先週届いた白い薔薇が綺麗に開ききったので、いつものように花びらをむしった。
教えてもらったとおりに、剥いた花びらの中に手を埋める。
しっとりと重く、指に絡みつく。
ふわりとすべらかな花の膚を、いつもより丹念に撫でた。
その、柔らかくつめたい感触を、わたしは知っていた。
祖母の膚だ。
祖父の死後、祖母に痴呆の症状が表れてから、10年近くが経った。
ゆるやかな進行は、気高かった祖母を激しく痛めつけ、最も身近にいた伯母をも同時に苦しめた。
現在の祖母は、コミュニケーションを取ることがかなわない状態だけれど、顔を見れば、その心は凪いでいるように思える。
病室から見える、海のように。
日本にいたころ、週末になるとよく、兄とドライブがてら、祖母に会いに行った。
祖母のために作られた好物を持って。
わたしが離日するころには、花を持っていくことは許されなくなっていた。
彼女はもう、花を花だと認識することができなかったので。
いつも何かを耐えるように、指をぎゅっと握りしめているので、腕を撫でたり、指を開かせてマッサージをする。
白くつめたい皮膚は、薄い膜をはったようにすべらかで、つややかだった。
死蝋とは、こういう状態なのかな、と不謹慎にも思っていたけれど、これからは、花びらのようだと思おう。
さんざん、花びらを指に絡ませた後、ぎゅっと手の中に握り込むと、最後につよく香った。
伯母が贈ってくれたブレスレット。
祖母の古いアクセサリを、作りなおしてくれたもの。 |