15 コスモスの揺れる丘(1)

ここのところ、急激にバァバの体機能が衰えてきた感がある。
そこで、新しい病院で検査を受けることになった。

小柄な女医さんは、紹介状とCTスキャンの画像をぐる〜っと眺め回してから、
大きなため息とともに言った。
「で、何がお望みなんですか?」

ヨメ子「何がって...その、足が出なくなってきたので、リハビリをさせたいと思いまして。」
女先生「つまり、『リハビリすればよくなる』と思ってらっしゃるわけですか?」
ヨメ子「いえ、そんなことは...とにかく悪化を少しでも遅らせることができればと...」
女先生「遅らせるとかなんとか、そういうことは考えない方がいいですよ。
   (バァバを指差して)こっちはもうどうにもならないんですから。
    それよりも、あなたたちが少しでも楽になることを考えた方がいいです。」

すわ『バァバ大爆発!』と、青ざめるヨメ子。
しかし、初めての診察室で緊張したのか、あたりをキョロキョロ見回しているバァバ。
どうも話を聞いていないらしい。

ヨメ子「(ほっとして)...最近足が出なくて、車椅子や便座への移乗が難しくなって来まして...
    以前のように少しでも動くようになれば、介護も楽になるのですが。」
女先生「だから、さっきも言ったけど、リハビリしてもよくなりません。
    どんどん悪くなるだけです。」

再び青ざめて、バァバの様子をうかがうヨメ子。
しかしバァバは話に興味がないようで、悠然と鼻をほじっている。
ヨメ子「はい、わかりました。でも、前から歩行のリハビリさせたかったんです。
    やってみて無理だとわかれば、それなりに諦めもつきますし...」
女先生「『させたかった』っていうけど、誰がさせたいわけ?」
ヨメ子「それは...家族とか...もちろん本人もやりたがってますし...」

「本人にそんな判断力あるわけ?」
そういって、女医さんはバァバを横目で見た。
バァバと先生の視線が会う。
今度という今度は...


バァバ「先生、どうにかコロっと直る方法はないかね。」


答えにぐっと詰まる先生。
バァバを無視して、話を続けようとする。
女先生「リハビリすれば、家族が納得できるってわけなのね。」
ヨメ子「...そういう風にいわれてもしかたないかもしれませんが...」
バァバ「先生、どうにかコロっと直る方法はないかね。」
女先生「リハビリじゃなくて、デイケアを増やすとかしたほうがいいんじゃないの?」
ヨメ子「あの...それはもう限度額一杯やっているんです...」
バァバ「先生、どうにかコロっと直る方法はないかね。」
ヨメ子「あの...やる気があればさせてもらえるって聞いたんですけど...
    やっぱり難しいでしょうか。」
バァバ「先生、どうにかコロっと直る方法はないかね。」

腹に据えかねた先生は、バァバをニラんで大きい声で言った。
「ないよ、そんな方法!」

しかしバァバの追撃は止まない。
「そんなこといわないでさ。先生、どうにかコロっと直る方法はないかね。」

それを聞いた先生は、ビリビリッと机の上にあるノートを引き裂いて、
その上に恐ろしい勢いで何かを書きつけた。
「全く...どうにだって書けるんだよ。処方箋なんて...」
そして先生は立ち上がり、
「あたし、これからリハビリ室に行ってくるから。」
と言い残して、ドアをバ〜ァンと閉めて出て行ってしまった。

(続く...)

先頭 表紙

2003-10-15 コスモスの揺れる丘(2)

事の成りゆきを理解できずにいるヨメ子に、
それまで黙って聞いていた看護婦さんが駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。あの先生、いつもあんな風にキツイ言い方なの...気にしないでね...」
そしてバァバの手をとると、
「よかったわね、お婆ちゃま。次からリハビリが始まりますよ。」
「そうかい、先生はなんか難しいようなこと言っていたけど。」
「いえいえ、お婆ちゃまがヤル気満々なので、先生がリハビリの処方を出してくれたのよ。」

しばらくして先生は部屋に戻り、何ごともなかったかのように言った。
「リハビリ室が開いていますので、今すぐ行って下さい。
 今後の予約は、リハビリの担当者と話し合って決めて下さい。」

ヨメ子とバァバは、先生と看護婦さんに深々と頭を下げて診察室を出た。
リハビリ室に向かう長いスロープの途中で、バァバがポツリと言った。
バァバ「なんか、あの先生、こわかったね。」
ヨメ子「うん、機嫌悪かったね。.....お昼前で、お腹すいてたのかな...
    それより、リハビリできるようになって、よかったね。
    バァバは頑張り屋さんだから、どんどん歩けるようになるね。」
バァバ「うん。どんどん歩けるようになるよ。」


しばらく沈黙の後、バァバは思い出したように付け加えた。
「そしたらね、丘のコスモス、一緒に見に行こうね。」


キツイ言葉には慣れていても、
優しい言葉に耐性のないヨメ子。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のまま、リハビリ室の扉を開けた...


(完...)

先頭 表紙

koyuki様:今思い出したんですけど、一言も病状の説明とかなかったんですよね...なんか、あまりに凄まじくて、文句もでないほどでした... / ヨメ子 ( 2003-10-21 09:29 )
マイ様:私もマイさんの日記にぴょーんと行って、リフレッシュしてきました。今後とも、どうぞ一緒に笑って下さい。 / ヨメ子 ( 2003-10-21 09:27 )
(* ̄ii ̄)(* ̄i ̄)(* ̄  ̄)ズズズ(* ̄ii ̄)ブー ええ話や〜。でもその先生にパンチを入れてやりたいわ! / koyuki ( 2003-10-20 19:10 )
私はつい最近ヨメ子さんの日記にどこぞから(笑)ジャンプしてまいりました。あまりにも壮絶で、それに比べて、ぬるま湯だな。私。とつっこみは差し控えております。今後もそうだと思いますが、日記は楽しみに(すみません)読ませていただいてます。 / マイ ( 2003-10-20 14:36 )
優しくしてあげたいのですが、実際の介護の場面では慢性的な不機嫌状態です...でも、キコリさんの織っていらっしゃる優しく美しい布をまとったら私も変われるかも... / ヨメ子 ( 2003-10-19 01:52 )
初めまして。以前から読ませていただいていました。ヨメ子さんの優しさがバァバさまにはちゃんと伝わってるんですね、きっと。 / キコリ ( 2003-10-19 00:00 )

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