2003-10-21 陶都の美文
2003-10-17 虱に浸かる
2003-10-13 おかえんなさいまし
2003-09-25 タイムマシンを見た
2003-09-12 転職済み
2003-09-01 「おはよう」
2003-08-21 大漁
2003-08-20 言葉の持つウソの隙間
2003-08-18 流浪　２０　　星々は見下ろす
2003-08-17 包む

十年程前まだ学生の頃、僕は風呂のない家を借りて住んでいました。
風呂は必要です。友人に風呂を使わせてもらったりもしていましたが、それまで幼少の記憶も定かでない頃くらいしか行ったことのない銭湯に行くことを思いつきました。

さっそく電話帳を開いて住んでいる町の銭湯を調べてみたのですが、残念ながら一軒もありませんでした。
しかし隣の瀬戸には十軒も記載がありました。
そこで焼かれたものでない物まで「せともの」と呼びならわせるほど窯業が古来より盛んな土地柄です。言うなれば古い歴史からの工業都市とでもいったところでしょうか。
ですから瀬戸の人は自分たちの住まう土地を誇りをもって「陶都」と呼ぶこともあります。
それはともかく、工業都市に労働力としてさまざまな土地から雑多な人々が集まるようになるのはかなり時代も下ってからのことでしょうが、昭和、あるいは明治大正以降、そこで働く人々にとって銭湯は重要であったに違いありません。

早速電話帳に書かれた住所と地図を頼りに僕の銭湯めぐりが始まったと思ってください。
全軒回るのに一月弱はかかったように思います。

最近また銭湯のお世話になっています。

一番のお気に入りとまではいきませんが、僕の中でかなり上位に入る銭湯に一週間振りくらいで行きました。再び銭湯に通うようになって三回目くらいです。

ふと毛筆で手書きの掲示物が目にとまりました。
そこにはこう書いてありました。

「ご挨拶

銭湯（玉の湯）として一〇〇年近くも公衆衛生業を続けさせて頂きましたことを衷心より感謝お礼申上げます。
長い年月を経て、建物の老朽化と時代の流れの変化に対応できず、いかに努力しても経営不振のため将来の明るい希望と展開が見当らない現況です。ここに甚だ勝手ですが

十月三十一日、閉店、廃業、

させて頂きます。
お客様には大変ご迷惑をおかけしまして申訳ありません。
あらためて、長い間のご愛顧に対して厚くお礼申上げます。

　　平成十五年十月

　お客様

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　玉の湯」


けして達筆でもないし書かれた内容はある意味悲惨で哀しいものですが、僕はこれを美しいと思って読ませてもらいました。丁寧な言葉遣いが少しも慇懃無礼なものにならず、気持ちが乗っています。

お爺さんも番台に座っていますが、若い方のご店主と思われる方に十年前は電話帳に十軒載っていたのに八軒しかありませんでしたねと話し掛けると、そうでしたねえと答えてくださいました。
こちらのお店が閉まれば瀬戸の銭湯は六軒になるそうです。

とすればこの十年の間、瀬戸の銭湯は一軒しか閉店してはいなかったのですね。これには軽く驚きましたし嬉しかった。しかし僕が閉店したことを知っているのは僕の一番お気に入りのお店でした。そしてまたお気に入りの銭湯が廃業してしまいます。

またひとつ僕たちは、けしてお世辞にも手放しで大仰に素晴らしいとまでは言えないまでも、古くていいものを失ってしまうのです。

営業の最終日はこれまで日頃の利用に感謝して無料ということです。
近在で興味のある方はご自分で電話帳を開いて行ってみるのも一興かもしれません。
瀬戸市の国道３６３号線沿い、東古瀬戸町の信号より少し名古屋寄り、刎田郵便局の近くです。

僕としては、無論無料の日にこの銭湯が賑わうこともよいでしょうが、出来れば有料の日に訪ねてもらえたら幸いかと思います。
そんなことをしても「経営不振」に対しては焼け石に水というものでしょうが、こうしたことはこころざしではないでしょうか。
そう思います。

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僕は銭湯、好きです。
今夜も行ってきました。

スーパー銭湯よりも昔ながらの銭湯の方が好きなのですが、今夜行ったのはその中間のような所。
サウナもある。
サウナの後は水風呂にドボン。
これがまた爽快。気持ちいい。

しかしそこの銭湯の水風呂の表示のプレートは文字の一部が欠けてしまっていて、「水虱呂」、なのですね。
水虱のたっぷりとした箱にひたひたに浸かることを想像してみる。

ああ恐ろしい。

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一昨日、海月の実家のご両親にずっと預かってもらっていた陸丸君を迎えに行ってきました。
おかえり。

今度機会を作って海月と一緒にお父さんお母さんに会いに行こうな。
ずいぶんお世話になっちゃったな。

散歩めんどくせえ。眠いし。

でも昨日、久し振りに目的もなく歩いてとても気持ちよかった。
ありがとよ、陸丸。またよろしくな。

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大変ご無沙汰しております。皆様いかがお過ごしでしょうか。
僕は体きしきし言わせながら日々働いております。

今日の夕方、下校している小学生の男の子が傘をさして歩いているのを見て僕はとても幸せな気分になりました。

折り畳み傘を逆に開いてラッパみたいにして歩いてるの。可愛いの。

やったやった。俺も昔やったよ。

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これまでデスクワークだったので体がついていかなくてしんどいのです。

でも精神的な疲れは一切なくなりました。
もう二度とタクシー会社の無線室勤務なんかやりたくないなあ。

ありゃえらかった。

今は体えらいけど、そんなん心病むのに比べたら何もないのとおんなじだわ。

勤務１１日目終了休み未だ無し。
でも気持ちいいぞ。

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「いってきます」と言って電話を切る。

家を出る。

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じゃなくて。

退寮。おうちに帰れるのだ。

晴れて田舎モンに逆戻り。ほっといた家に蔓延る黴との戦いが始まる。
そんなこんな色々正味面倒くさいけど、それでもやっぱ戻れる方がいいや。

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本当のことを言おうと努めても、言葉にした時点でもう、その本当のことそのものとは異なってしまっている。

どんなにたくさんの言葉を費やしても、逆に簡潔に言い当てたつもりでも、それはある意味すでに嘘。

言葉はまた発する側と受け取る側の間を伝わる間にも微妙な温度差を発し微妙な変容を遂げる。
あるいは激しく変容する。

であれば。

伝えようとして結果嘘になってしまうようなら、別に嘘でもいいじゃん。

君は嘘吐きじゃないんだからさ、多分。

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ってきた兎に蕪の汁だ。こんな話をしながらも飯は美味かったりするから不思議だ。男が笑ったので僕は救われた思いがした。お前はしかしうまいこと狩りをする、今度猟師に紹介しておこう。そういうことを言いながら、小さな弓矢で雉や兎を狩ることを僕に教えてくれたのはこの男だった。僕は男に微笑み返した。ここはどこにもいられなくなったような人間が、それでもやっていく場所を与えられる、そんなところなんだが、そういうところでも自分の役割を得ることがうまくいかなかったり役割を得ることをどこかで拒んだりするような奴も、たまに混じるんだ。たまに。ああ、たまに、な。あの爺と娘が今のところそうした風だな。そういって男は僕の顔を真正面から見つめた。それと、お前もだな。僕は男の言葉がそのように続くのではないかと思ったが、男はそうは口にしなかった。僕の方こそこの場所にいて、特に拒むつもりもないが自分が何らかの役割を与えられているとは感じられなかった。しかし。親爺が役割を得ることが出来ず娘が拒んでいるのか、それともその逆なのか。僕は自分のことではなくそちらについて考えてみたけれど、よくは判らなかった。それきり二人とも黙ってしまった。ぎしぎしと水車の回る音だけが聞こえる。男の寡黙は心地よいが、柄にもなくよく喋る男というのも心地よかった。話の内容は心地よいなどということからは程遠い内容だったが、男の中の優しさに触れるような語り口だった。流れで彼が自分自身のことをも語ってくれるのではないかと軽く期待したが、その期待は裏切られた。それでも別に構わない。彼もまた何かに傷ついて、あるいは何かを傷つけてこの里にやってきたのだろうが、この男は、優しい。男はあの親爺を赦してはならないと知っていながら、どこかで赦している。僕は自分があの親爺を赦せないと言えるような人間でないとどこかで知っていながら、あの親爺を赦せてはいない。それを思い知らされる。二人は黙って食事を終え、質素な食事の後片付けをしてそれぞれ床を設えた。ようやく重い沈黙ではなく快い寡黙が下りてくる。明日も早いぞ。はい。床に就くと、水車の音が大きくなったように感じた。僕は今日の出来事について判断できる材料もないままにはあまり考えたくなかったはずなのに、どうしてもつらつら思い返されてならなかった。里がどういうところなのか。それまで深く考えることもせずになし崩しに受け入れてしまっていたことについても考えさせられた。それでも仕事の疲れからか、割り合いすぐに寝てしまった。寝入りばな僕は考える。明日も早い、か。小屋の外ではきっと星辰が僕ら夜に眠る者どもを見下ろしている。そのことは僕をとても安心させた。水車の軋む音がする。ここに来てよかった、と思った。夜は眠るものだ。そして明日もまた陽が昇る。起きたら土を練る前にまず猫車の金輪を直さなければならない。そんなことを考えているうちにいつのまにか寝てしまったようだった。目を覚ました僕は小屋の外に出ると顔を洗い米を研いだ。太陽はまだ見えないが、よく晴れている。明るい陽の光に隠れてしまって姿こそないが、それでも星が僕を見下ろしていることを感じる。小屋に入り囲炉裏にくすぶっている熾火を起こし、火から外しておいた鍋を自在に掛ける。珍しく男はまだ寝ている。喋り疲れたな。そう思うと少し笑えた。竃に火を起こし釜を掛けてあらためて表に出た。土場に行き鋤簾で赤土をつついてみる。すさはよく腐っている。からからに乾いているので桶で存分に水を打っておいた。赤土の横に積み上げているかわらけと石くれを検

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「眠る時に丸まるとつい右側を下にする癖がある」
と言う。
僕もそう。だから腕枕をする時は自然と右腕を使うんじゃないか。

何が言いたいのかと思っていると、さらに「だから自然にしていると向き合って眠ることが出来ない」と言う。「腕が痺れたり痛くなったりしない？」

なんだ、そんなことなら大丈夫。腕は痛くも痺れたりもしない。
君は僕より小さいから、後ろから抱いて包み込むようにすれば何の問題もない。

包んで、包まれて、眠る。
おやすみ。

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