私は叔父が嫌いだった。
叔父と言っても父の妹の結婚相手なので血の繋がりはない。
父の兄弟は仲良しで毎月集まっていたのだけど、その度に叔父は大酒くらっては誰かに絡んでいた。
そんな叔父を唯一かばい続けたのが父だった。普段は瞬間湯沸かし器のごとく怒りっぽい父が叔父にだけは寛容だった。馬があったのかな。確かに社会人としては立派な人だったらしい。
でも、私の知っている叔父は叔母を困らせる嫌な人間でしかなかった。
あるとき祖母が私に言った。
「あの子には可愛そうな事をした。本当はね、もう一人からも求婚されてたのよ。それを私が『この人のほうが出世するから結婚しなさい。』って押し付けたの。そのせいであの子は苦労をしょいこむことになった。」。
祖母の考え通り叔父は出世街道を驀進した。三人の娘を私立に通わせ、妻はブランドで身を固めていた。でも見方を変えたら。日付が変わってようやく泥酔状態で帰ってくる夫。週末は接待ゴルフで不在。私だったらそんな生活耐えられない。
従姉妹は言ってた。
「パパはママさえいればいいのよ。ママが大好きなの。娘はどうでもいいの。」
果たして叔母の方はどうだったのか・・・。
叔父がお酒に溺れた原因は案外そこにあったのかもしれないとふと思った。
自分が思うほど相手に愛されていない。その空虚感が叔父をダメにした?
あまりの酒癖の悪さに、家庭内別居を始めた叔母に無邪気を装って言った事がある。
「別れちゃえばいいのに。」
叔母は答えた
「おばあちゃんが生きているうちは別れられない。」
その数年後、深酒が原因で叔父は亡くなった。
そんな叔父だったけど、唯一、懐かしい思い出がある。
北海道出身の叔父の家に行くと他では食べられないものが口にできた。
ドーム型の鉄板に肉を敷いて、下の溝には野菜をたっぷり。
そう。ジンギスカン!
牛とは明らかに違う野趣あふれる味で、まるで異国の食べ物みたいだった。
子供の頃の私はそれを食べるのがとても楽しみだった。
大人になってからいざジンギスカンを食べようと思ってもなかなかそんなお店は見つからなかった。
東京で普通にまともなジンギスカンが食べられるようになったのはつい最近のこと。
このところツレが出張のお土産で毎週のようにジンギスカンの肉を買ってきてくれるのだけど、それは、まろやかで優しくて。
美味しいには違いないんだけれど、上品な美味しさなのだ。私が知っていたあの味とは違う。
そのたびに、私は叔父のジンギスカンが恋しくなる。
もう食べられない。
※痛々しいしもやけ。ていうか、私ってこんな顔だったのっ?! |