美術館から我が家まで、ちょうど良いバスは日曜運休なので、ぶらぶらしながら帰宅することにした。
ちょっと雑誌でも見ようかと店に入ったのが運の尽き。
ぽつりぽつり、と来てしまった。
少し休んで上がるのを待つか、と一誌を選び、向かいのカフェへ。
雨の上がる様子もなく、その上雑誌はハズレで、ガラス越しに外を眺めながら10月のことを思った。
10月。
どうにかして日本に行くつもりだったのだが、夏に非常識なほど日本に長逗留してしまったのが祟り、実現できなかった。
もう、一泊も出来なくてもいい、とまで思ったのだけど、結局それも無理で。
せっかく確保してもらったチケットも無駄になってしまった(実際には『無駄』にはならず、有効活用されたらしいが)。
しかも、休みをもぎとろうと頑張りすぎたせいか体調も崩してしまい本当に散々だった。
一夏を日本で過ごしたのはもちろん理由があって、その結果も予想以上に出て、今後のわたしの活動において、ひとつの重要なポイントになったと思う。
パリでできること、やりたいこと。
東京だからこそできること、やりたいこと。
その相違点もクリアに見えてきた(気がする)。
仕事とは別にたくさん遊びもした。念願の四国にも行けた。
展覧会を開いたことで、何年も会っていなかった人々とも再会できた。
実家の改装ももちろんしたし(完成は見ていないけど)、
美味しいものもたくさん食べた(忙しくてあまり身にできなかったけど)。
従兄姪がすっかり少女らしくなっていたり、友人の会社が一部上場していたり、母が仕事を辞めていたり。時間は着実に刻まれているのを強く感じた。
そんな、一言でいえば有意義な夏を、ここ数年では一番充実していたと言える夏を堪能しておきながら、それでもやっぱり悔いてしまうのは……。
すっかり暗くなっても雨がやむ様子はなく、襟を立て、マフラーをぐるぐるに巻き、手袋をきっちりつけて隙間をなくし、足早に帰路につく。
髪とジーンズの裾を濡らしつつ、雨で冷たくなった唇を舐めてもマティーニの味なんかしないよ、なんて思いながら。
熱いシャワーを浴び、カップに注いだグレンモーレンジを飲みながらCDをかけた。
ばんばんばーんばばばんばんと口ずさみつつ、濡れたコートのポケットに入っていたしけたタバコを吸ってもオリーブの味なんかしないよ、なんて思いながら。
回廊で。
雨の気配もない午後。 |