兄が独立し、父と母がふたり暮しを始めて、数カ月がたつ。
彼らにとって、はじめてのふたり暮し。
両親にとって、優先されるべきものは、常にお互いなのだろう。
こどもは、ふたりの間にある、しかしまったく別のもので、混同されることはなかった。
それが、わたしにとっては当たり前だったので、なんとも思わずに来たけれど、今は、そんな両親で良かったと思う。
こどもがいなくなった後の家が、美しいものであってほしいから。
小さい頃、時々、仕事の終わった父は、母を夜の外出に誘った。
母は、わたしに夕食をとらせたあと、念入りに化粧をし、髪を整え、香水をひとふきする。
美しい下着を纏って。
それから、するりとした洋服、たいていはワンピースでたまに細い細いスカートとブラウスかニット、を選ぶ。
迷った時の、眼を瞑って思案する、その光景を見ているのが好きだった。
行ってくるからね、と、わたしの頭を撫で、注意すべきことを指示して出かける母の、少しうわのそらな貌も。
わたしを連れて出かける時の支度とは、どれもこれも違っていたので、いつも思っていた。
夜のお出かけは、どれくらい素敵なことなんだろう、と。
恋人達の家にお邪魔する、夏はもう、すぐそこに。 |