2002-03-31 白いアスパラ。
2002-03-28 爪先から。
2002-03-20 ３月生まれ。
2002-03-16 Tout est bien?
2002-03-08 伝説ノ。
2002-03-03 バスローブとすみれ、麻のシーツ。
2002-02-10 喪の色。
2002-02-01 ミント　チョコレート。
2002-01-30 月の命ずるままに。
2002-01-27 １月のチェリー。

眼が覚めて、カフェとミルクを温めながら、時計を一時間進めた。

進められた時計が示したのはもう正午で、熱いカフェオレを舌を焼きつつ飲んで、いそいで顔を洗い、着替えて外に出た。



少し忙しくて、ご無沙汰だった朝市へ。
買い物をしながら朝食がわりにじゃがいものガレットを食べたり、サンギーヌのジュースを飲んだり。

調教されていない野菜や果物は不格好だけど、やっぱり香りが濃くていい。
泥のついたじゃがいも、人参。
すっぱい苺。
アスパラガスだけはまっすぐに伸びた形のいいものを。

白いアスパラは春のもの。
厳しいランクづけがあって、細いのや曲がったのや、色がついてしまったのや短いのは、美形のものよりずっと安価なので、わたしはいつも買うのはそれ。

形がいいものを選ぶのは、シーズンに１度か２度。
春の贅沢。







自慢？のアスパラガス。
軽く茹でて、卵のソースと。
実はお客さま用でした。

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まだ風は時々冷たく、夜の空気はしんとしているけれど、春だ。


コートはすっかりクロゼットの奥に納まっていて、もう一ヶ月も手を触れられずにいる。
取りやすいところにあるのはオフホワイトの革ジャケットと、薄いラヴェンダーグレーのスプリングコート。

ブーツも、たぶんもう履かない。
かわりに出したのは、スモーキィな青のオードリィ・シューズや花のついたミュール、それから新しい白いストラップの靴も。


うきうき気分が盛り上がり、爪先の出るサンダルまでどこからか出してきて、今年の試し履きをした。
そして、やっぱりPedicure Medicalに行かなくちゃ〜、と思った。
毎年のこと。






本当は部屋の中では素足でいたいけれど、まだ寒い。
ソックスを履いた足には、新しいバレエシューズは、まだ革が固いせいもあるけれど、少しきつくて、きゅうっとする。

その、爪先が少しずつ柔らかくゆるんでいくのは、和三盆糖のように固い早春の空気がほろほろと解けていくのに似ている。



今年は、懐かしいピンク色。
"Lepetto"

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５月なんて、あまりドラマティックじゃない月に生まれたせいだろうか、昔から早生まれというものに憧れている。


１月生まれは、まっすぐで清新な魂の持ち主。

２月生まれは繊細で、か弱いほど優しいけれど、それは強さに裏打ちされたもの。

３月生まれは中でも特別。
傲慢なほど魅力的で、わたしはつい、すべて塗り替えられそうになる。





１１日の夕方、電報を打った。
１２日の朝を指定して。
前の週のうちにカードを送る予定が、忙しさにかまけてすっかり放っておいてしまったのだ。
メイルじゃ、いくら何でも普段通りすぎて味気ない、そう思った。

内容を伝えると、Grosses Bisesと入れたら？と言われ、わたしはその通りに頼んだ。
そういえば、小さい頃、ありがとうやごめんなさいや、ごくたまにいってらっしゃいやお帰りなさいを言う時、頬と頬をぴったりくっつけるのが「決まり」だった。

いつから、それをしなくなったんだろう？

懐かしくなるほど遠く感じて、少し途方にくれていると、次に会えた時に会えなかった時間の分もすれば良いことよ、と慰められた（？）。
それもそうだ。
遠くなったわけじゃないんだから。






Bon Aniverssaire,PAPA.
そして、あの方へも。

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その朝、朝食室へ下りていくわたしたちに、ホテルのマネージャーが声をかけてきた。
渡された新聞の一面の、ほぼ半分を占めるカラー写真。
一瞬、わけがわからなかった。
早めに発った方がいいでしょう、という声を背に朝食室へ入り席について新聞を読み出した。まるで現実とは思えなかったけれど。

マネージャーは勘違いしていたが、その日の移動はエアではなく列車だったので、テルミニ駅の警備がいつもより少し多い気がしたけれど、ほとんど日常のままだった。

フィレンツェも同様だった。
橋の上の宝飾店が軒並み哀悼のメッセージを貼り出していること、美術館の入場待ちで、わたしたちの前に並んでいるアメリカ人が熱心に新聞を読んでいたこと以外は、いつもと変わらない。
多くの観光客達は、いつもと変わらず旅を楽しんでいるようだった。
もちろん、わたしもその一人。
自分に少なからず影響を及ぼすであろう重大な事件が起きていても、それとは別に「楽しむ」ことができる。
それを知った。

ホテルに帰ればすかさずニュースをつける。
そのたびに、両親とわたしはそれらのことについて話し合った。
その時は確かに真剣だった。
心の底から憂いていたし、恐ろしかったし、悲しかった。
たとえ、その午後に買ったフェラガモの靴が部屋の隅に転がっていても。
３０分後にピンキオーリに行くためのタクシーが来る予定だったとしても。

結局、有事だと言うことを意識したのは、パリのエアポートに両親を送っていった時くらいのものだった。
ド・ゴール空港では、いつもならほとんどしない出国時のコントロールが、しっかりなされていた。
その後、トゥールーズで爆弾テロがあったが関連はなかった。
不安は多少あったが、結局何をするでもなく、いつも通りに過ごしていた。
何かしたい気持ちもあったけれど、何もしなかった。




引っ越しが終わってから、パリが舞台のミステリを読み返していた。予想以上に刺激的な再読だった。
そこでは、悪とそれに抵抗することの是非が問われていた。

悪への抵抗の仕方に悩む女に探偵は「すべてを承認することだ」という。
「善も悪もない。運命という大河だけがあり、この流れだけを凝視するその時、人は、歓びと安らぎに満ちて呟くだろう。＜Tout est bien＞と。」

Tout est bien.
すべてよし。

強さからこう言える人間がどれだけいるだろうか。
弱いものにとって「甘い蜜」になりはしないだろうか。
少なくとも、わたしが今、「すべて世はこともなし」と言ったら、それはいろいろなものから眼を反らした結果に過ぎない。
作中に答えは見つからなかった。







『サマー・アポカリプス』　笠井潔　1981年

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わたしの部屋は、かつて女や友情や薔薇や絶望と同様に、言葉を尽くして語られた。



ちょっと大袈裟だけど、あまりにすごいのでいろいろな形容をされたのは本当のこと。
お酒の席ではかならず出るし、比喩にも使われる。

そんなわたしが小さい部屋に引っ越すというのを聞いて、驚かれたり心配されたり予言されたり賭けられたり眼を逸らされたりした。

あんまりいじめられたので、意地になって整理整頓、掃除に専念している。
というより、さすがのわたしも片付けずにはいられないだけだったり。

そんなこんなで結構すっきり暮らせている。
今のところは。


ひとつ証明されたのは、わたしには何らかの制限が必要だということ。






スマイリィと掃除。

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すっかり暖かくなったと思っていたのに、引っ越し直前になって寒気団がやってきた。

少し後退した季節の中、古いドライヴィング・グローヴを填めて荷物を作る。
再来年まで終わらないかと思ったけれど、何故だかどうにかなり、友人で最後の夜を過ごし、翌朝早くTGVで移動した。

新しい部屋は、今までのアパルトの半分以下の広さ。
5階の屋根裏部屋なので天井も低い。
エレベーターもないし、正直言って、かなりのレヴェルダウンだけど何となく許せてしまう。
そんな部屋だ。



荷物をあらかた片付けたあと、一番に買いに行ったのはバスローブとベッドリネン。

バスローブは当然ワッフル地で、フードのついてるもの。
袖口とフードだけタオル地で裏打ちしてあるものを見つけたので、それに。
リネン類は生成りの麻。
年中無休で、やっぱり麻。





引っ越し記念にたくさん花を買いたかったけれど、大荷物でとても持てそうにないので、ヴィオラをひと束。

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１５歳になったばかりの初夏に、わたしは心身共に壊れかけて日本に帰った。


籍を置いていた中学校に戻る手続きをしたあとも、何をするでもなくふらふらしていたわたしを心配して、わたしを育ててくれた人が引き合わせてくれたのが彼だった。

ちょうどひと回り年上の彼はまだ大学に残っていたため時間もあって、ひと夏をほとんど一緒に過ごした。

そして、わたしたちは、秋には一卵生の双児のようになっていた。
弱いところがよく似た双児。



そのあと一年半くらい恋人のように一緒にいろいろなことをして、あとは心中くらいしかなくなったので、それぞれ自立しましょう、ということになった。

彼は２歳年下の素敵な恋人を見つけ、わたしは初めて同じ年の女の子の友達を作った。
彼はわたしの友人を娘婿のように歓待したし、わたしは彼の恋人に可愛がってもらい、それは本当に完璧だった。


完璧すぎたせいかもしれない。
わたしが１９歳の２月の終わりに彼は自殺した。

お葬式は、彼の弟のパトロネスが取り仕切ってくれ（彼ら兄弟は早くに両親を亡くしていた）、彼の一家に馴染みの深い教会で行われた。
彼の恋人は最高に優雅な黒い喪服を着て「喪服を着た女の美しさ」を教えてくれ、わたしは喪服を持っていなかったので、濃い紫のワンピースと白い下着を身につけた。

無感動に、泣くこともなくただ吐き気を堪えながら立っているわたしの、ワンピースの腰のところを握りしめた彼の恋人の白い指。
彼が死んだことより、そっちの印象の方が強く残っている。



小説も音楽も映画も。
数学も物理も世界史も。
お酒も煙草もセックスも。

すべて彼が教えてくれた。

今、ここにいるわたしは、きっと、彼の生きた残り滓のようなもの。
それは鬱陶しいほどに優しい夢想。

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１２月の終わり頃、日本から送ってもらった小包には、ミントチョコレートが入っていた。

本物のミントの葉のような、小さいチョコレート。


わたしが認識した、最初の「チョコレート屋さん」であるそのお店は、そういえば内装もパッケージもミントグリーンだったな。

散歩の途中、いつも寄り道した。
席について休憩することもあったし、一番小さい包みを買って公園で食べることもあった。
もちろん、歩きながらも。

お友達の家に遊びに行く時、小さい箱のを持たされたことも懐かしい。
お泊まりで、夜中にこっそり食べるのは、なんだか悪いことをしている気分でものすごく楽しかった。


口に含むと、いろいろなことを思い出した。
優しいことばかり。
それなのに、いつも通りにいれたお茶がいつもより苦くて、その分だけ切なくなった。







チョコレートはぜんぶ食べてしまったので、代理。

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人間は、太陽より月と生きる方が自然なんだって。


何でも、月の影響を受けて行うのが成功の秘訣？

健康も、
園芸も、
ダイエットも、
…………………………株式も？？？



毎晩、明日はどんなだろう、とページを捲る。

３０日は、『不機嫌と不眠に気をつけなさい』とのこと。
『Kawa-kawaを飲むように』とも。

Kawa-kawaはないから、黒胡椒のチャイを代わりに。







"Guide 2002 de la lune"
Paul Ferris

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山形に住んでいる祖父母が必ず送ってくれるので、幼い頃からさくらんぼには不自由したことがない。
だから、断然贅沢でうるさいの。

完熟の佐藤錦に比べるとこちらのものはどうもね、なんて斜に構えていたのだけど、昨日買ってきたのは、味が濃く香りも高い、水っぽくないのにジューシィな、それは素敵なものだった。

初夏には鬱陶しくなりそうな濃厚さ。
一月の終わりがぴったり。







とろりとしたバーガンディ。
昨日の夜、いつもより丁寧に塗ったペディキュアと、同じ。

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